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今は学園のランチタイム。食堂でエリザベスに声をかけられ一緒に食べることになったのだ。マーカスももちろんいる。
ここまでの展開ならストーリー通り。でも、エリザベスとの会話が盛り上がらなければマーカスの好感度は上がらない。
ここでエリザベスと盛り上がる話題は紅茶の話。どこ産の茶葉がお気に入りとか、その紅茶に合う菓子は何だとか、そういった話。
実はサラサはそういうのに無頓着で紅茶はどれを飲んでもそんなに変わらないとすら思っている。でも、ここでエリザベスの会話に乗っかるとサラサ自身の知識とは別にすらすらと銘柄やら菓子の話やら口から飛び出すのだから、前回はかなり驚いた。
そういう強制力なのか何なのか分からない力に身を委ねていればよかったので前回はかなり楽をしていたのだ。
しかし、サラサは敢えて今回はエリザベスの出した話題には乗っていない。
変わった事も特に起きず、話題に詰まって少し気まずいな、程度。
そこまでは良かったのだけれど、何故かそこにルイスが現れた。
その瞬間のエリザベスとマーカスの表情があの能面になったのだ。
すぐに元に戻って今は4人でランチを普通にしているが、ルイスが何かストーリーと違う方向に持っていくとその度に変な間ができる。
実はこの現象、今に始まった話ではない。
最初に気付いた実戦訓練の後からなるべく彼等を遠巻きに客観的に観察してみた。
サラサはヒロインなだけあって何もしなくても向こうから話しかけてくるようなストーリーは用意されている。
そのどの場合でも、途中にルイスという闖入者が現れると彼等は一瞬おかしな間を作る。
その時に能面のように表情から感情が削ぎ落とされてしまう事もある。
ところが、サラサがストーリーにない台詞を言うだけではそこまでおかしな事は起こらない。サラサの行動でもだ。
能面でしばらく動かなくなった彼等を再び動かすのも大抵はルイスの一言だったりする。
ここまで考えると、ルイスは際立っておかしな存在となる。
何か精神に作用するような危ない魔法を使っているのかと考えたこともあったけれど、それとも違うとサラサの勘は言っている。
これは、本格的に1度ルイスと腰を据えて話しておかなければならない気さえしていた。
都合よく明日からは研究室の皆と討伐に行くことが決まっている。まだ学生でもあるので、マリエッタが監督として着いてくる。
2泊3日の行程だ。
今までよりもずっと一緒にいる時間が長いし、同時に皆を観察できる良い機会でもある。
その間にルイスと話すタイミングも作れるかもしれない。
ちらりとルイスを見てみると爽やかな笑顔を向けられる。
(…そう言えばルイスって私以外には冷めた目しか向けないよなぁ…)
ルイスの爽やかスマイルにそんな風に思えるのは逆ハーを経験した弊害だ。
既にルイスからは1度告白めいた事はあったが、その後にそんな話は出てこないので、気の迷いだったんだろうと思っている。
今はそれよりもルイスの存在に興味がある。
ー魔の森ー
安易な名前だとは思うけれど、この世界の魔物の生息域の総称だったりするので、岩場や荒野だっりもする。
その中の比較的弱い魔物ばかり出る東の原野が学園生の討伐担当域にあたる。
魔物が跋扈するど真ん中に結界で守られたキャンプ村があり、コテージや浴場施設まであったりする。
結界で守られたキャンプ地は転々と設置されているが、ここはその中でも設備が充実していて、この地域の本拠点にもなっている。
ここが初討伐のサラサ達が寝泊まりする場所になる。
もう少し経験を積んでいけば奥地まで行くことになるけれど、そんなストーリーは無いので、サラサの知識はこの周辺のみになる。
「それじゃ、出発しましょう。」
マリエッタの呼び掛けでサラサ達は討伐に出発する。
基本の移動は空飛ぶ魔道具の靴を履いている。空中をスケート選手のように舞うように飛べるが高度はせいぜい1メートルほどまで。
自分の魔力を消費せず使えるので便利だ。ただし事故防止のため混雑するような街中や学園内での使用は制限されている。
今回は討伐だし思いっきり飛んでも誰も咎めない。結構楽しいのでサラサのお気に入りでもある。
先頭はマリエッタで攻略対象達が続いて最後にサラサとルイスが並んでの移動となる。
この並びも実はルイスが決めた。
「…ねぇ、ルイス。」
「何?サラサ。」
ルイスは相変わらずサラサには愛想がいい。
「…あの、…ルイスは先に起こる事、知ってたりする?」
サラサは言ってから直球過ぎたかな、と思ったけれど、そこまで思慮深い性格ではないので他の切り出し方も思い付けない。
これまでの行動でルイスもサラサと同じように転生した記憶があるんじゃないか、とはずっと疑っていた。
「あー、…うん。…知っていると言えば知っている、かな?…でも、どっちかって言うと予想が付くって言う方が的確かな…。」
サラサの中で期待が膨らむ。同じように記憶があるならこの先とても心強い。ルイスなら、ストーリーに出てきていないし回避に協力してくれる気がする。
期待を込めてルイスを見てしまう。
「…て、転生とかそういう、感じ?」
が、言われたルイスはキョトンとした顔になっていた。
「へ?転生?………あー、そういう事?…なるほどなぁ。」
一人で何かを納得したようにルイスは頷いていた。
「…ち、違った…?」
サラサは予想が外れてしまったのが分かってしまいがっくりとしてしまう。
サラサと同じ立場なら、分かってもらえる事が増えるのではないかと期待していただけに、これは辛い…。
何より……
(転生とかリアルで言ったら痛い子じゃないかっ!……恥ずかしいよぅ……)
サラサはルイスの反応をこれ以上見たくなくなって少し速度が落ちてしまう。
「ちょっ!サラサ!遅れないようにして!一応、討伐中だから!」
ルイスは困ったような焦ったような顔をしている。
それを見てしまうとサラサもいたたまれない。
「あ、はい…。」
元の速度に戻してルイスの横に再び並ぶけれど、気持ちは沈んで浮かんでこない。
「…あー、サラサ、多分、勘違いしているってのは分かるんだけど、ちょっとどう話すかとか整理させてほしいんだよね…。…とりあえず、最初のイベントが始まったし…後で…あー、うん、今夜かな、キャンプにある湖で話そうか?」
「え、あ、…うん。」
サラサはルイスの言おうとしていることが掴みきれずに曖昧に返事をして先頭へと目を向けた。
ちょうど、先頭にいたマリエッタが魔物の群れを見付けたようだ。
4つ足の黒い塊…。まぁ、多分ウルフ系。
描写が面倒だったのかは知らないけれど、この世界のモンスターは影みたいに黒い塊なので、魔法がとても有効なのだ。
カイザルとロベルトが魔物の群れに魔法を打ち込む。それに合わせるように他の面々も魔法を展開していく。
サラサは訓練と同じように回復できる陣を敷く。
ただ、そんなのは無意味とでも言うように、ルイスが容赦なく広範囲…魔物の群れ全部へと向けて黒い雷撃を放つ。
サラサはそれを見て核を浄化するために同じ範囲へ虹を放つ。
誰も怪我をしないどころか、これではルイスさえいれば他の皆は戦闘そのものをしなくてもいいという事になる。と、言うよりルイスとサラサで充分だ。
サラサが彼等に目を向けるとまたあの能面のようになっていて、ヒヤリとしてしまう。
(…なんか、本当に作り物みたい…。)
この世界は現実ではないのだろうか?
ゲームじゃない、現実だと自分に言い聞かせて今回を始めたサラサにとっては何とも言えなくなってしまう。
現実感のない彼等の無の反応。
悲鳴を上げて逃げないのは、心が少し麻痺していて、やっぱりここはゲームなのだと思っているからなのか…。
「ほら、皆!まだ敵地の真ん中みたいな物なんだから、ぼーっとすると危ないよ。」
ルイスが手を叩いてそう言うと、やっぱり彼等はスイッチが入ったように滑らかに動き出す。
「…ルイス、あまり1人でやり過ぎられてはこちらの立場が無くなるのですが?」
マーカスが棘を含んだ言い方をしてくるが、ルイスは肩をすくめてみせる。
「そう言うのは要らないんじゃないかな?魔物と遭遇してそれを倒す。目的はそれだけなんだから。過程がどうだろうと全員が生きている事に意味があると思うよ。」
確かにそれも一理あるのだろうけれど、彼等の立場やストーリーが滅茶苦茶になるのは事実だ。
彼等は苦虫を噛み潰したように顔を歪めている。
「もうルイルイ、そんな屁理屈は必要ないわ。もういっそルイルイは1人で行動したらどうかしら?」
マリエッタは呆れたようにしているが、少なくても監督兼教師が言う言葉ではない。
それに、マリエッタはルイスの伯父だと言っていなかっただろうか?
それなのに、そんな身内を、…ルイスには余裕かもしれないけれど…、魔物が跋扈するような場所で切り捨てるような言い方をするとは…。
「…マリエッタ先生の言う通りだね。ルイスは1人で充分だ。俺らの力なんて初めから必要としていないように思える。」
そう、ユリアスが口にすると、彼等は同意を示すように頷いたのだ。
サラサはあまりにも驚いて、マリエッタや彼等を見て絶句する。
彼等の顔は能面のようになっているのに、ルイスを排除しようとする明確な敵意を感じさせる。
「マリエッタ、ユリアス、それは無理だよ。僕が浄化が下手なのを知っているだろう?これだけできるのはサラサがいるからだよ。…僕を排除するなら、その時はサラサも一緒に拐わせてもらう。」
サラサは混乱している上に唐突に巻き込まれ、言葉が出ないままルイスへ視線を向けた。
ルイスは目に冷たい光を宿しながら口元には笑みを乗せて彼等を見ていたが、サラサの視線に気付くとふわりと柔らかく微笑む。
(はっ?)
意味が分からない。…いや、意味は分かっているが、事態が飲み込めない。
「そんなの、許される訳がないだろう?」
怒気を隠そうともしない声がカイザルから響く。が、その顔は能面のままで、これはもうただのホラーだ。
「何故?」
ルイスが問う。
「必要だから、だっ!」
その声を発したのが誰なのか理解する前に、ドカンと大きな音が鳴る。
サラサは驚いてその場に尻餅を付いてしまう。
彼等が全員でルイスに向かって魔法を放った、と理解するまで時間がかかる。
けれど、そんな事をされたルイスはやれやれといった雰囲気で平然とその場に立っている。
「元から君らとは話なんてできないとは思ってたよ。…サラサ、やかましいから僕と行こうか?それとも、彼等と居たい?」
「へっ?」
ルイスは相変わらずの態度だ。彼等との温度差がありすぎて、こちらも違う意味で怖いと思う。
そう思いはするけれど、ルイスから感情が抜け落ちるのを見たことはない。彼等は今回、ちょっと怖い。前回云々以前に変だと思っている。
彼等かルイスか、どちらかと行くなら…それは迷う事も無く……
「ル、ルイスと…っ?!」
サラサが言い終わらない内に、ルイスはいたずらっ子のような顔でニヤリと笑い、サラサの手を取ると、そのまま転移した…。




