第11話「狙われた乃愛、迫る影」
翌朝。
教室に入ると、昨日よりもさらに空気が重かった。
「白石さん、最近ずっと怯えてない?」
「佐伯、マジでやばくね?」
「早見くん、大丈夫なのかな……」
ざわつく中、僕――早見孝介は席に着いた。
乃愛はすでに来ていて、
僕を見ると少しだけ安心したように微笑んだ。
「おはよう、孝介……」
声が弱い。
眠れていないのがわかる。
「昨日、眠れなかったのか?」
「……うん。
佐伯くんのこと考えたら、怖くて……」
乃愛は僕の袖をそっとつまんだ。
「今日、帰り……一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ」
乃愛はほっと息をついた。
しかし――
その会話を、教室の後ろから佐伯がじっと見ていた。
昼休み。
僕は先生に呼ばれ、職員室へ行くことになった。
「孝介、すぐ戻るから。
乃愛は教室で待ってて」
「うん……気をつけてね」
乃愛は不安そうに僕を見送った。
僕が教室を出たあと、
乃愛は一人で席に座り、静かに弁当を広げた。
そのとき――
「白石さん、ちょっといい?」
背後から声がした。
振り返ると、佐伯が立っていた。
乃愛の表情が一瞬で強張る。
「さ、佐伯くん……?」
「話があるんだ。
ちょっと来てくれない?」
「……やだ。
孝介が戻るまで、ここにいる」
佐伯は笑った。
「早見なら、しばらく戻らないよ。
先生に呼ばれてたからな」
乃愛の顔から血の気が引いた。
「……どうして知ってるの?」
「見てたからだよ。
白石さんのこと、ずっと見てるから」
その言葉に、乃愛は震えた。
佐伯は乃愛の腕を掴んだ。
「ちょっとだけでいいから。
話をしよう」
「やめて……離して……!」
乃愛は抵抗するが、
佐伯の力は強かった。
「大丈夫。
俺は白石さんを傷つけたりしないよ。
ただ……早見のことを忘れてほしいだけだ」
「無理……!
私は孝介が……!」
その瞬間、佐伯の表情が歪んだ。
「……やっぱり、早見が邪魔なんだよ」
佐伯は乃愛を強引に連れ出し、
人気のない旧校舎の廊下へ向かった。
乃愛は必死に抵抗しながら叫んだ。
「誰か……!
助けて……!」
しかし、昼休みの喧騒にかき消され、
誰も気づかない。
旧校舎の階段裏。
佐伯は乃愛の腕を離し、壁際に追い詰めた。
「白石さん。
俺は本気なんだよ。
お前のことが好きなんだ」
「……やめて。
私は孝介が好きなの……!」
佐伯の目が怒りで揺らぐ。
「なんでだよ……!
俺の方がずっと白石さんを見てきたのに……!」
乃愛は震えながら言った。
「見てただけで、私の気持ちを無視してる……
それは“好き”じゃないよ……!」
佐伯は一瞬言葉を失い、
そして――
「……早見が悪いんだ。
全部、早見のせいだ」
乃愛の腕を再び掴んだ。
「やめて……!
孝介……!」
その叫びは、
旧校舎の静けさに吸い込まれていった。
そのとき。
「――乃愛!!」
階段の上から、
強い声が響いた。
乃愛の目が大きく見開かれる。
「……孝介……?」
佐伯が振り返る。
階段の上に立っていたのは――
息を切らし、怒りを宿した目で佐伯を睨む 早見孝介だった。
「佐伯。
乃愛から離れろ」
その声は、
これまでで一番強く、
一番冷たかった。




