第17話「体育祭準備」
五月の風が心地よい朝。
教室に入ると、黒板には大きく書かれていた。
『体育祭・競技決め』
ざわつくクラス。
僕――早見孝介は、右腕のギプスが外れたばかりで、
まだ完全には動かせないものの、
日常生活にはほぼ支障がなくなっていた。
「孝介、おはよう!」
白石乃愛が駆け寄ってくる。
いつもより元気そうだ。
「腕、痛くない?」
「だいぶ良くなったよ。
もう走るくらいなら問題ない」
「よかった……!」
乃愛は胸を撫でおろした。
担任がプリントを配りながら言う。
「はい、各自出たい競技に名前を書けー。
ただし、リレーはクラス代表だから、
希望者が多ければ選抜な」
クラスが一気に盛り上がる。
「リレー出たい!」
「借り物競争は面白そう」
「騎馬戦は男子の見せ場だろ!」
乃愛が僕の袖をつまむ。
「孝介は……何に出るの?」
「俺は……」
右腕を軽く回しながら考える。
「走るのは得意だし、
クラス対抗リレーに出ようかな」
乃愛の目が輝いた。
「孝介が走るところ……見たい!」
「そんなに?」
「うん。
だって孝介、走るときすごくかっこいいんだもん」
そんなこと言われたら、
顔が熱くなるに決まっている。
「乃愛は何に出るんだ?」
「私はね……借り物競争に出ようと思うの」
「借り物競争?」
「うん。
だって……“借りるもの”って、
ちょっとドキドキするでしょ?」
乃愛は意味深に微笑む。
「……まさか俺を借りる気じゃないだろうな」
「えっ!?
そ、そんなこと……あるかもしれないし……
ないかもしれないし……!」
顔を真っ赤にして慌てる乃愛が可愛すぎて、
思わず笑ってしまった。
男子のリレー希望者は多かった。
「早見、走れるのか?」
「腕折れてたのにすげぇな」
「タイム測って決めようぜ!」
クラスの男子が盛り上がる。
僕は軽くストレッチをして、
短距離のタイム測定に参加した。
結果――
クラス1位。
「おおおお!!」
「早見、やっぱ速ぇ!」
「これはアンカーだろ!」
男子たちが盛り上がる中、
乃愛は嬉しそうに拍手していた。
「孝介、すごい……!
本当にかっこよかった……!」
「見てたのか?」
「全部見てたよ。
孝介が走る姿……大好き」
その言葉に、胸が熱くなる。
放課後。
乃愛は帰り道で、僕の左手をそっと握った。
「ねぇ孝介……」
「ん?」
「借り物競争の“借りるもの”って……
紙に書かれてるんだよね」
「そうだな」
乃愛は少し照れながら言った。
「もし……“好きな人”って書いてあったら……
孝介、来てくれる?」
「もちろん。
全力で走って行くよ」
乃愛は嬉しそうに笑った。
「……ありがとう。
孝介がいてくれるなら、
体育祭……すごく楽しみ」
僕も同じ気持ちだった。
翌週。
体育祭当日が近づくにつれ、
クラスの空気はどんどん明るくなっていった。
僕はリレーのアンカー。
乃愛は借り物競争。
二人の距離は、
両親の反対という壁があっても、
確実に近づいていた。
そして――
体育祭当日、何かが起きる。
それは、
二人の関係を大きく動かす出来事だった。




