表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の鏡像  作者: かる
9/11

⑨ -1 王弟宮

 目の前に聳える扉はそのまま天井を支える壁であるかと思うほど高く、複雑な金の文様で飾り付けられているために余計に重々しく見えた。同じように金の装飾を蛇のように纏わりつかせた鞘を腰に下げて、近衛兵が声を張り上げた。

「エクラート公爵令息のご到着です」

 近衛兵がもったいぶった手つきで扉を開ける。開いたその先に足を一歩差し出して、ビジオールは手のひらを固く握りしめた。

「お呼びにより参上いたしました……王弟殿下」



○○○



 遡ること数日前。

 

 サンドールから帰還し一連の報告を終えたビジオールは、しばらくして父であるエクラート公爵の書斎に呼び出された。

「今日は何を? サンドールの件で何か問題でも生じましたか?」

 息子の質問に、エクラート公爵はどこか躊躇うような素振りを見せつつ口を開いた。

「問題、というわけではないのだが……。ビジオール、お前はサンドールの管理を自分に委ねるようにと希望していたな」

「ええ。それが了承を得られなかったのですか?」

 いつにもまして歯切れの悪い公爵を訝しく思いながらも、ビジオールは再度尋ねた。

「いいや、それは陛下の了承を得られたのだ。なんといってもお前が賊を討伐し、捕らえられていた数多の子供をも救出したのだ。陛下もその功績を十分に認められ、お前にサンドールを任せることを快諾なさった。いずれエクラート公爵となるお前の良い経験にもなるだろうとな。ただ、公爵領内の領地の委託には、たとえそれが私からお前という身内において行われる場合であっても国王陛下の正式な承認が必要となるのだ。正式というのはつまり、陛下から直々に委任状を賜るということだが……」

「存じております」

 口籠る公爵の言葉に被せるようにしてビジオールは答えた。

「そうか。知っていたか。それもそうだな」

 公爵は落ち着きのない様子でやたら頷きながら、隅々まで手入れの行き届いた庭園の見える窓の方に目をやった。それから書斎机の上の書類に目を落とし、書いてある文字をそのまま読み上げるような調子で言った。

「本来なら国王陛下から委任状を賜るところだが、陛下は明日から視察へ行かれるご予定だ。南部の方でも賊が出没したと以前話しただろう? あれの被害がかなり大きかったようでな、陛下が直々に様子を見に行かれるとのことだ。故に、サンドールの委任承認は陛下に代わり、ユリゲラス王弟殿下に請け負っていただく運びとなった。お前には近々、王弟殿下の公邸に行ってもらうことになるだろう」

「……そうですか」

 公爵は息子の方をちらと見やったが、すぐにまた視線を戻した。

「話は以上だ。具体的な日時についてはお前の方に通達が届くはずだ」

 ビジオールは曖昧に頷くと、ゆっくりと扉に手を伸ばした。

「__ビジオール」

 呼ばれて振り向くと、公爵と目が合った。しかし公爵はそれに驚いたかのように目を逸らして彷徨わせると、また手元の書類に目を落とした。

「……私も、何度か確認したのだ。だが、制度上……」

「制度上仕方のないことでしょう? よく存じていますよ」

 ビジオールは肩をすくめてみせて、今度こそ書斎を後にした。静かに扉が閉まる。

「……私も、何度も確認したのだ」

 息子の出て行った扉を見つめて、公爵は一人そう呟いた。



 廊下に出ると、扉の前に控えていたジークトリグが静かに一礼をした。それを気に留める様子もなくそのまま歩き続ける主の少し後を黙って追う。

「……近いうちに王弟宮に行く」

 厚いカーペットの敷かれた広間を足早に横切りながら、ビジオールはぼそりと言った。ジークトリグは彼にしては珍しく、はっと顔を上げた。そしてすぐに、しまったと思った。

「サンドールの委任状を受け取りに行くだけだ。しばらくここを空ける国王の代わりに、そこで承認を得る」

 ジークトリグの微かな動揺を敏感に感じ取ったらしく、ビジオールは不機嫌を前面に押し出して言い捨てた。

「それで、日時は」

「そのうち連絡が来る。だがお前は何もすることはない。今みたいにただ扉の前でぼんやりしてればいいのだ」

「委任状の下賜は王弟殿下のお部屋で行われるのですか?」

 ジークトリグの続けざまの質問に、ビジオールはとうとう振り返って指を突き付けた。

「そんなことを聞いて何になる? 無駄話は終わりだ。早くフローターの屋敷に行かねばならんのだからな」

 表には馬車が既に用意されていた。ジークトリグはこれ以上の追及は諦めて、代わりに別の質問をした。

「なぜレングラット殿のところへ行かれるのです?」

「サンドールの件がまとまったのだから、一度状況を知らせてやった方がいい。あいつにはまだ表面上の報告しか入っていないだろうからな。ある程度察してはいるだろうが」

 ビジオールは少し機嫌を直したようだった。

「さっさと乗れ。レングラットは時間にうるさいからな」



○○○



 (……)

 王弟宮の客室で数日前のやり取りを思い出しながら、ジークトリグはじっと部屋の扉に視線を注いでいた。ビジオールの悪態通り王弟の扉の前で待機するつもりだったのだが、公爵令息でもあるジークトリグを近衛兵と同じように扱うわけにはいかないと客室に通されてしまったのだ。

(何を今更……。国王の弟と王族の血を引くビジー様がいらっしゃるこの公邸内で、何故俺の待遇など気にするというのだ。ましてやあの王弟が……)

 厳めしい柱時計が先程から止まっているような気がする。ジークトリグは胸元から自分の懐中時計を取り出してみた。二つの時計の針の傾きは、ぴったり一致した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ