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第340話:本当の旅の始まり《SIDE:ノア》


「こちら艦橋ブリッジ、ノア=ラストアークです! 区画セクション3014(サンマルイチヨン)、ルシファー、そちらの作業進捗の報告を!」


《こちらルシファー、区画3014、動力供給ラインの接続完了しました! これより区画3017へ向かいます!》


区画セクション111(イチイチイチ)、ソフィア=ローレンスさん、第12対空砲の進捗をお願いします!」


《こちら区画111、ソフィア=ローレンス。第12から第16対空砲まで組み立て完了しています。手持ち無沙汰です、早急に次の指示を》


「思ってた三倍の速度で作業を進めてた……!? わ、分かりました……ソフィアさんはそのまま区画1に向かい主要動力炉メインリアクターの作業を手伝って下さい!」



 ――――戦艦ラストアーク艦橋ブリッジ機械天使ティタノマキナとラストアーク騎士団の戦闘が開始されてから二十分後。ノアの指示の元、非戦闘員全員が艦内を駆けずり回って戦艦ラストアークの工事を突貫で進めていた。


 必要な要素ファクターは飛び立つための出力、そして機械天使ティタノマキナの包囲網を破るだけの火力。その為、ノアは戦艦ラストアークの航行機関と対空砲の完成を優先させていた。


 立体映像ホログラムで表示された戦艦ラストアークの全体像を解析して各区画に人員を送り、自身は手元にあるキーボードで必要な情報データを打ち込んでいく。そんな作業をノアは常人では達成できない速度でこなしていた。



ⅩⅠ(イレブン)さん、外の様子は!?」


〘【大天使アーク・エンジェル】ミカエルはラムダ=エンシェントによって無力化された。だが、状況は良くない。アズラエルが空域に現れて、手負いのミカエルを襲っている。〙


「アズラエルが……!? くっ……あの子はラムダさんの殺害に執着している。何をしでかすか全く分からない……」


〘君の意見に賛成だ。アズラエルとは今は関わらない方が吉だろう。急げ、このままでは犠牲者は出るぞ。〙



 一方、迫りくる機械天使ティタノマキナを食い止めに向かったラムダ=エンシェントたちの状況はかんばしくない。軍勢を率いていた【大天使アーク・エンジェル】ミカエルはラムダの前に敗北を喫した。


 だが、直後にもう一機の【大天使アーク・エンジェル】であるアズラエルが襲撃。ミカエルを背後からつるぎで貫いていた。


 アズラエル――――ラムダがかつて倒した機械天使ティタノマキナの一機。彼女は自身を打ち破ったラムダへの復讐に燃えている。そして、復讐を果たすことを最優先とし、如何なる犠牲を払うこともいとわない狂気性を孕んでいる。本来は味方であるミカエルを背後から襲った事が何よりの証拠である。


 彼女は危険だ、そんな本能的な衝動に駆られ、地上の様子を観測モニタリングしていた『ⅩⅠ(イレヴン)』に焚き付けられ、ノアの手に熱が帯びていく。



〘ノア、なぜ君は戦う? もう君が護りたい世界は此処には無い。此処に在るのは女神アーカーシャが造った偽物の世界だ。〙


「気が散ります。余計な禅問答は戦艦ラストアークを飛ばしてからにしてください、ⅩⅠ(イレヴン)さん」



 事態は一刻を争う。アズラエルが余計な事をする前に戦艦ラストアークを浮上させる必要がある。だというのに、『ⅩⅠ(イレヴン)』はノアに“戦う理由”を訊いてきたのだ。


 当然、ノアは“作業の邪魔”だと『ⅩⅠ(イレヴン)』の問い掛けを軽くあしらった。だが、それでも戦艦ラストアークに内蔵されたAIの問い掛けが止まる事は無かった。



〘あの日、女神システムアーカーシャの反乱の日、君は何もかもを奪われた。これはその復讐か? 或いは贖罪か?〙


「――――どちらも“肯定イエス”です。私は、復讐の為に生きて、贖罪の為に生きています。それが……大罪人である私に残された“みち”です……」


〘君は被害者だ、加害者では無い。女神アーカーシャには外部から不正に介入アクセスされた形跡が認められた。これは君の無罪を示す証拠だ。〙


「無意味な証拠です。そんなものを今さら出したって、私の罪をはかる司法はもう存在しない。随分と私を擁護するのですね、ⅩⅠ(イレヴン)さん?」


〘私は真実を明かしたいだけだ。君は世界の平和を願って“神”を創り上げた、たったそれだけなんだ。なのに、君の願いを狂わせた者が居た。全て識っていた癖に、世界が滅びるのを黙認した者が居た。真に裁かれるべき者は他にいる。〙


「…………」


〘ノアは何も悪くない。これ以上、十字架を背負わなくてもいい筈だ。〙


「口は災いのもと――――()が漏れてますよ、ⅩⅠ(イレヴン)さん? まだまだAlの打ち込みは甘いみたいですね?」



 ノアは自身が創り上げた女神アーカーシャへの復讐と、滅び去った古代文明への贖罪の為に生きている。残された僅かな寿命を薪に焚べながら。


 それを『ⅩⅠ(イレヴン)』は憂いていた。


 今、戦艦ラストアーク浮上の為に懸命に手と口を動かす少女には、実のところ背負うべき“罪”は無いと『ⅩⅠ(イレヴン)』は言う。女神アーカーシャの設計に不備は無かった、女神システムが狂ったのは外部からの介入が原因だとノアを庇い立てて。


 だが、ノアが肩に張った力を緩める事は無かった。彼女はただ黙々とキーボードにプログラムを打ち込み、口を使って仲間たちを動かし続けている。そこに“葛藤”は無く、在るのは“覚悟”のみ。



「ねぇ、ⅩⅠ(イレヴン)さん、私から“罪”を奪わないで。これは私の贖罪、私の復讐、そして私の旅なの。だから、最後まで責任を持たせて。ラムダさんを騎士として迎え入れた責任を、最後まで果たさせて……」


〘ノア……君は、止まるつもりは無いんだね?〙


「止まりません。たとえ病で身体が朽ち果てようとも、手足が削がれようとも、私は女神アーカーシャを解体して、のが使命を果たします! ラムダさんと一緒に世界の果てに行って、ラムダさんに素敵な贈り物を遺す事が……私の最期の『夢』だから……!」


〘分かった。それが君の意志だと言うのなら、私は君の旅を支えよう。〙


「ありがとう……ⅩⅠ(イレヴン)さん……」



 ノアの決心は揺るがない。たとえ過酷な旅だとしても、残された時間が少ないとしても、彼女は立ち止まる事を選ぼうとはしなかった。


 彼女を突き動かすのは“復讐”、“贖罪”、そして“夢”。


 それを見極めたのだろう、『ⅩⅠ(イレヴン)』がこれ以上余計な問答をノアにすることは無かった。戦艦ラストアークを護るAIはただただ、ノアが打ち込んだ情報データを組み立てて未完の方舟を組み立てていく。



「ノア、ⅩⅠ(イレヴン)とのお喋りは終わったか? オレの方は準備ができた! 戦艦ラストアークの航行機関の組み立ては完了だ! いつでも発艦出来るぜ!」


「あっ……戦艦ラストアークのOSの書き込みが終わっている……? 無我夢中で手を動かしてて全然気が付かなかった……」


〘私との会話で集中力が跳ね上がっていたようだね? やはり、誰かの為を想っている方が性能パフォーマンスが向上するみたいだ。〙


「私を上手に扱ったみたいね、ⅩⅠ(イレヴン)さん? まったく……狐につままれた気分だわ……」



 そして、遂にその時はやって来た。


 艦橋ブリッジで作業をしていたホープの声で我に返ったノアが目の当たりにしたのは、必要な作業を完了し、いつでも飛び立てる状態になった戦艦ラストアークの立体映像ホログラムだった。


 掛かった時間は二十五分、ノアがラムダに宣言した三十分よりもさらに早い時間である。それは、ノアが自身の想定よりも能力を発揮できた瞬間、ノア=ラストアークという少女が自身の『壁』を乗り越えた瞬間であった。


 無論、戦艦浮上の為に尽力した者たちが優秀だった事も要因に挙げられる。そして、自分たちを信じてくれた仲間たちに感謝し、頬に一雫の涙を伝わせながら、ノアは力強い瞳で前を見据える。



「総員に告げる。これより戦艦ラストアークは浮上し、地上で敵の侵攻を食い止めている友軍を救出します! 各自、近くの物に掴まって衝撃に備えて下さい!」


「いよぉし、いよいよ戦艦ラストアークの浮上だぜェ! ⅩⅠ(イレヴン)、発艦シーケンスに移行しなァ!!」


〘――――了解。戦艦ラストアーク、これより発艦シーケンスへと移行する。主要動力炉メインリアクター――――第一(アルファ)第ニ(ベータ)第三(ガンマ)第四(デルタ)、“永久機関インフィニット・ドライヴ”、駆動開始。〙


「反重力制御機関、駆動開始! 光量子障壁フォトン・バリア、起動! 戦艦ラストアーク、戦闘状態に移行せよ!!」


〘ノア=ラストアーク艦長による命令オーダー――――受理。戦艦ラストアーク、浮上開始。〙



 ノアの号令と共に動き出す戦艦ラストアーク――――船体の底部や左右の翼に備え付けられた“反重力制御機関”であるリングは翡翠エメラルド色の粒子を撒き散らしながら起動し、全長2000メートルを超える巨大戦艦はゆっくりと浮上していく。


 地下格納庫を閉ざした分厚い氷の天井は地響きと共に砕かれていき、十万年の間、戦艦ラストアークを隠し続けていた格納庫は役目を全うして氷の瓦礫に埋もれていく。世界へと羽ばたき始めた反逆者を見送りながら。



「対空砲、全機装填! いつでもブチかませるぜ、ノア! さぁ、女神アーカーシャの鼻を明かしてやろうじゃねぇか!!」


〘さぁ、共に世界の果てへと行こう、ノア。〙


「ここからが、私たちの旅の本当の始まり……! 一緒に羽ばたいて、“最後の希望”よ! 戦艦ラストアーク――――発艦ッッ!!」



 そして、ノアが力いっぱいに目の前の操縦桿を引き倒した瞬間、戦艦ラストアークは光を放出しながら勢いをつけて浮上し始めた。

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