第18話「体育祭前日」
体育祭前日。
放課後の校庭は、いつもよりずっと賑やかだった。
「テントこっち運んでー!」
「ライン引きまだ終わってないぞ!」
「リレーのコース確認しとけよ!」
僕――早見孝介は、
ほぼ治った右腕を気遣いながらも、
設営の手伝いに参加していた。
「早見、無理すんなよ」
「腕、まだ完治じゃないんだろ?」
「大丈夫だよ。
これくらいなら問題ない」
そう言って、テントの支柱を持ち上げる。
右腕に少しだけ痛みが走るけど、
もう顔に出すほどじゃない。
ふと校舎の方を見ると、
白石乃愛が友達に囲まれていた。
「乃愛、今日ショッピング行くんでしょ?」
「体育祭の髪飾り買うんだよね!」
「早見くんには内緒なんでしょ?」
「ちょ、ちょっと!
声大きいよ……!」
乃愛は頬を赤くして慌てていた。
(……ショッピング?)
僕は少しだけ気になったけど、
乃愛は僕の方を見て、
小さく手を振ってくれた。
「孝介、がんばってね!」
その笑顔だけで、
疲れなんて吹き飛ぶ。
「早見、こっち手伝ってくれ!」
「おう」
男子たちと一緒に、
テントを立てたり、
ラインを引いたり、
器具を運んだり。
汗が額を流れる。
「早見、走るの楽しみだな」
「アンカー頼むぞ!」
「白石さん、絶対応援するだろ」
「……まぁ、たぶんな」
「たぶんじゃねぇだろ!
あの二人、もう公認カップルじゃん!」
「ち、違うって……」
「照れてる照れてる!」
男子たちは好き勝手言ってくる。
でも――
嫌じゃなかった。
むしろ、
こうやって笑い合える日常が戻ってきたことが嬉しかった。
その頃、乃愛は駅前のショッピングモールにいた。
「乃愛、このリボン似合うんじゃない?」
「体育祭って写真いっぱい撮るしね!」
「早見くん、絶対喜ぶよ〜!」
「ちょ、ちょっと……!
孝介のことは……その……」
乃愛は真っ赤になりながら、
髪飾りを手に取った。
(孝介……
明日、ちゃんと応援するからね)
設営が終わる頃には、
空はオレンジ色に染まっていた。
「よし、今日はここまで!」
「明日は本番だぞー!」
みんなが帰り支度を始める。
僕は水を飲みながら、
ふと乃愛のことを思い出した。
(もう帰ったかな……)
スマホを見ると、
乃愛からメッセージが届いていた。
『孝介、今日はショッピング行ってくるね。
帰り遅くなるかも。
無理しないでね』
(……そっか)
少しだけ寂しい。
でも、乃愛が楽しそうならそれでいい。
家に向かう途中、
夕暮れの風が心地よかった。
(明日、リレー……
絶対に勝ちたいな)
乃愛が応援してくれる。
それだけで、走る理由になる。
その頃、乃愛は友達と別れ、
買い物袋を抱えて歩いていた。
「孝介、喜んでくれるかな……」
胸の前で袋をぎゅっと抱きしめる。
(明日、絶対に見ててね)
二人は別々の道を歩いているのに、
同じことを考えていた。
夜。
僕は布団に入りながら、
明日のことを考えていた。
(乃愛……
借り物競争、何を引くんだろうな)
ワクワクと緊張が入り混じる。
一方、乃愛は買ってきた髪飾りを眺めながら、
そっと微笑んだ。
「孝介……
明日、がんばってね」
体育祭前日。
二人はすれ違いながらも、
確かに想い合っていた。
そして――
体育祭当日、二人の距離はさらに近づく。




