第16話「孝介の決意と、乃愛の涙」
乃愛の両親に反対された翌日。
僕――早見孝介は、まだギプスの残る右腕を抱えながら登校した。
途中で乃愛が駆け寄ってくる。
「孝介……おはよう」
声は明るいけれど、
目の下にはうっすらクマがあった。
「眠れなかったのか?」
「……ちょっとだけ。
昨日のこと、ずっと考えてた」
乃愛は僕の左手をそっと握る。
「でもね……
私は絶対に諦めないよ。
お父さんとお母さんに、孝介のこと認めてもらう」
その言葉に胸が熱くなる。
「俺もだよ。
乃愛の両親に胸を張って会えるように……
ちゃんとしたい」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
教室に入ると、
クラスメイトたちがざわついた。
「早見、腕まだ痛そうだな……」
「白石さん、昨日泣いてたって聞いたぞ」
「二人、大丈夫なのか?」
僕は軽く笑って答えた。
「大丈夫だよ。
俺たちは……ちゃんとやっていくから」
乃愛は僕の隣で小さく頷いた。
その姿を見て、
クラスの空気が少しだけ柔らかくなる。
放課後。
僕の家で、乃愛と向かい合って座った。
「孝介……どうしたら認めてもらえるかな」
乃愛は不安そうに指を絡める。
「まずは……
俺が“信頼できる人間”だって証明することだと思う」
「信頼……?」
「そう。
怪我をしたのは事実だし、
乃愛を危険な目に遭わせたのも事実だ。
でも……そこからどう変わるかが大事なんだと思う」
乃愛は真剣に聞いていた。
「だから……
まずは学校生活をちゃんとする。
勉強も、生活態度も。
乃愛の両親に“安心できる相手”だって思ってもらう」
乃愛は目を潤ませながら微笑んだ。
「孝介……
そんなふうに考えてくれてたんだ……」
「乃愛のためだからな」
乃愛は僕の左手をぎゅっと握った。
しばらく沈黙が続いたあと、
乃愛がぽつりと呟いた。
「……怖かったんだ」
「え?」
「お父さんとお母さんに反対されて……
“もしかしたら孝介と離れなきゃいけないのかな”って……
そう思ったら……胸が苦しくて……」
乃愛は涙をこぼした。
「孝介がいない世界なんて……
考えたくないよ……」
僕は乃愛の手を握り返し、
優しく頭を撫でた。
「乃愛。
俺は離れないよ。
絶対に」
乃愛は涙を拭い、
僕の胸に顔を埋めた。
「……うん……信じてる」
乃愛は顔を上げ、
真剣な表情で言った。
「孝介。
私も頑張る。
勉強も、家のことも、
お父さんとお母さんとちゃんと話すことも……
全部」
「一緒に頑張ろう」
「うん……!」
乃愛は僕の左手にそっと唇を触れさせた。
「孝介、大好き。
絶対に……二人で幸せになるんだよ?」
「もちろんだよ」
二人の決意は、
反対という壁を前にして、
むしろ強く結ばれていった。




