③
サラサ達はマリエッタに先導されて訓練場に来ていた。
この世界の魔物は色々な負の残滓が集まり核を形成して生まれると言われている。核を破壊、若しくは浄化すれば魔物は光の粒子となって消える。
人の住むところには結界が張り巡らせてあるけれど、魔物が増えすぎると結界の弱くなった所から侵入してきてしまう事がある。
そうならないように定期的に討伐に出る。
これらは基本、城塞都市の仕事だ。
そして、学生達も経験が必要だということで駆り出される。
と、いうわけで訓練場だ。
「さて、ここであなた達には実戦訓練をしてもらうわ。…そういえば、実戦経験ってあるのかしら?」
マリエッタが今更な質問を投げ掛けてきたが、ほぼ全員頷く。
魔力の高い子どもは身元がはっきりしていたり、きちんと保護されていれば大抵は教育の一環で討伐に放り込まれる世界だ。
そして、魔力の高い子どもを取りこぼさないシステムが城塞都市には存在する。
ただエリザベスだけがおずおずと発言した。
「私は…ほとんどありません…。」
「それでも、エリザベスの浄化は僕よりも優れています。」
マーカスが庇うように一歩前へ出た。
「そうなのね。でも、ま、習うより慣れの方が大事だから、今から1000本ノック始めるわよ!」
「…説明すんの面倒になったな。」
ルイスが呟くと同時にマリエッタが発動した仮想フィールドが展開されていく。
「な、なんだ?!」
ルイスとサラサを除く5人が突然の事に恐慌状態に陥りかけている。
確かに説明省かれちゃったよね。…ストーリー通りなんだけど…。
「安心してね。これは仮想空間で出てくる敵も幻よ。だから、本当に死んだりはしないわ。でも、痛みがないと訓練にはならないから怪我はするわよ!ちゃんと回復も忘れずにねっ!…それでは、実技訓練開始ー!」
マリエッタの合図と共に四つ足の獣型の魔物、レッサーウルフが1匹現れる。
「も、もう少し説明をっ!」
マーカスが声を荒げているが、マリエッタはもう答えてくれる気はないらしい。代わりにルイスが皆を見回して声を上げた。
「…はぁ、誰かいける?」
それに応えるかのようにカイザルが1歩前へ出て魔力で炎の塊を生み出す。
ルイスがそれを見て声をかける。
「レッサーウルフ1匹にその威力は出しすぎだ。アレが1000本ノックって言ってただろう?つまり、この後休み無く魔物は1000匹出て来ると考えてくれ。」
カイザルの顔がひきつったのが離れているサラサにも見えた。
ルイスの言い方はきついけれど、これは事実で後半皆は満身創痍になるのだ。そこで、サラサのチート能力でその危機を乗り越える。
サラサとしてもそんなストーリー通りの展開は勘弁してほしい。
コントロールさえきちんとしていれば最後までここにいるメンバーならバテることはないくらいの実力がある。
カイザルは素直に炎の威力を下げてからレッサーウルフへと投げつけた。
その炎はレッサーウルフに当たると激しく燃え首元にある核を暴き出した。
間髪入れずにカイザルは光の矢を生み出しその核目掛けて放つ。
矢が核に当たると浄化が始まりレッサーウルフはそのまま光の粒子になって消えた。
楽勝ではあるけれどこれがまだまだ続くのだ。そして、少しずつ強くなっていく。
次は同時に10匹出てきて囲まれてしまう。
サラサは魔方陣を手元に描き、それを地面に向けて放つ。その魔方陣は地面に触れると同時に大きくなり、全員がその上に乗っている状態になる。
「回復の陣になります。…ダメージが蓄積してきたらここまで戻ってください。魔力もそれなりに回復するはずです。」
フラグは折らせてもらいます!これさえあればピンチにはならないはず。
前回はまだこの段階でこの魔法を使えなかったが、現在は周回チートともいうのだろうか、前回習得していたものは初期の今でも軽々使える。
「これは、…すごい…。」
ロベルトがサラサの敷いた陣に感嘆の声を上げる。
が、今はそれどころではないと気付いたのか、ロベルトの周りには氷の矢が出現する。
ユリアスは既に自分の周りに風を集めそれを刃にしていた。
「エリー、浄化の光を!」
マーカスはエリザベスに指示すると自分はバチリと電気をまといはじめる。
属性はないけれど、それぞれイメージしやすいモノは存在する。そして、それがそのまま反映されるのがこの世界の魔法だ。詠唱が必要な人もいるけれど、サラサはそんな小っ恥ずかしい事は省きたい。ここにいる面々もそうなのだろう…。
各々が迫り来る魔物達へと魔法を打ち込んでいく。
魔物を倒すのは核を剥き出しにして、それを浄化すればいい。そして、浄化の魔法は特別なモノではなく、基本魔法の1つとして覚える。
ただイメージがしずらいのかこれを得意とする者は少なくなる。核さえ剥き出せば得意でなくても浄化は可能なのだが。
サラサが考える対魔物戦は至極単純で、汚れは洗濯!これに尽きる。
手近な魔物に向けて手を向けるとサラサから虹が溢れ渦を巻いて魔物を囲む。
すると、魔物はそのまま光の粒子となってしまう。
まるごと魔物浄化。サラサが最も得意とする芸当ではあるけれど、これをできる人間はまずいない。
普通は核を剥き出さなければならないからだ。
サラサはそんなの関係なく強制的に魔物全てを浄化してしまう。
サラサはチートヒロインなのだ。
加えて、前回の人生で獲得したコントロールも完璧で、魔力を使いすぎず最小の力で浄化できる。これができるのなら、今後ストーリーにあるサラサが魔力枯渇を起こすイベントは回避できると踏んでいた。
「さすがだな!」
近くにいたユリアスがサラサを見て驚嘆の声を上げるが、そのユリアスも既に手近にいた魔物を倒していた。
マーカスは遠目にサラサの魔法に舌打ちしているのが見える。…この時点ではマーカスはシスコンを拗らせているので、エリザベスよりも浄化の力のあるサラサを目の上のたんこぶみたいに扱うので気にしても仕方がない。
「サラサ、お願いがあるんだけど。」
ルイスがサラサに声をかけてきたのでそちらを向く。そういえばここまでルイスは何もしていない。出てきていた10匹の魔物は今は全て倒していた。既に次は20匹程の魔物が姿を現しはじめている。
それだってルイスとサラサを除く全員が瞬く間に倒してしまう。
「僕、ほとんど浄化できないんだよ。一遍に倒すのはできるんだけどさ。」
「はい?」
サラサは目をぱちくりさせてしまう。浄化できなければ何度でも核から魔物は復活してしまう。なので、どんなに他の魔法が得意でも初歩として浄化は叩き込まれるのが普通だ。少なくても剥き出した核1つを浄化できるくらいにならなければ魔物討伐なんて行かせられない。
「あー、できるよ?ちゃんとできる。でも、10体一遍に倒しても浄化は1匹ずつしかできないんだ。」
それが本当なら効率が悪すぎる。
「……つまり、沢山一遍に倒すから、それをすぐに全部浄化してほしい、と?」
そんなことしなくてもサラサにはまるごと魔物浄化があると思うだろう…。しかし、1回に付きレッサーウルフなら5体が限界で、相手が強力になればなるほどその数は減り時間もかかってくる。
「そう!」
「分かった。」
これはある意味サラサにとって都合がいい提案になる。核だけの浄化なら、1度にできる数が10倍以上は跳ね上がる。
「それじゃ、ちょっと試しにあの辺の魔物に攻撃するから、その後をよろしく。」
ルイスが指し示した所は新たな魔物が50近くは湧き出そうとしていた。
…マリエッタもチマチマ出すのが面倒にでもなったのかもしれない…。
ルイスが手を1振りしただけで、それらに黒い雷が降り注ぐ。サラサは一瞬呆気にとられたけれど、すぐさま持ち直してその場所に七色の光を放つ。それらは靄のように広がって核を浄化していく。
「さすが!サラサと僕の相性はいいみたいだね。」
ルイスがいたずらっ子のような表情をサラサに向けてきた。不覚にもサラサは少しドキリとしてしまった。
「っ!まだまだ終らないんだから、油断は禁物っ!」
サラサはルイスから目をそむけるようにまた生まれようとしている魔物の群れに目を向ける。
「ま、そうなんだけどね。」
ルイスは肩をすくめながら他のメンバーに目を向ける。彼等は呆気にとられたまま動かない。ルイスは彼等には冷たい目をむけて口を開く。
「はい!ボケッとしてる暇はないよ!」
「それはルイスもよ!次、来るよ!」
サラサが叫ぶと同時に再びルイスから黒い雷が放たれる。サラサもすかさず浄化を全体にかける。
他のメンバーもどうやら迫り来る敵を相手しているようで攻撃の音が聞こえる。
これだけの数をルイスとサラサが相手にしている状況で彼等とのイベントは起こりそうにない。
ストーリー上だと、ランダムで彼等は魔力枯渇を起こし、サラサがその度に駆け付けて回復する。そうならないように回復の陣を敷いたのだけれど、イレギュラーなルイスを見ているとその必要も無かったように感じられる。
そのまま何のイベントも発生せず最後の1匹を倒して訓練は終わった。
「ちょっとー!ルイルイ!倒しすぎっ!」
マリエッタの叫びが訓練場に響くがそれに対してルイスは冷たい目を向ける。
「もう少し説明をすべきだし、与えられた課題はこなした。」
「そ、そうなんだけど、もう少し連携とか、そういうのがあるじゃない?」
「連携なら取れてただろう?僕とサラサの手の回らない所を他の皆が倒してくれていた。おかげでどんなに囲まれても不安は無く戦えた。」
「うっ。もう少し考えてほしかったの!」
「それじゃ、誰かがぶっ倒れた方がよかったのか?それは面倒だろう?潰せる物はすぐに潰した方が効率がいい。」
ルイスとマリエッタのやり取りに口を挟めないでいたけれど、それは他の面々もそうみたいで言葉を発してこない。
しかしサラサは彼等の顔を見回してみて、ぞっとして目を逸らした。
(え?…なんだろう…みんな能面みたいに表情が無いんだけど…)
サラサは背中に冷たい汗が伝ったような感覚に陥っていた。
「サラサ、大丈夫?」
ルイスがサラサの様子に気がついて声をかけてくる。
「え、ええ。まぁ、…大丈夫。」
気遣わしげにサラサを見てくるルイスにはちゃんと表情がある。
「…はぁ。皆はさっきの訓練どう思った?」
ルイスが能面の彼等に話しかけた途端に彼等の時間が動き出したように自然に動き始めた。
「ルイスのあの魔法は見事だった。」
「サラサの魔法は幻想的で思わず見惚れたよ。」
口々にルイスとサラサへの賛辞が彼等から語られるが、サラサには彼等がネジ仕掛けの人形にでもなってしまったかのような奇妙な感覚に陥り、どんな言葉も頭に入ってこない。
今や彼等の動きや表情はさっきの能面が見間違いだったかのように普通だ。
(きっと、考えすぎだよね…。)
サラサは彼等をぼんやりと眺めながらそう結論付けた。




