第339話:VS.【神に似た者】ミカエル② / 一番のプライド
「機械天使ミカエル、私の弟との決闘に邪魔者をけしかけるなんて、恥を知りなさい!」
「“竜騎士”ツヴァイ=エンシェント……ラムダ=エンシェントの姉か……! ふんっ、兄が死んだぐらいでめそめそしてたクソ雑魚メンタルの泣き虫が……!!」
「姉さん……」
ミカエルを咎めるように、剣の切っ先を彼女に向けるツヴァイ姉さん。その凛とした立ち振る舞いは俺のよく知る姉の“騎士”としての姿だ。
ツヴァイ姉さんは王都から脱出した後、アインス兄さんと父さんの死に精神を苛まれて鬱状態になっていた。戦艦ラストアークに至るまで何度か姉さんの姿を俺も見ていたが、ずっと俯いて声も掛けられないぐらいだった。
そんな姉さんが今は気丈に振る舞っている。多分、俺と同じでボロボロの精神を隠しているだけだろうとは思うが、それでも唯一残った姉弟が再び立ち上がったのは嬉しい限りだ。
ツェーン母さんの説得が功を奏したのだろう。
「これは決闘じゃ無いわ、ただの掃除よ! 戦艦ラストアークに群がる『人間』を自機たち機械天使が行なうね! そこに卑怯も恥もありはしないわ……!」
「そう……なら、私たちも手段を選ばなくて良いって事ね、機械天使ミカエル?」
「そういうこと♪ 量産型〜、自機の邪魔をする蝿を撃ち落としなさい! 自機はラムダ=エンシェントを撃ち落とすから……!」
「まずい……周囲に居た量産型が集まって来ている……!? 姉さん!」
だが、それで一難が去った訳では無い。むしろ、ここからが本番だろう。
俺との戦いに割って入ったツヴァイ姉さんの存在が気に食わないのか、ミカエルは周囲に居た量産型を集結させ始めた。自身の配下にツヴァイ姉さんや俺を攻撃させ、戦いを優位に進めるつもりなのだろう。
続々と俺と姉さんを囲んでいく機械天使の群れ。その数は50機、二人で相手取るには中々に骨が折れそうだ。
「――――おい、誰の許可を得ておれの花嫁に手を出している? 不届きな天使め、不愉快だ――――“血ノ砲撃”!!」
「なっ、貴方はアケディアス――――って、きゃああ!?」
「アケディアス……ツヴァイ姉さんが出て来たらすぐに寄って来たな……」
だが、ミカエルは誤算していた。今のツヴァイ姉さんには護衛が付いている。姉さんが危機とあらば、彼は真っ先に駆け付けると確信していた。
そして、俺の確信通り、俺たちを囲む機械天使たちを真っ赤な魔力によって束ねられた砲撃で蹴散らしながら現れたのは吸血鬼の男、アケディアス=ルージュだ。
「アケディアス……」
「ようやく元気になったな、ツヴァイ。曇った顔のお前も美しいが、やはり凛としたその顔が一番おれの情欲を唆る……! それでこそ、我が花嫁に相応しいというものだ!」
「アケディアス=ルージュゥゥ……!! グラトニスにも、ラムダ=エンシェントにも、この自機にも遅れを取った“負け犬”がぁ……自機の邪魔をしないで……!!」
「ほぅ、まだ王都でおれに優位を取った事を自慢にしているのか? 過去の栄光を後生大事に誇るとは、よっぽど今の自分には誇るものが無いらしいな? そんなにも『二番手』は嫌か?」
「〜〜〜〜ッッ!! だ、黙れェェ!! どいつもこいつも雑魚の分際で自機を馬鹿にしてェェ……!! 自機は機械天使の初号機よ! 全ての機械天使は自機の後追いでしかないの!! 自機が一番よ、自機が一番なのよ!!」
「ふん、現在を正しく認識できず、自分は一番だと言い聞かせて現実逃避をするとは……。ノア=ラストアークの開発した機械天使にしては些かお粗末だな?」
「なっ……自機が……お粗末だって……?」
飛竜の上でツヴァイ姉さんを脇に抱えて、アケディアスはあいも変わらずミカエルを煽り散らしている。そして、アケディアスは恐らく、ミカエルの抱える“劣等感”を完全に踏み抜いたのだろう。
アケディアスが『お粗末』だとミカエルを罵った瞬間、ミカエルは俯いて黙り込んでしまった。
ここまでの会話で分かったこと、それはミカエルが『自身が機械天使で最優の存在である』という事に拘っていることだ。彼女はノアが開発した機械天使の第一号機、性能もかなり盛られている。それが彼女の自信過剰な性格の“支え”になっていたのだろう。
だが、ノアが後に開発した【黙示録の天使】に性能で大差を付けられ、ミカエルは自らの面子を破壊された。性格の歪みもその影響で激しくなったのだろう。とにかく相手を見下したい、自分が優位でなければ気が済まない、傍から見れば酷く幼稚だ。
そして、アケディアスの言う通り、ノアが造った機械天使としては『お粗末』な出来だと言わざるを得ない。それがミカエルという天使の在り方だ。
「ふっ……ふふふっ、あっははははは!! あははははははは!! それで、それでぇ……自機が自棄っぱちになるとでも?」
「――――ッ!! 姉さん、アケディアス、ミカエルは二人を狙っている! すぐにその場から離れて!!」
「ほんとウザい、本気でウザい!! “天使の輪”、雑魚どもに教えてあげなさい!! 今、この場では誰が最強かをねェ!! 死にさらせ――――“銃殺”!!」
そして、そんな幼稚な在り方が示す通りにミカエルは怒りの混じった歯軋り混じりの笑みを浮かべ、自身の側に控えさせていた“光輪”から砲撃を繰り出してツヴァイ姉さんたちを攻撃し始めた。
ミカエルは『自棄になるとでも?』と自身が冷静である事を強調しているが、あの様子は完全に怒りに狂っている。あくまでも『効いていません』と強がっているだけだ。
「まだまだ……まだまだぁ……!! もっとよ、もっと降り注ぎなさい、裁きの光よ!! 神に歯向かう反逆者を根絶やしにしなさい!!」
「【大天使】ミカエルからの“友軍誤射”……回避不能……」
「あいつ、味方まで巻き込んでいるのか……!? やめろ、ミカエル、自軍まで全滅させる気か!?」
“光輪”からの攻撃はさらに激化していく。ミカエルの周囲を前後左右、上下左右と隙間なく囲んだ輪っかの孔からは光線が撃ち出され続けている。
あまりの弾幕っぷりに、俺たちはもう躱すので精一杯な状態だ。それだけではなく、ミカエルが引き連れて来た量産型の機械天使にも犠牲者出始めている。このままミカエルを暴れさせ続ければ、ラストアーク騎士団は疎か、機械天使たちも全滅してしまうだろう。
地上にもミカエルの攻撃が降り注いで、アンジュたちが地表での爆発で身動きが取りづらくなっているのが視える。
「ハッ、量産型の事なんて知ったちゃ無いわ! 自機さえ残っていれば戦艦ラストアークの奪取は可能よ! だからもっと火力を、もっと火力を寄越して……!」
「ラムダ、このままじゃ……!」
「分かっているよ、姉さん! ミカエルをこのまま放置は出来ない、全力で食い止める!! 【ルミナス・ウィング】――――ブースト全開ッ!!」
ミカエルは味方もろとも巻き込んでラストアーク騎士団を排除して、自分ひとりで戦艦ラストアークを奪うつもりらしい。無論、そんなことは俺が許さない。
だから、弾幕を隙間なく飛散させるミカエルに向けて、背中の翼から光を放出させながら俺は飛んでいく。そして、ミカエルは俺を撃ち落とそうと、右手で掴んだ“光輪”を此方に目掛けて思いっきり投げつけた。
「この……ッ!! しつこいんだよ、雑魚がァ!! 死ね――――“電気椅子”!!」
「【脅威観測】――――そこだ! 【オーバードライヴ】発動――――瞬間移動!!」
「しまっ――――ッ!? 技を出す瞬間を狙われた!?」
その瞬間が、自身の致命的な隙になるとも予測せずに。
投げ付けた“光輪”は俺に当たる直前、向きを変えて中央の孔を此方に向けてきた。右眼には観えていた、これは“光輪”を戦輪に見立てた攻撃に偽装した砲撃だ。
少し前に俺が同じ方法で投げ付けた輪っかを聖剣と魔剣で斬り払ったのを見て思い付いたのだろう。孔から微かに視えたのは星々の輝く『宇宙』と呼ばれた場所に浮かぶ人工物。その物体の先端に備え付けられた針のような砲身から、眩い閃光は放たれた。
だけど、俺はその攻撃を待っていた。
“光輪”の孔から光が溢れる刹那、俺は【オーバードライヴ】と共に瞬間移動して攻撃を回避。そして、そのままミカエルの前に姿を現した。
そして――――
「くっ、まだ……自機はぁ……!!」
「これで終わりだ、ミカエルゥゥウウウ!!」
「――――ッ、アァアア!?」
――――“光輪”を掴もうと伸ばした両腕を斬り落として、俺はミカエルを無力化させることに成功するのだった。
切断された華奢な両腕は輪っかを握ったまま地面へと落下。腕を失ったミカエルは俺から逃げるように後退りして距離を離していく。
「そんな……自機の腕が……!?」
「自身の性能を鼻に掛けた報いだな。もう“光輪”は握れない、観念しろ、ミカエル!」
「くそッ……【大天使】の長である自機が……こんな無様を……!!」
俺にしてやられた事が気に食わないのか、プルプルと駆体を震わせて屈辱を露わにするミカエル。その姿はどう見ても敗北が決定している。
だけど、妙な胸騒ぎがあった。
彼女はまだ勝負を諦めていない。
ミカエルの後ろには大きめのサイズの“光輪”が一つ、孔を向けた状態で待機している。ただ偶然、其処にあったのなら大丈夫だが、もしそれがミカエルの意思で配置されたのなら問題だ。
そして、俺の予測通りに、ミカエルの背後の“光輪”は激しい回転とともに孔を転移陣に変えてきた。恐らくは先ほど目撃した人工衛星から攻撃を放つつもりなのだろう。
「ミカエル……お前、自分を巻き込んでまで俺を殺すつもりか……!?」
「そうよ……! それが最良、最善の判断です! 自機にだってねぇ、“面子”ってもんがあんのよ!!」
自分自身を犠牲にしてまで。
先ほどまで四方八方を攻撃していた“光輪”も今は静かに俺とミカエルを囲っていて、逃げ道は無い。瞬間移動で逃げようにも時間が足りるかどうかは分からない。
だが、ここで諦める訳にもいかない。そう即座に判断し、俺はその場を離脱する準備を進めていた。
そして、ミカエルが“光輪”から光を放とうとした瞬間だった――――
「さぁ、自機と一緒に死になさい、ラムダ=エンシェント! 特別に、貴方だけは『雑魚』から『それなり』に格上げしてあげるからさ……!」
「駄目よ……駄目、駄目、だぁめ♡ ラムダ=エンシェントは忘機の獲物。あなたみたいなイキるだけの雑魚には勿体ないわぁ……!」
「その声――――まさかッ!? あっ……うぁ……お前……どうして……!?」
――――ミカエルの胸元を蒼白い剣が背後から貫き、“光輪”の孔から這い出るように、アズラエルが姿を見せたのは。
「はぁい、ラムダ=エンシェント♡ 遊びに来ちゃった♪ すぐに殺してあげるから、ちょっと待っててね♡」




