第346話:魔王装甲アポカリプス
『上部搭乗口、開放。ラムダ=エンシェント、発艦シーケンスへと移行。繰り返す、ラムダ=エンシェント、発艦シーケンスへと移行』
――――戦艦ラストアーク上部格納庫。アルマゲドンによる艦内侵食が続き、ノアによる緊急の艦内放送が流れる中、俺は新たなる装甲を身に纏って決戦へと臨もうとしていた。
俺の身体を覆うのは黒鉄の鎧。今までの白銀の鎧とは正反対な、邪悪な印象を与える物だ。
翼は竜の翼を模した朱い魔力へと変貌し、翼の各部には【天使の輪】に似た戦輪が装着されていた。
そして、右腕には1メートルはゆうに越える紅く発光する巨大な筒状の武装が、左腕にはグラトニスの左腕である“喰魔”を模した黒い口のような武装が装備されている。
加えて、従来通りの仕様として、背中の翼の付け根部分には聖剣と魔剣が装備され、腰には可変銃が装備されている。
〘それは『魔王装甲アポカリプス』――――ノアが開発した【GSアーマー】に私とホープの独自改良を加えた物だ。〙
「魔王装甲……アポカリプス……!」
ホープと『ⅩⅠ』から与えられた俺の新しい装甲の名は【魔王装甲アポカリプス】――――清廉と忠誠を示した白銀の鎧とは相対する、畏怖と復讐を主張した鎧。
世界への反逆者、女神アーカーシャの敵となった俺に相応しい一品だ。
装着した頭部装甲には【魔王装甲】の性能を示した説明図が映し出され、そこに『ⅩⅠ』の解説が一緒に表示されている。
〘先ずは動力炉から……君の有する【第十一永久機関】に合わせ、装甲自体に“世界樹の果実”を内蔵した新しい動力炉を設計した。これは君が今までの不得手にしていた魔法の行使を可能にするための物だ。〙
「魔法を……!? 俺が魔法を使えるようになるのか?」
〘肯定――――これで戦術の幅が大きく広がるだろう。せっかく魔法が繁栄した世界だ、なら魔法と科学を合わせた兵器を用意するべきだな、と用意を張り切ったホープに礼を言うと良い。〙
「ホープが……」
〘加えて、左右の武装にはそれぞれ魔法の詠唱を自動で行なう【自動詠唱】の機能が備わっている。こちらは夜な夜なデータベースに詠唱を打ち込んだトリニティ卿とストルマリアさんに感謝するように。〙
最大の特徴は増設された動力炉によって魔法行使が可能になったこと。これは俺の劣等感を埋めるような機能だ。
元々、エンシェント四兄弟の中で俺だけが魔法の素養が無く、それが劣等感に繋がっていた。何故なら、兄弟たちの母である『ツェーン=エンシェント』が魔法の才に秀でており、その血を引くアインス兄さんたちは魔法の素養があったからだ。
まぁ、真相としては、俺が魔法の才に乏しいアハト=エンシェントとシータ=カミングの隠し子であり、それが原因で魔法が使えなかっただけなのだが。
その欠点を補うための装備が【魔王装甲】なのだろう。さらに詠唱を破棄する為の機能まで加わっているようだ。バイザーに表示された魔法の一覧には下級から上級の魔法まで、攻撃・回復・補助と種類を問わずに記載されている。『ⅩⅠ』の話が正しいのなら、トリニティ卿とストルマリアがコツコツと詠唱を刻んでいってくれたのだろう。
二人には感謝しなければ。
『ラムダ卿へメッセージ――――世界樹の果実と魔法詠唱を刻んだ御礼は身体で支払って頂きます。後日、私とストルマリアお姉様の部屋に来るように。トトリ=トリニティより』
「おい、ⅩⅠ、なんだこのいかがわしい伝言は? お前、他人事だからって二人を制止しなかっただろう?」
〘ハハハ、なんの事かな? 残念だが、その報酬が一番安上がりだったんだ。諦めて貞操を差し出すと良い。なに、ざっと数百年分の情欲を受け止めるだけだ、死にはしない。ちょっと寝込むだけだ。〙
「くそっ、コイツやっぱりムカつくな……!」
トリニティ卿とストルマリアにはどうやら下心があるらしい。そして、『ⅩⅠ』はそれを分かってて止めなかったようだ。質が悪い。
そのまま、その事を悪びれる様子もなく、愛想笑いを文章に起こして『ⅩⅠ』は装甲の解説を続けていく。
〘お次は右腕追加武装。名を『憤怒兵装ラース』――――形状を変化させる流体合金を使用した高出力兵器だ。〙
「憤怒兵装……ラース……」
〘紅い筒状の物体は君の意思に合わせて即座に形を変える。斬撃武装、射撃武装、魔杖武装、補助武装、詳しくは別項を参照してくれ。〙
右腕の武装の名は『憤怒兵装ラース』――――筒状の流体合金を形状変化させて使用する武器のようだ。腕を固定する持ち手の部分と筒の間の柄には魔杖に使われている赤い魔石が埋め込まれている。ここに魔法の詠唱が刻まれているのだろう。
試しに大剣を思い浮かべると、紅い筒はみるみると形状を変化させて思い描いた通りの大剣へと変化した。これは予測だが、錬金術師の魔法を応用させているのだろう。“銀”を操るセブンスコード卿も似たような事をしていた。そこから着想を得たと考えられる。
〘次は左腕追加武装。名を『暴食冥道グラトニー』――――察しの通りルクスリア=グラトニスの“喰魔”を模した兵装だ。〙
「やっぱり……と言う事は、機能も似たものに……?」
〘肯定――――その武装を内部に極小の“超重力球”を内蔵している。それであらゆる物を喰い尽くし、喰らったものを吐き出して攻撃できる。勿論、ルクスリアからは使用許可を頂いている。ほんの五分前にだがね。〙
「ギリギリじゃねぇか……」
左腕の武装の名は『暴食冥道グラトニー』――――その名が示す通り、“暴食の魔王”グラトニスの左腕である“喰魔”を再現した武装だ。曰く、内部に極小の超重力球を内蔵してグラトニスの権能を擬似的に再現しているらしい。
唸り声のような異音を響かせる魔獣の口。どうやら物質や魔素を問答無用で喰らい、捕食したものを吐き出す機能があるらしい。加えて、この武装にもちょうど目玉に位置する部分に魔石が二つ装着されている。これで魔法を行使して、舌を形状変化させる事が出来るのだろう。
《聴こえておるかー、ラムダー? 儂の十八番を模倣させてやったんじゃ、見返りは高く付くぞ? とりあえず、何処かでデートでもしようではないか。獣国でのデートの続きじゃ! クハーッハッハッハ!》
「…………またか」
〘己のが身一つで大幅な強化が見込めるのだ、利用しない手はないだろう? 安心したまえ、取って食われる訳では無い。むしろご褒美だと思っておくと良い。〙
「他人事だからって……! いっぺん同じ目に遭え!」
〘ハハハ、残念、私はAIだから物理的な干渉はもう受けないのだ。では、次の武装の紹介に移ろう。〙
どうやらこの武装はグラトニスの許可なく勝手に造ったもののようだ。今しがた、グラトニスから使用料をせびる通信が聴こえてきた。きっと『ⅩⅠ』が俺を抵当に出したに違いない。
だがやはり『ⅩⅠ』には悪びれる様子は無い。むしろ良いことをしてやったと言いたげな言葉を書き連ねている。そのまま素知らぬ顔(素顔は分からないが)で『ⅩⅠ』は次の武装の紹介に移行した。
〘次は現状紹介できる最後の武装。名を『色欲翼輪ラスト』――――これもお察しの通り、君用に調整した【天使の輪】の亜種だ。〙
「色欲翼輪ラスト……次元転送装置の類か……!」
〘肯定――――ウィングに装着した十二基の戦輪が君の戦闘を補助する。回転刃のように使用するも良し、射撃攻撃を転移させて死角を攻撃させるも良し、使い方は君の頭脳次第だ。〙
「俺自身の転移は可能か?」
〘可能だ。戦輪は大きさをある程度なら変えられる。そして、戦輪自体を小型の転移陣として活用も出来る。あと、武装の制御はe.l.f.に任せると良い。彼女には色欲翼輪ラストの説明書を既にインストールしてある。〙
「頭が破裂しそうです、ご主人様! 何故、聖剣の疑似人格である私がここまで酷使されるのでしょうか? 正当な対価を要求します!」
「…………」
翼の各部に装着された十二基の戦輪、名を『色欲翼輪ラスト』―――――ミカエルが使用していた光輪【天使の輪】の亜種のような存在らしい。
使用を見る限りは【天使の輪】とほぼ同じ。これは俺にとっては僥倖だ。あの武装は欲しかったのにアズラエルに奪われてしまったからだ。それと同様の物が手に入ったのなら文句は無い。
〘まだ開発中の武装はあるが、現状で使えるのはその三つだ。ラムダ=エンシェント、その新しい“翼”でアルマゲドンを撃退できそうかな?〙
「――――ハッ、ここまでお膳立てされて、みすみす負けるようなヘマはしないさ! ノアに伝えておけ、アルマゲドンを鹵獲して贈りつけてやるってな!」
〘良い意気込みだ。その決意表明は責任を持ってノアに届けておこう。ではラムダ=エンシェントよ――武運を祈る。〙
ここまでしてもらったんだ、負けるわけにはいかない。
その意思を『ⅩⅠ』に伝えた俺は、ゆっくりと深呼吸をしてアルマゲドンとの対峙の瞬間を待った。
ゆっくりとせり上がっていく足場、此処は戦闘機を甲板から発艦させる為の設備だ。だから、このまま甲板に上がれば俺はアルマゲドンと対峙できる。
この戦いが、立ちはだかるアルマゲドンが、グランティアーゼ王国からの脱出を図る俺たちの『最後の壁』になるだろう。だから、最強の機械天使を倒して、俺たちは壁を乗り越えて羽ばたく。
「敵性個体識別――――“傲慢の魔王”ラムダ=エンシェントと認識。最優先排除対象として設定。排除せよ、排除せよ、排除せよ」
「黙示録の天使……アルマゲドン……!」
そして、足場は完全に甲板へと上がりきり、俺の目の前に小さな天使が姿を現した。
俺の素性を朱い“一つ目”で識別し、敵と判断するやいなや凄まじいエネルギーを放出して戦闘態勢に移行するアルマゲドン。彼女が俺に集中するのなら、戦艦ラストアークを侵食する“毒”の進行は遅れる事になる。そうなればノアたちが対処してくれるだろう。
俺の役目はアルマゲドンを物理的に無力化する事だ。新しく得た【魔王装甲】を起動させて、俺も目の前の天使との戦うため体勢へと移行する。
「アルマゲドン、俺たちは世界へと羽ばたく! 邪魔をするなら――――此処で倒す!!」
「ラムダ=エンシェントの出力向上を観測。対象の脅威度を“EX”に設定。これより排除を開始します」
「いざ尋常に――――勝負ッッ!!」
そして、零下の乱層雲の中、吹き荒ぶ暴風の中で、俺とアルマゲドンは翼を大きく広げて開戦の喇叭を鳴らすのだった。




