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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック4巻発売中】  作者: 待鳥園子
特別SS集

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【特別SS】子どもになったスイレン

 ある日、スイレンは花の種を置いてある自分の仕事部屋に、見た事のない小箱があることに気がついた。


(まあ……何かしら? 誰かの忘れ物……?)


 ガーディナー商会でのスイレンの主な仕事は生花を咲かせては、女性客が多い商会内を飾り、そして、特別に注文があれば顧客へと届けることもある。


 花が長持ちする生活魔法も掛けることが出来るので、水換えさえ怠らなければ花は長く保つし、その他の時間は、店主ジョルジオの伝手で請け負ったパーティーでの魔法の花を使った催しを担当したりや店番などで忙しくしていた。


 なので、花の種を整理して置いた棚がある小部屋はスイレン用にと用意されたものであったのだが、長時間ここに居ることは少なかった。


 小さな箱は蓋が付いていて、名前なども書かれていない。


(どうしようかしら。とにかく開けて、誰のものか聞いてみよう)


 何気なく箱を開けたスイレンは眩い光を受けて、思わず瞼を閉じた。


「びっ……びっくりしたわっ……えっ……!?」


 スイレンは先ほどより低い位置にある視点に気がつき、箱を持っていた手も、小さくなっていることに気がついた。


 箱の中は空だった。何も入っていない。けれど、スイレンは自分の身体が小さくなり、着ていた服も肩からずり落ちてしまっていることに気がついた。


(うっ……嘘……私、もしかして、幼くなっている!?)


「スイレンー!!」


 その時、扉が開けられて当たり前のように、紺色の髪を持つクライヴが入って来た。


 彼はこのガーディナー商会の跡取り息子ブレンダンの愛竜であるから、商会にはいつも自由に出入りし、正体を明かされた商会で働く人たちにもとても可愛がられていた。


「えっ!」


「あのっ!」


 小さくなったスイレンの姿を見てクライヴは戸惑い、そして、彼女であることに気がついたらしい。


「どうしたの……? え。これは魔法か。スイレン。魔法に掛けられているね」


 近づいて来たクライヴはすぐにスイレンの身に何があったかを理解し、目を細めて彼女を見ていた。


「どうしよう。クライヴ。部屋の中にあった小箱をなんだろうと思って開いてしまっただけなの」


「ああ……その箱の中に幼くなってしまう魔法が……? 良く見せて……」


 スイレンはクライヴに持っていた小箱を渡し、彼は箱の中にあったはずの何かの残滓を透かし見るようにしてじっと見た。


「……どう? 戻れなくなったら、どうしよう……」


 幼い姿のままになってしまったらどうしようと怯えたスイレンに、クライヴは肩をすくめて言った。


「うーん。これは、おそらく、決められた時間だけ、姿が幼くなる魔法が入っていたみたいだね。だから、すぐに戻るよ。そんなに長い魔法でもない。今日中には戻れると思う」


「本当に!?」


 喜んだスイレンが彼に近寄れば、クライヴは慌てて目を逸らした。


「まっ……待って、スイレン。服が……」


 幼くなった小さな身体に合わない服はずり落ちてしまいそうになっており、スイレンは慌てて胸元を隠した。


「戻れるのなら、良かったわ。けれど、困ったわね。この姿では出来ることが限られているし……」


 これでは仕事も出来ることが限られているとスイレンが困って言えば、クライヴは楽しそうに言った。


「……まあ、可愛い看板娘が店番していれば、それで良いんじゃない。別にこの姿で、店には出られない訳でもないんだしさ」


 ガーディナー商会では上流階級向けの宝石やドレスなどを主に売ってはいるが、異国から輸入した可愛らしい小物や平民でも買えそうな値段の既製品などを店頭に並べている。


 スイレンも店番を手伝うこともあり、流行の最先端を行く可愛らしい服を店員特権で安く購入することも出来るのだ。


「そっ……そうね。服を貸してもらうわ」


「僕が持ってくるから、待ってて!!」


 とても楽しそうな表情になったクライヴは、風のように部屋を出て行き、すぐに戻ってきた時には彼と同じ背格好になったスイレンの着替え一式を手に持っていた。


 そして、着替えを済ませたスイレンを満足そうに見ていた。


「ありがとう。クライヴ」


 これで仕事に戻れるとスイレンはほっとして、クライヴにお礼を言った。


「いえいえ。スイレンはいつも可愛いけど、幼い時も本当に可愛いんだね」


 さらりと褒めてくれた彼に苦笑して、スイレンは店へと戻ることにした。姿が変わってしまったことは驚かれたものの、クライヴが『すぐに戻るから』と説明してくれたおかげで、仕事に戻ることが出来た。


「ありがとうございました……あ」


 スイレンはその時、店へと入って来た見慣れた二人の姿に驚いた。そして、これはクライヴの仕業だろうと思い、近くに居た澄ました顔の彼を見た。


「いや……僕はワーウィックにしか言ってないよ」


「リカルドにここに来たいって言ったら、どうしては説明しろって言われたんだよ」


 何も悪いこともしていないと涼しい顔のクライヴと、楽しそうな笑顔で近づいて来たワーウィック。


 そして、驚いた表情のリカルドを見て、スイレンはどうしたものかと思った。


「リカルド様。大丈夫です。クライヴに聞くと、すぐに戻るそうなので」


 いきなり幼くなって仕舞えば驚くだろうとリカルドに伝えれば、彼は無言のままで近づいてきた。


 そして、スイレンを抱き上げてじっと顔を見た。


「あの……?」


 戸惑ったスイレンはリカルドにそう言い、彼はまじまじと見ていた。


「本当に、スイレンなのか……うわ。可愛い。驚いた」


「リカルド。君の言いたいことは、僕もわかっているつもりだよ。けど、スイレンは一応、店番の仕事中なんだけど?」


 抱き上げたまま降ろさないリカルドに、呆れたような表情のクライヴはそう言って注意し、ワーウィックも同意して頷いていた。


「そうだよ! リカルドだけ、ずるいよ。早く下ろしてあげて」


「いや。お前ら二人は、さっさと竜舎へ帰れ。俺は仕事終わりまで待って、このスイレンを連れて帰る」


「えー!! ずるいよ! 一人だけ!!」


「そうだよ。リカルド。君だけ良い思いして!!」


 二人が一斉に抗議したので、スイレンは小さな両手でリカルドの顔を持って行った。


「……リカルド様。そうです。私は仕事中なんです。ここで騒ぐといけないので、この二人とも連れて帰ってください。私はもう少し仕事が残っています。けど、帰りの時間には迎えに来てほしいです」


「……はい」


 ここはお店で自分は遊んでいる訳ではないと、面白がって騒ぎたいクライヴとワーウィックにキリッと言い聞かせたスイレンの望む通り、リカルドは帰りの時間にガーディナー商会まで迎えに来てくれることとなった。



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