第347話:VS.【黙示録の天使】アルマゲドン① / 〜Trumpeter of Apocalypse〜
「先ずは船体に傷がつかないようにアルマゲドンを甲板から引き剥がさないと……! 憤怒兵装『ラース』形状変化――多銃身回転砲!! 撃て撃て撃てーーッ!!」
「ラムダ=エンシェント、攻撃開始。思考推察――――牽制による当兵器の引き剥がしによる戦艦ラストアークの防衛が目的。障壁機構『城』――――展開」
「此方の意図には気付いているか……! だが、意地でも引き剥がす!! ウォォオオオオオオ!!」
――――戦艦ラストアークで起こった決戦、“黙示録の天使”アルマゲドンと俺との戦いは、多銃身回転砲による掃射攻撃から始まった。右腕に装着された武装『憤怒兵装ラース』は細長い四つの銃身へと形状を変化させ、そこから魔力で精製された弾丸を連続で撃ち出していく。
だが、アルマゲドンは六枚の翼を自身の駆体を覆うように動かして白い障壁を発生させ、俺の攻撃を全て無力化してしまった。
「あれがアルマゲドンに内包された兵器……!」
《七つの厄災を告げる喇叭、名を『黙示録の喇叭吹き』――アルマゲドンは全機械天使の中で唯一汎用の武装を装備しない、専用武装を搭載した兵器なんです……!》
「そしてあれが……絶対防御兵装『城』か……!」
俺の攻撃を高出力エネルギーで消滅させて防いだ盾。それがアルマゲドンの強さの根幹を支える七つの武装『黙示録の喇叭吹き』の一角だ。
その盾の名は『城』――――迫りくる攻撃を受け止めるのでは無く、より高出力の壁で掻き消してしまう効力を持つアルマゲドンの守りの要だ。理屈は簡単だ、相手の鉄拳をより強力な鉄拳で撃ち返して無力化するようなものだ。
遠距離攻撃なら単純に消し飛ぶだけだが、下手に近接攻撃を仕掛ければ強烈な反撃で此方が逆にダメージを負ってしまう。それが『城』と呼ばれた盾の性質だ。
「引き出される出力が過剰すぎて他の機械天使では扱い切れなかった最上級のアーティファクト。それを七つも搭載しているとか贅沢すぎて羨ましいよ……!」
《気を付けてください、ラムダさん! アルマゲドンの兵装はどれも決戦兵器です! 迂闊に喰らえばラムダさんはおろか、零距離で受ければ戦艦ラストアークだってどうなるか分かりません!》
「分かっているさ、戦艦ラストアークには傷一つ付けさせやしない! ノアは艦を飛ばし続けろ! 俺が必ず護ってみせる!!」
アルマゲドンの搭載する武装はあと六つ。いずれも強力なものだ。如何に【魔王装甲】を装備したとは言え、油断はまったく出来ない。
出撃前に『ⅩⅠ』に見せてもらったアルマゲドンの性能は今の俺よりもまだ高い。単純な戦闘能力なら、空中要塞メサイアで戦ったグラトニスすら圧倒している。
「ラムダ=エンシェントの排除を実行。高出力多銃身回転砲『苦悶』――――斉射開始」
「――――ッ!! 高度を上げて攻撃を誘導する! ノア、俺に構わずに行け!!」
そんなアルマゲドンの反撃は両腕に装備した多銃身回転砲『苦悶』による一斉掃射攻撃だ。六つの銃身が高速回転し、銃口から撃ち出されるのは深紅に輝く光量子の弾丸。
だが、先ほど俺が【憤怒兵装ラース】から撃ち出した弾丸とは出力が違い過ぎている。一発一発が小さな隕石並の威力をしている。もし一発でも被弾すれば装甲ごと俺の身体が粉砕されかねない。
そんな危険な攻撃をアルマゲドンは一切の容赦なく撃ち出してきていた。
「まさかいきなり撃ってくるなんて……ラストアークに被弾したらどうする気だ?」
《無駄です、ラムダさん。今のアルマゲドンの優先順位は『ラムダ=エンシェントの排除』になっています。ラムダさんを倒したい、でも戦艦ラストアークは無傷で手に入れたい、なんて“迷い”はあの子には存在しません。貴方を倒すためなら、戦艦ラストアークを容赦なく撃墜してくるでしょう……!》
「ハッ、ラストアークが撃墜されて困るのは俺の方だって計算済みってか? 効率的だな、まさしく兵器だ……!」
大きく高度を上げて飛翔しアルマゲドンの射線上に戦艦ラストアークが被らないようにしたが、ノアの言っている事が正しいのなら状況は良くない。
俺はてっきり、アルマゲドンは『戦艦ラストアークの奪取』と『ラムダ=エンシェントの排除』を並行させるものだと考えていた。だが、実際の彼女の論理は違う。アルマゲドンは俺の排除を最優先事項だと設定し、その遂行を絶対の指令としている。
簡単に言えば、アルマゲドンは戦艦ラストアークを誤って墜落させる事を危惧して、俺への攻撃を躊躇うなんて絶対にしない。俺を倒す過程でラストアークが撃沈してもお構い無しなのだろう。そして、艦を落とされまいと俺が日和った行動に出る事も彼女は予測している。
つまり、アルマゲドンは戦艦ラストアークの確保を放棄しただけで、自身の攻めの手を緩めずに、俺の手だけを緩めさせる事に成功したのだ。まったくもって油断出来ない、自身の性能を誇示して選択肢を間違えたミカエルたちが微笑ましい人間に見えてくるようだ。
このままアルマゲドンを戦艦ラストアークの甲板に留めておくのは危険だ。何かの拍子に艦に直接攻撃されては堪ったものではない。
「このままラストアークに危害を加えられたら面倒だ! e.l.f.、戦輪を出す! 三基を俺の側に、残りの九基をアルマゲドンと距離を開けつつ囲むように配置するんだ!」
「了解です、ご主人様! 色欲翼輪ラスト、起動開始! ハーピィⅠからハーピィⅢはご主人様を援護! ハーピィⅣからハーピィⅫはアルマゲドンを囲みなさい!」
厄介なのはアルマゲドンを守る障壁『城』だ。先ずはあれを破らないと勝負の土台にすら立てない。
その攻略の一手として繰り出すのは翼に装備していた戦輪型の小型兵器だ。e.l.f.の指示で翼から分離した『ハーピィ』と名付けられた十二基の僚機が不規則なジグザグ軌道を描いて飛んでいく。三基は俺の周りを浮遊するように。残りの九基はアルマゲドンを囲むように。
そして、十二基の戦輪は高速回転を開始し、中央の孔が徐々に白い光を放つ転移陣へと変化していく。これで準備は整えた。
「自律兵装の射出を確認、解析開始。小型転移装置を兼ねた戦輪型の兵装と判断。早急に撃ち落とします」
「――――させるか! 暴食冥道グラトニー、魔力充填! 撃ち出せ――――“竜の咆哮”!!」
「戦輪転移陣から高出力攻撃の接近を感知。障壁機構『城』――――起動」
そのまま、左腕に装備した武装である【暴食冥道グラトニー】に左腕を通じて魔力を送り込み、撃ち出すのは竜の咆哮を伴った高出力砲。以前、リンドヴルムやグラトニスが披露した純粋な魔力の塊をただ撃ち出すシンプルな技だ。
だが、単純な技も使い方次第でいくらでも変化する。
俺が撃ち出した“竜の咆哮”は近くに配置してあった戦輪の孔を通じて転移、アルマゲドンの周囲に配置してあった戦輪の一つから突如として撃ち出された。
それを“一つ目”に備わった【行動予測】で観測したのだろう。アルマゲドンは周囲に『城』を展開し、迫りくる攻撃を余裕をもって防いでいた。
「――――ッ! 高出力砲に被せた高密度の質量攻撃を観測。これは……“超重力球”……?」
「その通り、そいつは“闇の救世主”、グラトニスの必殺技さ。勿論、威力は本元よりは劣るけどな」
しかし、先の攻撃はあくまでも“囮”、本命の攻撃は別にある。
アルマゲドンが展開した『城』に阻まれて霧散していく砲撃の中から現れて、白い障壁を喰らうように侵食し始めたのは黒い球体。左腕の武装【暴食冥道グラトニー】に内蔵された“超重力球”を切り分けて撃ち出したものだ。
以前、『メサイアの空』で俺を瀕死に追い込んだグラトニスの必殺技“闇の救世主”の劣化版。それがアルマゲドンの障壁を削り始めていた。
「【行動予測】も万能じゃない。観測できないほど極小の攻撃や、他の“脅威”に被せられた攻撃は観測し難くなる。それで痛い目を見た俺からの忠告だ……!」
「『城』のエナジーが……吸収されている……? 対応模索……出力向上による障壁の強化……期待値小。転移による回避を実行……」
「【脅威観測】……!!」
だが、黒球は障壁を喰われつつあってもアルマゲドンの表情が崩れる事は無かった。障壁越しに視える黒球を数秒観察したアルマゲドンは躊躇うこと無く『城』を解除して飛翔、戦艦ラストアークの甲板から漸く退いた。
どうやら俺が撃ち出した“闇の救世主”と我慢比べをするのは無駄だと判断したらしい。確かにあのままその場に居座っていれば無駄な隙を晒すだけになっていただろう。だから、彼女の判断は間違ってはいない。
「魔剣抜刀……転移開始……!!」
「ラムダ=エンシェントの反応消失……転移……」
「喰い尽くせ――――“暴食魔帝”!!」
「背後からの奇襲……ウィング損傷……!」
彼女が動く瞬間を俺が狙っていた、と言う一点を除けばの話だが。
アルマゲドンが飛翔すると同時に、俺は右眼でその回避行動の行き先を予測。そして、大きく翔んだ彼女に最も近い戦輪に転移陣を繋ぎ、近くの戦輪の孔に飛び込んで俺はアルマゲドンの背後へと急接近した。
そして、そのままアルマゲドンが『城』を展開するよりも疾く、そのまま左腕に握った魔剣を薙いでアルマゲドンの左翼の一枚を斬り落とす事に成功するのだった。
「このまま押し切ってやる! 覚悟しろアルマゲドン!」
「ラムダ=エンシェントの脅威判定を“SS”に更新。十分に対処可能と判断、速やかに排除を実行します」
「なっ……!? 俺を見くびっているのか!? いきなり格下認定なんてしやがって……!!」
だが、まだ戦いは始まったばかり。
俺はこれから知ることになるのだった――――“禁忌級遺物”の一つに数えられたアルマゲドンの真の実力を。




