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 朝、サラサはなるべく遅くに寮を出た。早く着きすぎれば彼等との交流を多く持つ事になる。前回は誰よりも早く着き、朝から好感度の上がるイベントを発生させていたけれど。

 

 「サラサ、おはよう。」

 

 その声の方を向けばルイスがひらひらと手を振っていた。

 

 「おはよう、ルイス。」

 

 昨日は殆ど会話をしなかったのにルイスはかなり人懐っこいのか、ずっと親友としていたかのように自然にサラサの横に並ぶ。

 

 「そう言えば同じ研究室だったね。」

 

 「…そうね。」

 

 ルイスは思っていた通り同じ研究室だった。これは既にサラサの知っている事とは本格的に別物だ。

 ゲームに関わりたくないサラサにとってこのルイスがどう影響してくるのかさっぱり読めない。

 

 「もしかして緊張してる?」

 

 「緊張しない方が難しいと思うんだけど…。」

 

 「あ、そう言えばあの王子達もいるんだっけ。」

 

 「…ねぇ、ルイス。どうしてあの人達が王子だって知ってるの?」

 

 昨日からの疑問をルイスにぶつけてみる。この時点で彼等は自分の正体を明かしてはいないはずだ。

 

 「え?何でって…有名な話だよ?」

 

 ルイスが驚いたように目をぱちくりさせてくる。

 

 「え?有名なの?」

 

 今度はサラサが目をぱちくりさせてしまう。

 

 「え?あれ?…あ、そうか。実は僕、城塞都市に生まれた時から住んでるから、地上から来た皆より色んな情報知ってるのかも。」

 

 「え?それかなり凄いことだよ?」

 

 城塞都市…つまりこの学園のある場所はなんと空中!

 でもここは住んでる人達から魔力を吸い上げてそれで空中に都市を浮かせている。

 そのシステムがあるため魔力が不安定な子どもの内は住むことを推奨されていないと思っていた。

 

 「そうかな。小さい時は魔力を吸い上げられないように処置さえすれば済むわけだし、他にも子どもは普通にいたからなぁ。…親が中枢近くで働いてるから皆が知らない事も知ってたりするのかも。」

 

 「…なるほど。」

 

 中枢近くで働く程の人物が親なら魔力が多くても不思議じゃないし、各国の王族達が入学してくるのを知っていてもおかしくはない。

 

 「…それにサラサも知ってるみたいだったから、勝手に有名な話なんだなって思ったんだけど…。そう言えばこの学園にいる間彼等は身分の話をする事を禁止されてるから、やっぱり知ってるのは変なのかな?」

 

 今度はサラサが変な汗をかく番だ。有名な話でないのならサラサが知っていたのはおかしな話になってしまう。

 

 「ほ…ほら、昨日は突然ルイスがそんな事言うから、思わず頷いちゃったけど…、お、思ってもみないこと言うから、驚いたんだよ!」

 

 「あー、そう言えばサラサ凄い顔で驚いてたもんね。」

 

 ルイスが納得したというように笑っているけれど、一体自分はどんな顔をしていたのだろうとサラサは頭を抱えたくなった。

 

 

 そんな会話をしながら歩けば研究室はすぐだ。

 扉を開けるのを躊躇していたら、ルイスがさっさと開けて中へと入っていく。サラサもルイスの影になるようにそっと足を踏み入れた。

 

 中にいた人物達が一斉にこちらを向いた。最初に口を開いたのは攻略対象その1、カイザルだった。

 前回着いていった人物。

 

 「はじめまして。私はカイザルという。君は確か昨日物凄い魔力を出していたよね?」

 

 ルイスに対して窺うような物言い。

 

 「あぁ、そうだね。僕はルイス。よろしくね。それと、」

 

 ルイスが振り向いてきたので仕方なく自分から名乗ることにした。

 

 「私はサラサです。」

 

 ぺこりとお辞儀をしておく。

 ちょっと複雑な心境だよね。

 でも、思ったよりも何も思わない。

 確かに1番の推しだったはずなのだけど…。

 

 思考が逸れていると、次々に攻略対象達が挨拶を始める。

 昨日回避したから前回と少し流れが違うのは仕方がないのだろう。

 

 「そうか、君はサラサって言うんだな。俺はロベルト。君も相当な魔力だったな。」

 

 「確かにあれは見事な優しい光だったね。あ、俺はユリアス。よろしくね。」

 

 「僕はマーカスです。それと、こっちは姉のエリザベスです。」

 

 エリザベスが優雅に頭を下げる。場を弁えているのだろう。カーテーシーではなかった。

 

 「昨日の魔力はお二人共とても素晴らしかったと思います。」

 

 エリザベスはふわりと笑顔を向けた。

 

 可愛い。なのに気品に溢れて美しい。この子こそヒロインに相応しいんじゃないだろうか…。

 前回、サラサが着いていったカイザルの正妃に収まった子。

 今回カイザルとどうこうなる気はない。でも、何も感じないかと言うとちょっとは思うことはある。

 後宮はとても寂しかった。

 後悔、懺悔、恨み、悔恨…

 エリザベスを羨ましく思った事なんてたくさんあった。

 一瞬あの日々を思い出し辛くなる。

 

 

 サラサはぎゅっと目を瞑り、今は違う、と何度か唱える。

 

 「僕はともかく、確かにサラサの魔力はすごかったよね。」

 

 ルイスがエリザベスに向かって微笑みながら答えた。

 不意に振られた話にサラサはついていけず少し焦ってしまう。

 

 「え、と、そ、うかな?」

 

 口と思考がうまく動かない。

 

 「そうだよ、サラサは有名だしね。」

 

 ロベルトが自分をを見ている事に気付いて鼓動が跳ねる。

 

 (あ、この流れはダメ。)

 

 この会話はゲームにあったから前回もしている。会話を成立させないために敢えて困った顔で黙る。

 

 「1000年に1人の逸材ってサラサは呼ばれてたんですから。名前は有名ですよね。…かわいい子で良かったと思います。」

 

 マーカスの笑顔が深くなる。

 

 「そんな言い方じゃ、サラサ嬢も困惑してしまうと思うけど。」

 

 ユリアスが窘めるようにマーカスを見ている。

 

 「…確かにサラサは有名だったけど、そのサラサと同じくらいの魔力を示したルイスの事は知らなかったよ。」

 

 カイザルは油断ならないとでもいうような目をルイスに向けたままだ。

 ルイスは苦笑いを浮かべている。

 

 「僕はこの城塞都市で生まれたんだよ。ここでの事は簡単に秘匿できるからね。知らなくて当然だよ。」

 

 「なるほど。出身はここということか。」

 

 「なら、知るのは難しかったか…。」

 

 ロベルトとユリアスが少し考えるような素振りを見せる。部屋の中に微妙な雰囲気が漂いはじめた時、ドアが勢いよく開いた。

 

 「皆揃ってるわねー。」

 

 入ってきたのは乙女ゲームのキャラとして恨まれそうなナイスバディー体型の美人さん。

 

 (でも、魔法でそう見せてるだけで、この人男の人なんだよな…。)

 

 サラサはいつまでも変な思考に囚われずにすんだことに一先ずほっとしながらも苦笑いを浮かべてしまう。

 そんな彼(彼女?)が部屋の奥へとずんずんと進み、サラサ達1人1人を順に見ながら満足そうに頷く。

 

 「あ、アタシはここの研究室付きのマリエッタよ。つまりあなた達の担当の指導官!…ここの研究室は皆、優秀で見目麗しいわぁ。これも役得ねっ。」

 

 「…マリエッタ、心の声が漏れてるよ。」

 

 ルイスが辟易するように指摘する。

 

 「あらら~?そうだったかしら~?もう、ルイルイは相変わらず冷めてるんだから、マリエッタ、じゃなくて、お・ね・え・さ・ま、でしょ?」

 

 「…物凄く不本意ではあるけれど、仮にもあなたはここの研究室付きだよ?…もっとしっかりしてくれないと困るんだけど。」

 

 ルイスの視線は今やとてつもなく冷たい。

 

 「そんな~!これでもルイルイの保護者みたいなものだし、しかもここにいる大人の中では学院長の次に魔力持ってるのは私なのに~!」

 

 「はぁ、僕よりは下だろ。」

 

 「くっ…。ルイルイ、この場で言ってはいけないことをっ!」

 

 「不本意ではあるけど、学院に属さなきゃいけないって事は理解してるさ。…僕が言いたいのはその騙すような格好のまま戯れ言言ってるなって事かな。」

 

 「だっ、騙すだなんて酷いわ!ルイルイ、これが、この姿こそがアタシなのよっ!」

 

 「……」

 

 ルイスが手をさっと1振りすると、ナイスバディのマリエッタの姿が、なよっとした貧弱な男の姿になってしまう。

 

 「ちょ、ちょっと!ルイルイ!ひどいっ!」

 

 マリエッタは叫ぶと同時に自身の腕輪に焦ったように手をかざす。

 と、同時に先程までのマリエッタの姿に戻った。

 

 「と、まぁ、初っ端から偽りの姿でこの人は出て来た訳だけど、こういう人だから、知っておいてね。本当はマリエッタなんかじゃなくて、マリオンなんだけど、頑なに認めないからマリエッタって呼んであげて。ついでに本当に不本意なんだけど、僕の伯父なんだ。…こんな身内で恥ずかしい限りだとは思うんだけど、魔力はあるし、魔力の操作もピカイチだし、魔術の知識も豊富だからそこは安心して。」

 

 ルイスが嫌々と言うように一気に話しきり、疲れたように真ん中にあった円卓の1つの席につく。

 その様子にサラサを含めた全員が呆気にとられてしまった。

 

 「うぅ…酷いわルイルイ…。何も今ここでばらさなくても良かったじゃない!」

 

 「変な誤解に繋がることはさっさと潰そうと思ってさ。…そんな事よりマリエッタ、早くミーティングはじめてくれる?皆も、席に座ろうか?」

 

 ルイスに促されて皆がぎこちなく動き席につく。

 

 サラサはルイスを盗み見た。マリエッタに甥がいるという設定は…無かったと思う。

 それだけでなく、ルイスは変な誤解と発言した。

 今後のストーリーでマリエッタと攻略対象の1人がとても親しく見えて、ヒロインであるサラサが誤解をする。その誤解に焦った攻略対象が勢いでサラサに告白するのだ。

 そのキャラにとっては重要なシーンになる。

 つまりルイスは、そのシーンを丸々今のやり取りで潰したのだ。

 

 「そ、それじゃ、ミーティング始めるわ。まず、自己紹介、は済んでるのかしら?」

 

 「そこは一通り終わってるよ。皆もここでのルールは分かってたみたいで家名も国も身分も明かしてはいなかったよ。…まぁ、僕に関しては警戒してるみたいだけど。」

 

 「…そう、分かったわ。…それじゃ個人的な質問は全部後にしてもらって、魔力や魔法の基礎の確認していきたいのだけど、いいかしら?」

 

 マリエッタが皆の顔を見回して最初の講義が始まった。

 内容は前回とほぼ同じ。この世界や城塞都市の成り立ち、歴史、魔法について。

 

 正直サラサはそれらはどうでもよかった。

 上の空で話を聞いていると、マリエッタが次の話題へと移る。

 

 「それと、魔物討伐ね。…本当ならここで皆には研究内容とかを話して親睦を深めて欲しかったのだけれど…魔物がね、増えてきているのは知っているかしら?」

 

 「はい。知っています。…つまり、俺達は早速魔物討伐に駆り出される、ということですね。」

 

 マリエッタと目でも合ったのかカイザルが淀み無く答えた。

 

 (これも、シナリオ通りだな…。)

 

 ふとそんな事を考えてから慌てて打ち消す。シナリオやらキャラとかあまり考えないようにしようと思ったじゃないか、と。

 

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