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瀬戸内今昔物語  作者: 森村征爾
第二章 高校生編
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第五十二話 それぞれの帰り道

尾道で再会した二人も、夕方には別れる時間となっていた。

駅のホームで電車を待ちながら、湊は旅の話をしていた。

大三島の大楠の願掛け、 生口島で出会った吉田さんのこと、レモネードの味、 千光寺から見た景色。


沙織は楽しそうに聞いている。

「吉田さん、私も会いたい。」


「え?」


「湊がお世話になった人なんやろ?」

当たり前のように言う。


「それに、湊が見た景色も食べ物も全部見たい。」

少し照れながら笑った。


「いつか一緒に行こう。」

以前なら恥ずかしくて言えなかったかもしれない。

けれど今は自然に口に出ていた。


発車ベルが鳴る。

ホームへ電車が入ってくる。


「時間やね。」


「…うん。」


この旅で一番良かったことは何だっただろう。

しまなみ街道の景色は気持ちが解放された。

尾道焼きは衝撃だった。

千光寺の風鈴がまだ耳に残る。

吉田さんとの出会いで救われた。


どれも良かった、でも違う。


伝えないと、また以前みたいになる気がした。


「い、一番良かったのは……。」

湊は頭を掻く。


「沙織と会えた事…やけん。」

言ってから下を向いた。

沙織は一瞬きょとんとした後、口元を緩める。


「湊~。」


「ん?」


「呼び捨てしたな。」

「耳赤いよ。」


「…。」

眼鏡、光らすなよ…。

湊はますます顔を逸らした。


そんな姿を見ていた沙織が、

「湊、大好きだよ。」


湊は固まる。


「次からは逃げんでよ?」

返事に困る。


「……頑張る。」

「そこは「うん」やろ?」

二人で笑った。


電車の扉が開く。

「ほなね。」

「またね。」

沙織は電車へ乗り、発車ベルが鳴る。

ゆっくりと電車が動き始める。

窓越しに手を振る沙織。

湊も手を振り返した。


車両が小さくなり、やがて見えなくなる。

ホームには夕方の日差しが残る。

湊はしばらく線路の向こうを見つめていた。

それから荷物を持ち直す。

まだ旅は終わっていない。


駅を出ると、西日は尾道の街を島を海を真っ赤に染めていた。

それぞれの帰り道。

けれど今度は、同じ場所へ戻っていく。

湊は自転車を押しながら歩き出した。

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