第14話「久しぶりの甘い時間」
退院手続きを終えた僕――早見孝介は、
病院の玄関で待っていた乃愛を見つけた。
「孝介、おかえり……!」
乃愛は両手で僕の荷物を受け取り、
まるで宝物みたいに抱えた。
「いや、左手は使えるし――」
「だめ。
孝介は怪我人なんだから、私が全部やるの」
乃愛は頑固だ。
でも、その頑固さが嬉しかった。
家に着くと、乃愛は靴を脱ぐなり言った。
「孝介、ベッドに座って。
今日は私が全部やるからね」
「全部って……?」
「ご飯も、お風呂の準備も、お薬も……
ぜんぶ、私がやるの」
乃愛は胸を張って宣言した。
「……なんか、頼もしいな」
「ふふん、でしょ?」
乃愛は得意げに笑った。
乃愛はエプロンをつけ、
慣れない手つきで料理を始めた。
「孝介、好きな味付けで作ったよ。
食べさせてあげるね」
「いや、自分で――」
「右手使えないでしょ?
はい、あーん」
「……あーん」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ……孝介、かわいい」
「かわいくはないだろ……」
「かわいいよ。
私だけが知ってる孝介のかわいさ」
そんなことを言われたら、
顔が熱くなるに決まっている。
食後、乃愛は僕の隣に座り、
そっと肩に寄りかかった。
「ねぇ孝介……
こうして寄りかかってもいい?」
「もちろん」
乃愛は嬉しそうに微笑み、
僕の肩に頭を預けた。
「……孝介の匂い、落ち着く……」
「乃愛の方が落ち着くよ」
「ほんと?
じゃあ、もっとくっついてもいい?」
「いいよ」
乃愛は少し照れながら、
僕の左手を両手で包み込んだ。
「孝介の手……好き。
あったかいし、安心する」
「俺も乃愛の手、好きだよ」
乃愛は顔を赤くしながら、
僕の胸にそっと額を寄せた。
「……ずっとこうしてたいな」
「俺も」
二人の距離は、
怪我をきっかけに、むしろ近くなっていた。
しばらく寄り添ったあと、
乃愛が小さく呟いた。
「孝介……
お願いがあるの」
「なんだ?」
乃愛は僕の服の裾をつまみながら言った。
「怪我が治るまで……
毎日、私が看病してもいい?」
「もちろんだよ。
むしろ、来てほしい」
乃愛はぱっと顔を明るくした。
「ほんと!?
じゃあ……毎日来るね。
朝も、放課後も、夜も……!」
「いや、夜は帰れよ」
「帰るけど……
孝介が眠るまで一緒にいる」
その言い方があまりに可愛くて、
思わず笑ってしまった。
「楽しみにしてるよ」
乃愛は照れながら、
僕の左手にそっと頬を寄せた。
「……孝介、大好き」
その言葉は、
骨折の痛みなんて吹き飛ぶほど甘かった。




