第10話「佐伯の暴走、そして守りたい人」
翌朝。
教室に入ると、空気が昨日よりもさらに重かった。
「白石さん、また何かあったらしいぞ」
「昨日の靴箱の件、誰がやったんだよ……」
「佐伯じゃねぇの?」
ざわつきの中、僕――早見孝介は席に着いた。
乃愛はすでに来ていて、
僕を見ると安心したように微笑んだ。
「おはよう、孝介……」
声が少し震えている。
「大丈夫か?」
「うん……でも、ちょっと怖い」
乃愛は僕の袖をそっとつまんだ。
そのとき――
教室の後ろから鋭い視線を感じた。
佐伯だ。
昼休み。
僕が席を立とうとした瞬間、佐伯が近づいてきた。
「早見。話がある」
乃愛が不安そうに僕の腕を掴む。
「孝介……行かないで」
「大丈夫。すぐ戻るよ」
佐伯は無言で廊下へ向かい、
僕を人気のない階段裏へ連れていった。
「……白石さんの靴箱の件、知ってるよな?」
「知ってるよ。まさか、お前……」
佐伯は笑った。
「俺がやったって言いたいのか?
証拠もないのに?」
その笑みは、明らかに“普通”ではなかった。
「でもな……
白石さんの周りで“何か”が起きるのは、
お前のせいだろ」
「どういう意味だよ」
佐伯は僕の胸ぐらを掴んだ。
「白石さんは俺のものだったはずなんだよ。
お前が横から奪わなければ、
こんなことにはならなかった」
「乃愛は“もの”じゃない。
乃愛が選んだのは俺だ」
その瞬間、佐伯の目が完全に怒りに染まった。
「……後悔させてやるよ」
佐伯は僕を突き飛ばし、階段裏を去っていった。
胸に嫌な予感が残った。
放課後。
乃愛は僕の隣に来ると、
不安そうに僕の手を握った。
「孝介……佐伯くん、何か言ってた?」
「大丈夫。気にするな」
そう言うと、乃愛は首を横に振った。
「気にするよ……
だって、孝介が傷つくのは嫌だもん……」
乃愛の目に涙が浮かんでいた。
「乃愛……」
「私のせいで、孝介が危ない目に遭うなんて……
そんなの、絶対嫌……」
僕は乃愛の手を強く握り返した。
「大丈夫。
俺は乃愛を守るためなら、何だってする」
乃愛は涙を拭い、
僕の胸に顔を埋めた。
「……ありがとう。
孝介がいてくれるなら、怖くない」
その瞬間、
僕は“守る”という言葉の重さを理解した。
帰り道。
乃愛と手をつないで歩いていると、
突然、後ろから声がした。
「白石さん!」
振り返ると――
佐伯が立っていた。
乃愛が怯えたように僕の腕にしがみつく。
「佐伯くん……もうやめて……」
佐伯はゆっくりと歩み寄り、
僕たちの目の前で立ち止まった。
「白石さん。
俺はまだ諦めてない」
「やめて……私は孝介が……」
「黙れよ」
佐伯の声は低く、冷たかった。
「白石さんは……俺のものだ」
その瞬間、僕は佐伯の腕を掴んだ。
「乃愛に触るな」
佐伯は僕を睨みつけた。
「……お前が邪魔なんだよ、早見」
その言葉と同時に、
佐伯は僕を突き飛ばした。
乃愛が悲鳴を上げる。
「孝介!!」
地面に倒れた僕を見下ろし、
佐伯は静かに言った。
「これは始まりだ。
お前が白石さんを手放すまで、
俺は何度でもやる」
そして佐伯は去っていった。
乃愛は泣きながら僕に駆け寄る。
「孝介……ごめん……ごめん……!」
僕は乃愛の手を握り、
ゆっくりと立ち上がった。
「乃愛……大丈夫だよ。
俺は絶対に離れない」
乃愛は涙を流しながら、
僕の胸にしがみついた。
しかし――
佐伯の言葉は、
確実に“何かの始まり”を告げていた。




