第12話「対峙、そして痛みの代償」
旧校舎の階段裏。
乃愛の腕を掴む佐伯の前に、
息を切らした僕――早見孝介が立った。
「佐伯。
乃愛から離れろ」
その声は、
自分でも驚くほど低く、冷たかった。
佐伯はゆっくりと振り返り、
不機嫌そうに眉をひそめた。
「……来たかよ、早見」
乃愛は涙を浮かべながら叫んだ。
「孝介……!
来てくれて……!」
僕は乃愛の方へ一歩近づく。
「乃愛、大丈夫だ。
もう離さない」
佐伯の目が怒りで揺らぐ。
「ふざけんなよ……!
なんでお前なんだよ!」
佐伯は乃愛の腕を強く引き寄せようとした。
「やめろ!!」
僕は佐伯の腕を掴み、
乃愛を後ろへ庇うように引き寄せた。
佐伯は僕を睨みつける。
「白石さんは……俺のものだ!!」
「乃愛は“もの”じゃない!!
乃愛が選んだのは俺だ!!」
その瞬間、佐伯の怒りが爆発した。
「黙れぇぇぇ!!」
佐伯の拳が振り上がる。
僕は乃愛を守るため、
とっさに腕を前に出した。
次の瞬間――
ゴッ!!
鈍い音が響き、
激痛が走った。
「っ……!」
腕に力が入らない。
嫌な感覚が走る。
(……折れた?)
乃愛が悲鳴を上げた。
「孝介!!
腕が……! 血が……!」
佐伯は息を荒げながら、
僕を睨みつけたまま言った。
「邪魔なんだよ……お前が……!」
僕は痛む腕を押さえながら、
佐伯を睨み返した。
「……俺は、乃愛を守るためなら……
何度でも立つ」
佐伯の表情が歪む。
乃愛は震えながら僕の前に立った。
「佐伯くん……もうやめて……!
私は孝介が好きなの……!
何度言われても、変わらない……!」
佐伯はその言葉に完全に崩れた。
「……なんで……
なんで俺じゃないんだよ……」
乃愛は涙を流しながら言った。
「佐伯くんは……
私の気持ちを見てくれなかった。
“好き”って言いながら、
私の声を聞いてくれなかった……」
佐伯はその場に膝をついた。
「……俺は……」
怒りも、嫉妬も、
すべてが抜け落ちたように見えた。
僕は痛む腕を押さえながら、
ゆっくりと佐伯に近づいた。
「佐伯……
乃愛を好きだった気持ちは、
否定しない。
でも……やり方を間違えたんだ」
佐伯は顔を伏せたまま、
小さく呟いた。
「……わかってるよ……
でも、止められなかった……」
乃愛は静かに言った。
「佐伯くん……
もう、終わりにしよう」
その言葉は、
佐伯の心に最後の線を引いた。
佐伯はゆっくり立ち上がり、
僕たちに背を向けた。
「……もう、近づかない。
白石さんにも……早見にも」
その背中は、
どこか寂しげだった。
佐伯が去ったあと、
僕はその場に崩れ落ちた。
「孝介!!」
乃愛が駆け寄り、
僕の腕を抱きしめる。
「腕……腫れてる……!
血も出てる……!
どうしよう……!」
僕は乃愛の頭を優しく撫でた。
「大丈夫……
乃愛を守れたなら……
それでいい」
乃愛は涙をこぼしながら叫んだ。
「よくないよ!!
孝介が傷つくのは……嫌……!!」
僕は微笑んだ。
「乃愛が無事なら……
俺はそれで……」
視界が揺れる。
乃愛の声が遠くなる。
「孝介!?
孝介!!
お願い、目を開けて……!!」
僕は最後の力を振り絞って言った。
「……乃愛……
大丈夫だよ……
俺は……ここにいる……」
そして意識が遠のいていった。




