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第337話:オペレーション・ラストホープ


「おい、『ⅩⅠ(イレヴン)』! 約束どおりノアを連れて来たぞ! さっさと艦橋ブリッジの電源を付けろ!」


〘帰って来るなり乱暴な物言いだね、ホープ? そんな事ではいつまで経ってもノアには及ばないよ?〙


「ケッ、黙ってろ、それよりも時間が無い! さっさと戦艦ラストアークが抱える問題の提示を!」



 ――――戦艦ラストアーク艦橋ブリッジ、巨大な戦艦の頭脳とも言える場所に俺たちは案内されていた。


 艦橋ブリッジは明るい照明に照らされた真っ白な空間。部屋の中央には立体映像ホログラムを投影する機能を兼ね備えたテーブルが設置されており、今は青白い立体映像で地球儀が投映されている。


 部屋には無数のモニターと座席が設けられている。此処で戦艦ラストアークの航行や戦術指揮を行なうのだろう。そして、正面の窓の上部に設置された巨大なモニターにはホープをからかうような内容のメッセージが表示されていた。



「なんだあれ? 画面にメッセージが映っているのか? 一体誰が……?」


〘グッドモーニング、ラムダ=エンシェント。私の名前は『ⅩⅠ(イレヴン)』。この戦艦ラストアークの運行を管理する人工知能だ。〙


「『ⅩⅠ(イレヴン)』……慰霊碑でホープと会話していた……!」



 メッセージを表示しているのは『ⅩⅠ(イレヴン)』と呼ばれた戦艦ラストアークの管理AI。以前、慰霊碑で出会ったホープとやり取りをしていた人物だ。


 だが、それ以上の素性は分からない。


 モニターに映っているのは『ⅩⅠ(イレヴン)』が記した文章テキストだけ。声も分からない、性別も不明、分かっているのはホープに対して軽い煽りをいれるような性格をしている事ぐらいだろうか。



「警戒しているのか、ラムダ? 安心しろ、『ⅩⅠ(イレヴン)』はれっきとしたオレたちの味方だ」


〘私に備わっている機能は戦艦ラストアークを運行し、ノアの旅を手助けする事だけだ。どうか信用してほしい。〙


「…………」



 恐らくは、この『ⅩⅠ(イレヴン)』が遠隔でホープに指示を出し、ラストアーク騎士団の勢力を秘密裏に集めていたのだろう。なんとなくそんな気がする。


 ホープがお墨付きを出している以上、『ⅩⅠ(イレヴン)』は味方で間違い無い。けど、何故か俺は謎の人工知能に対して、何か言い表せない感情を抱いていた。



〘やぁ、久しぶりだね、ノア。十万年、君と再び出逢える日を楽しみに待っていたよ。〙


「『ⅩⅠ(イレヴン)』……そっか、そういうことだったのね……。いつの間に戦艦ラストアークに人格の写しを録ったの?」


〘君の隙を突いてね。なに、君から教えを受けた後だったから造作もない事だったよ。そして、単純だった戦艦ラストアークの管理AIに自分の人格を投影した。それが君の疑問に対する『解答』だ。〙



 それは、『ⅩⅠ(イレヴン)』に対してノアが過去を懐かしむような穏やかな笑顔を見せていたからだ。『ⅩⅠ(イレヴン)』はきっと俺の知らないノアを知っている。そう思うと胸にとげが刺さったような感触に襲われた。


 別に、『俺の知らないノア』ならホープやジブリールたち機械天使ティタノマキナも知っている。今に始まった話では無い。なのに、あの『ⅩⅠ(イレヴン)』にだけは、俺は強烈な“嫉妬”を覚えてしまっていた。



〘私の存在がしゃくなのかい、ラムダ=エンシェント? 安心したまえ、ノアの“騎士”は君だ。私はただの“AI(人工知能)”、あくまでも援護しか出来ない存在だ。〙


「俺は……ノアの騎士じゃない……ただの護衛だ。騎士の器じゃなかったんだ……」


〘君がそう自覚していても、ノアは君を“騎士”として認識している。それはゆめ忘れぬように。彼女の期待に応える事こそが、君の本懐だ。〙


「…………」


「あまりラムダさんをからかわないで、『ⅩⅠ(イレヴン)』! 彼はまだ王都の傷が癒えていないの。早く本題に入りましょう……!」


〘――――承知した。では戦艦ラストアークの現在の全体図と、発艦までに最低限完成させなければならない箇所について表示しよう。〙



 俺を諭すように“騎士”の心得を説いてきた『ⅩⅠ(イレヴン)』。たかが人工知能が何様だと思わなくもないが、何故か彼(?)の言葉は胸に突き刺さる。


 無意識に避けていた話題を引っ張り出されたからか?


 一瞬、暗い表情をしたのをノアは見逃さなかったのだろう。彼女は本題に入るように促して話題を逸らし、少しの間を置いてから『ⅩⅠ(イレヴン)』は中央のディスプレイに戦艦ラストアークの全体図を表示し始めた。



〘現状、未完成な機構は『反重力制御装置』と『圧力調整機関』、それと『光量子推進制御機関』だ。これを早急に完成させないと戦艦ラストアークは発艦すらままならない。それぞれ作業進捗は90パーセントまで進んでいる。〙


「ちょっと、どういうことなの、ホープ!? 絶妙に完成してないじゃない! もうちょっと頑張りなさいよ!」


「文句言うなよ、ノア! オレだって頑張ったんだ! けど、あとちょっとの所で女神システムアーカーシャの反乱が始まっちまって、戦艦ラストアークの隠蔽の為に作業を中断して、オレも冷凍睡眠コールド・スリープするしかなかったの!!」


〘連邦国庫に不正アクセスして横領した資金で買った資材でなんとか形だけは取り繕えたが、残念、時間だけは買えなかったと言う訳だ。ごめんね。〙


「意外と茶目っ気を出しますわね、『ⅩⅠ(イレヴン)』と言う方は……。管理AIと言うので、わたくしてっきり例のノアさんの『マキナ』状態に近いものを想像していたのですが……」



 現在の戦艦ラストアークは未完成の状態。特に、重要ないくつかの機関を動かせるようにしないと発艦すらままならないらしい。


 原因は時間の無さ――――ホープは秘密裏に戦艦ラストアークを建造していたらしいが、完成間近で女神システムアーカーシャの反乱が発生。戦艦ラストアークの露見を防ぐためにホープは建造を中断して冷凍睡眠コールド・スリープせざるを得なかったらしい。


 その残りの作業を現在のノアが請け負うと言う流れだ。あまりの無茶ぶりにノアも怒りを露わにしてホープと『ⅩⅠ(イレヴン)』に愚痴をこぼしている。



「あ~ッ、もう! ミカエルが迫っている中で戦艦ラストアークを飛べるようにしろって!? とんだ無茶ぶりね!」


〘加えて言うなら、機械天使ティタノマキナミカエルが此処に到達したようだ。映像を中央スクリーンに出すぞ。〙


「――――ッ! ようやく機械天使ティタノマキナのリーダーのお出ましか……!」



 そして、時間の無さは現在まで続いているようだ。


 艦橋ブリッジの巨大なモニターに映し出されたのは、地上に残した強襲要塞トロイメライからの映像。其処には、戦艦ラストアークの眠る格納庫の上空を取り囲むように展開した機械天使ティタノマキナが空を埋め尽くすように飛んでいた。


 その大軍を率いるのは白金プラチナの髪の機械天使ティタノマキナミカエル。だだっ広い雪の荒野にポツンと置かれた強襲要塞トロイメライを補足して現れたのだろう。



〘布陣した【天使エンジェル】の数――――3000。流石は機械天使ティタノマキナおさであるミカエル、桁違いの軍勢を率いて来たな。〙


『聴こえるぅ、愚かな反逆者たち? 今から此処を爆撃してあなた達を皆殺しにしてあげる♪ そして、戦艦ラストアークは我々が接収するわ!』


〘ノア、時間が無い。ホープと共に戦艦ラストアークを飛べるようにするんだ。このままだと我々は飛ぶことなく全滅するだろう。〙



 すでに量産型の機械天使ティタノマキナによる掃射攻撃は開始され格納庫の入口だった建物は崩壊、障壁バリアを張ってはいるが強襲要塞トロイメライも激しい弾幕に晒されていた。


 このままなら、戦艦ラストアークが在る地下格納庫までミカエルが踏み込んで来て俺たちは全滅するだろう。それを察した艦橋ブリッジの全員の表情が一気に強張った。



「ノア、俺たちが時間を稼ぐ! ノアはホープと強力して戦艦ラストアークを飛べるようにしてくれ!」


〘残す作業は各部品の連結、戦艦ラストアーク運用OS(オー・エス)のプログラミング、各機器の数値の打ち込みだ。率直に訊く、どの程度の時間で作業が出来上がる?〙


「――――三十分、時間をください! 動ける人員を総動員して、それまで時間を稼げれば、私が戦艦ラストアークを空へと上げます!」


〘聴いたな、ラムダ=エンシェント? それが君が稼ぐ時間だ。ノアは必ず君の期待に応える。君は彼女の期待に応えれるか?〙


「俺に喧嘩を売っているのか、『ⅩⅠ(イレヴン)』? その程度の時間、楽勝で稼いでみせるさ!」


うちたちも手伝うわ、御主人様ダーリン! ディアスにぃたちにも声を掛けてくる!」



 残された時間はあまりにも少ない。だが、成し遂げなければ全滅だ。そんな極限状態の中で俺たちは動き出す。


 俺やミリアリア達はミカエルを食い止める為に外へと向けて走り出し、ノアとホープは戦艦ラストアークに残り最後の仕上げへと掛かり始める。



〘此処が分水嶺ぶんすいりょう、反逆への足掛かりだ。これより戦艦ラストアーク発艦作戦『オペレーション・ラストホープ』を開始する。全員、健闘を祈る。〙



 全員で生きてグランティアーゼ王国から脱出し、戦艦ラストアークと共に空へと羽ばたくために。

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