【特別SS】雨の日の火竜
(ああ……雨だ)
頭上にある葉にぴちゃんと音を立てて落ちた雨粒に目を開いたワーウィックは、薄暗く曇っている空を見上げて大きく息を吐くと動くことが億劫になってしまった。
ワーウィックが今のんびりと眠っていた場所は、城から離れた場所にある山に生えた大きな木の下だ。
上位竜イクエイアスの眷属の竜ワーウィックたちが住み、竜の巣とも言われている場所で、それを理解している近隣住民はそうそう山には近寄らない。静かなので昼寝をするには最適な場所だった。
今日はリカルドから時間を絶対に守れと言われているので、ワーウィックはもうすぐ王都まで戻らないといけないとは思った。
(どうしようかな……雨の中飛ぶの、嫌いなんだよなぁ……)
ワーウィックが元来持つ属性は火で、冷たい雨水とは相性が良くない。生まれ持つ本能で、体が冷えてしまうことは避けたくなるのだ。
約束したし自分の竜騎士が待っているなら帰らなきゃいけないという気持ちと今は動きたくないという、相反する気持ちが心の中をせめぎ合い迷い迷った挙句にワーウィックは寝てしまおうと目を閉じた。
(このまま本当に眠っちゃったら、気が付かなかったですむもんね……)
(……おい。お前何処に居るんだ?)
今日はサボってしまおうと心に決めれば、すぐさま己の契約を与えた竜騎士リカルドの声が聞こえた。
悪いことは出来ないなとワーウィックは低く呻いてから、彼に返事を返した。
(……何ー? 雨降って来たから、僕もうこのまま寝たいんだけど)
寝ぼけ声のこのまま眠ってしまいたいというワーウィック意向を聞いて、彼待ちらしいリカルドはイラッとしたようだった。
(そんな訳には行くか。今から遠征に行くんだぞ。俺だけ遅れることになるじゃないか。ちゃんと時間は言っていただろう。さっさと帰って来い)
(えー……うん。わかったよ)
本日の集合時間を確かに聞いていた自覚のあるワーウィックは、気の進まないままのそのそと起き上がり、ぶるりと体を震わせて水滴を散らして美しい大きな羽根を広げると、どんよりとした空へと舞い上がった。
竜騎士団最速の速度を誇るワーウィックの飛行ならば、すぐに城に着くだろう。それを知っているリカルドも(今帰ってるから)と言ったら、もう何も言わなくなった。
雨は時間が経つにつれ激しさを増して、空飛ぶワーウィックの体を包んだ。
(雨の日、ほんと嫌いだなー……)
属性に合わぬ天候にあまり気分が良くないワーウィックは、なんとなく思いつき、ついこの前スイレンが鼻歌で歌っていたリズムに合わせて、楽しげに体を左右に振った。
そうしたら、本当に楽しくなってきてしまったので、城までの飛行を必要以上に時間がかかってしまった。
存分に踊りしまったと気づきしゅんとした顔を作り城へと戻ると、雨の中腕組みしてびしょ濡れになって待っていた真顔のリカルドに怒られた。




