第13話「白い天井」
ゆっくりと意識が浮上していく。
(……ここは……?)
まぶたを開けると、白い天井が見えた。
消毒液の匂い。
機械の電子音。
そして――
「……孝介……?」
震える声が聞こえた。
横を向くと、
白石乃愛が椅子に座り、
僕の手を握りしめて泣いていた。
「乃愛……?」
乃愛は顔を上げ、
涙でぐしゃぐしゃの顔で僕に抱きついた。
「孝介!!
よかった……!
ほんとに……ほんとに……!!」
その声は、
胸が締めつけられるほど苦しそうだった。
乃愛に抱きつかれながら、
僕は自分の腕に目をやった。
右腕はギプスで固められ、
包帯が巻かれている。
(……やっぱり折れてたか)
乃愛は涙を拭いながら言った。
「先生が……“骨折です”って言ったとき……
私、頭が真っ白になって……
息ができなくて……
倒れそうになった……」
その声は震えていた。
「ごめん……心配かけたな」
「謝らないで!!」
乃愛は僕の胸を軽く叩いた。
「孝介は……私を守ってくれたのに……
私、何もできなかった……!」
「そんなことないよ。
乃愛が無事だったから……俺は……」
「違う!!」
乃愛は涙をこぼしながら叫んだ。
「孝介が傷つくくらいなら……
私なんてどうなってもよかった……!」
その言葉に、胸が痛んだ。
乃愛は僕の手を握りしめ、
震える声で続けた。
「孝介が倒れたとき……
私、怖くて……
世界が終わったみたいで……
“もう二度と目を開けてくれないんじゃないか”って……
本気で思ったの……」
僕は乃愛の頬に手を伸ばそうとしたが、
右腕は動かない。
代わりに左手で、
乃愛の涙をそっと拭った。
「乃愛……俺はここにいるよ。
ちゃんと目を開けてる」
乃愛は僕の手に頬を寄せた。
「……うん……
ありがとう……」
その声は、
泣き疲れた子どものように弱かった。
乃愛は少し落ち着くと、
ぽつりと話し始めた。
「佐伯くん……学校に連れていかれたよ。
先生たちが間に入って……
しばらく登校停止になるって……」
「そうか……」
「でもね……
佐伯くん、最後に言ってたの」
乃愛は不安そうに僕を見る。
「“早見を傷つけるつもりはなかった”って……
“ただ、白石さんを取り戻したかっただけだ”って……」
僕は目を閉じた。
佐伯の気持ちは理解できる。
でも、許せるわけじゃない。
「……乃愛。
もう大丈夫だよ。
佐伯はもう、俺たちに近づけない」
乃愛は小さく頷いた。
乃愛は僕のベッドの横に座り直し、
僕の手を両手で包み込んだ。
「孝介……
私ね……
もっと強くなる。
孝介を守れるくらいに」
「乃愛が守る必要なんて――」
「あるよ!!」
乃愛は涙をこらえながら言った。
「だって……
孝介は私の大切な人なんだもん……
守りたいに決まってる……!」
その言葉に、
胸が熱くなった。
「乃愛……ありがとう」
乃愛は僕の手をぎゅっと握りしめた。
「これからも……
ずっと隣にいてね……?」
「もちろんだよ」
乃愛は安心したように微笑み、
僕の左手にそっと唇を触れさせた。
「……大好きだよ、孝介」
その言葉は、
骨折の痛みなんて吹き飛ぶほど温かかった。




