第15話「乃愛の両親」
退院して数日。
僕――早見孝介の家での看病は、
すっかり乃愛の日課になっていた。
「孝介、今日はシチュー作ったよ。
食べさせてあげるね」
「いや、自分で――」
「だめ。
孝介は怪我人なんだから、はい、あーん」
「……あーん」
乃愛は嬉しそうに笑う。
そんな甘い時間が続くと思っていた。
――その日までは。
夕方。
チャイムが鳴った。
「孝介、誰か来たみたい」
「宅配かな……?」
左手でドアを開けた瞬間、
僕は息を呑んだ。
そこに立っていたのは――
白石乃愛の両親だった。
乃愛の母は険しい表情で、
父は腕を組んで僕を睨んでいた。
「……早見くん。
少し話があるの」
乃愛が後ろから顔を出し、
青ざめた。
「お、お母さん……?
お父さん……?」
三人はリビングに座り、
僕と乃愛は向かい合う形になった。
乃愛の父が口を開く。
「早見くん。
君と乃愛が“付き合っている”と聞いた」
乃愛は小さく震えた。
「……はい。
僕と乃愛は、恋人です」
乃愛の母は深いため息をついた。
「乃愛。
あなた、こんな大事なこと……
どうして黙っていたの?」
「ご、ごめんなさい……」
母は続ける。
「しかも、怪我をした男の子の家に通って……
看病?
そんなの、許されると思ってるの?」
乃愛は唇を噛んだ。
「孝介が……怪我して……
放っておけなかったの……」
「気持ちの問題じゃないのよ!」
母の声が強く響いた。
乃愛の父が、低い声で言った。
「早見くん。
君は……乃愛を守れるのか?」
僕は迷わず答えた。
「はい。
僕は乃愛を守るためなら、
何があっても――」
「守れていないじゃないか」
その言葉は鋭かった。
「君は怪我をした。
乃愛は危険な目に遭った。
それが“守る”と言えるのか?」
言い返せなかった。
父は続ける。
「乃愛は大切な娘だ。
危険な状況に巻き込むような交際は、認められない」
乃愛は涙をこぼした。
「お父さん……違うの……
孝介は……私を守ってくれたの……
怪我してまで……!」
「だからこそ反対なんだ」
父の声は揺らがなかった。
乃愛は立ち上がり、
僕の隣に座り直した。
「お父さん、お母さん……
私、孝介が好きなの。
大好きなの。
離れたくない……!」
母は悲しそうに言った。
「乃愛……
あなたが傷つくのを見たくないのよ」
「傷ついてない!
私は……孝介といると幸せなの!」
乃愛は僕の左手を握りしめた。
「孝介は……
私の大切な人なの……!」
その言葉に、胸が熱くなる。
父はしばらく黙っていたが、
やがて重い口を開いた。
「……今は、交際を認められない」
乃愛が震えた。
「でも――」
父は続けた。
「早見くん。
君が本当に乃愛を守れる男だと証明したら……
そのときは考える」
乃愛は涙を拭い、
僕の手をぎゅっと握った。
「孝介……」
僕は乃愛の手を握り返し、
まっすぐ両親を見た。
「必ず証明します。
乃愛を守れる男だって」
父は小さく頷いた。
「……期待はしていない。
だが、見せてもらおう」
そう言って、両親は帰っていった。
玄関が閉まった瞬間、
乃愛は僕に抱きついた。
「孝介……ごめん……
私のせいで……!」
「違うよ。
乃愛のせいじゃない」
僕は左手で乃愛の頭を撫でた。
「乃愛の両親が心配するのは当然だよ。
でも……俺は諦めない」
乃愛は涙をこぼしながら言った。
「孝介……
絶対に離れたくない……」
「離れないよ。
俺たちは……これからだろ?」
乃愛は涙の中で微笑んだ。
「……うん……
孝介、大好き……」
その言葉は、
両親の反対という壁を前にしても、
二人の絆を強くしてくれた。




