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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック4巻発売中】  作者: 待鳥園子
第六章

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6-10 隠密

「り……リカルド様? どうして……」


 スイレンは震える声で聞いた。


(すごい……私を抱えたままで……それも、ほんの少し……すぐに上がれてしまった)


 ほんの一瞬の出来事ではあったものの、かなりの高度を彼はスイレンを抱えたままで、なんなく上がったのだ。リカルドの身体能力がどれだけ高いのか、これでわかろうものだ。


「……スイレン。俺はいま君をここから連れ去ったことについて、本当に良かったと考えていた。あんな酷い伯母の元に君が居たとは……」


 黙ったままで伯母マーサの醜態を見ていたリカルドは、スイレンを連れ去ったあの日のことを思い出していたようだ。


 それもそのはずで、ここは二人が初めて出会った王都……あの、彼が入れられた檻があった広場だってそう遠くない場所にある。


「リカルド様。私、貴方は王都の傍でワーウィックたちと一緒に居るって……それに、その髪は?」


 燃えるような赤髪は、今では光を吸い込む漆黒に染まっていた。スイレンの質問に顔を傾ければ、リカルドの整った顔がようやく視界に入った。


 男性らしい精悍が顔つきが間近に見え、リカルドの睫毛はとても長く見えた。


「それが、陰ながらスイレンの警護をする担当になった先輩が、事故で大怪我をして……代理で近くに居た俺が来たんだ。これは、団長の判断で、スイレンの護衛ならちょうど俺が良いだろうということになった」


「……! そうだったんですか? 私のことをこれまで陰ながら、守ってくれていたんですか?」


 どんな戦いでもリカルドは、最前線に配置される。英雄と呼ばれるほどの竜騎士でもあるし、彼の戦闘能力がそれだけ抜きん出ているかという証拠でもあった。


 だから、スイレンは当分リカルドに会うことは出来ないだろう……そう思って居た。今回は小競り合いのような簡単な争いではなく、双方とも厳戒態勢に入っていた。


 特にガヴェアはこれまでの戦いで幾度もヴェリエフェンディ竜騎士団に煮え湯を飲まされた経験から、守護竜イクエイアスさえ居なければと思ったことも多かったであろうし、それに対抗出来るエグゼナガルを手に入れたことは彼らからすれば大きかったはずだ。


 これから、激しい戦いがはじまるだろう……スイレンだって、そう予感していた。


「ああ。この髪は目立つからと、染めることにした……特にこの王都では、俺の顔を見知っている者も多いだろうから。それに、スイレンの持つ腕輪はエグゼナガルを救うには一番に良い手かもしれないと団長たちは考えているようだった。だから、俺が隠れて警護するのが一番良いだろうと」


「そ……そうだったんですか」


 スイレンはリカルドの話を聞いて、彼がここに居る理由を納得することが出来た。


 おそらくは予定通りに、先輩が怪我などすることなくスイレンの警護に付いてくれていれば、リカルドは王都近くに潜伏し竜化した竜に騎乗しての攻撃のチャンスを窺っていたはずだ。


 だが、スイレンが青竜から手に入れた情報、それに、腕輪の効果などもあり、エグゼナガルを救う良い手立てになるかもしれない。ならば、彼女を護ることが最優先されるし、代理として最強と呼ばれる竜騎士が警護に付くことになったとなれば自然だった。


(リカルド様は私のこと、ずっと付いていてくれた……そういうこと?)


「あの、いつから……居てくれたんですか?」


「うん。クライヴと一緒に王都に入る時から。ずっと背後に付いていたし、スイレンが出歩く時は、俺が傍に居ると考えてくれて良い」


「……! そうだったんですか? もしかして、この前に三人で買い付けに行った時も?」


 買い付けをしにきた商人を装うためにブレンダンはスイレンとクライヴを連れて、商品をいくつか仕入れにいくことにしていた。


ブレンダンの演技は堂に入っていて、すべてを知っているスイレンさえ、本当に彼が買い付けに来ている商人ではないかと思うくらいだった。


「ああ。ずっと一緒に居た。目立たない程度に距離を空けながら……俺はこんな風に屋根に上がることも出来るから、スイレンは気が付かなくても無理はない」


 リカルドはなんでもないことのように頷いた。


 ブレンダンはスイレンを妻として扱い、スイレンも演技なのだからと、そう振る舞っていた。


 まさか、そんなところをリカルドに見られていたなんて……スイレンは彼がどう思ったか、不安になってしまった。


「あのっ……その、私……」


「わかってる。俺もイジェマと共に居た時、義務だと思って一緒に居た。スイレンもこれは、必要な演技だし同じだ……同じ気持ちを味わっていたんだと、俺は今回思ったんだ。だから、君は自分のしなければいけないことをしているし、それに、それを俺に負い目を感じる必要もない……俺だって、同じ事をしていたんだから」


 リカルドはスイレンと向き合い、彼女の両肩に手を置いた。


(あの時、イジェマ様の存在を知った時、私は胸が痛くて堪らなかった。叶うはずがないと思っていたけれど、リカルド様は私とこうして一緒に居る……それで、良いのだわ)


「ブレンダンも俺が来ていると知った時、動揺しているようだった。俺はあいつのように、潜入先で演技をして不慮の事態にも完璧な行動は取れない。だから、潜入することに関してはスイレンはブレンダンと一緒に居た方が良いと思った」


(そういえば……私とクライヴが宿屋に入ってからすぐに、ブレンダン様らしくない時があった。あれって、もしかして、リカルド様と話をして彼がここに居ると聞いたから?)


 色々とあって複雑な関係になってしまった三人が、意図せずにそんな近くに居るのだ。ブレンダンもらしくない様子を見せたのは、当然のことだった。


「私も……素直な気持ちを言えば、リカルド様と一緒の方が良いです。けど、それはあまり良くないことなんですね?」


「ああ。俺はあいつのように潜入捜査に慣れていないし、上手く演技することも出来ない。それに、スイレンと恋愛関係にあるのも、突発的な事態で冷静に判断出来なくなると団長が判断した。だから、離れた場所で見守り危険があれば、こうして守れば良いと……」


「そうだった……んですね」


 スイレンは複雑な思いだった。


 別にリカルドと私的に旅行で来ているわけではない。けれど、近い場所に居るというのに、それを知りながら知らないふりをして、離れて過ごさなければならないとは……。


「けどっ……けど、どうして私には、話してくれなかったんですか……?」


「スイレンは俺と同じく演技に慣れていない。だから、ブレンダンは知っている方が良いが、スイレンは知らない方が良いだろうと思われたんだ……まあ、思ったよりもこうして姿を見せるのが、早くなってしまった。それは、俺も予想外だった」


 そこで、スイレンは伯母マーサに見つかったことを、神に感謝したいくらいだった。


 リカルドがここに居ないことにした方が良いという話も聞いたし、彼の上司の判断も納得出来る。自分は知らない方が上手くいきそうであることも。


「こんなことを言ってしまうのは、いけないかもしれないんですけど……リカルド様が無事で、私と一緒に居てくれるの、すごく嬉しいんです……」


 そこで、スイレンはリカルドの胸に抱きついた。エグゼナガルを救いたいと思ったのも、このリカルドの命を助けてくれたからだ。


 そうしてくれるのなら、自分はなんでも出来るとあの時に思った。


 スイレンはリカルドのことが、世界の誰よりも好きだから。


「ああ。俺も陰ながら……とは言いつつ、君を直接守る立場になれて良かった。これからは、知っているのに知らない振りをするのは大変かもしれないが、もしさっきみたいな危険なことがあっても俺が近くに居るから、安心してくれ」



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