第五十一話 再会
昨夜、耳から沙織の泣く声が離れなかった。
沙織が謝る声は胸が痛かった。
後、数日の旅を予定していたが帰って弓道に集中しよう。
進路もなんとなくだが進むべき道も見付けれた。
もう、帰ろう…。
チェックアウトギリギリまで寝過ごしてしまっていたため、慌ててロビーで支払いを済ませる。
自転車置き場に行き、荷物を荷台にまとめる湊。
同じ時間、ホテルのロビーで人探しをしている女性。
朝早くJRで松山を離れ尾道に到着していた。
ある人を探す為に。
湊はホテルを離れ目的地に向かう。
女性は尋ね人の母親から滞在先を聞いていた。
だがチェックアウトしたと聞いて肩を下げ外へ出る。
湊は小銭が無かった事を思い出しホテルへ引き返す。
偶然が重なり始める…。
すれ違いから誤解、そして伝えきれなかった日々が港町の尾道で…。
ホテルの前で自転車を止める湊。
「暑くなるな。」
日焼けした顔はすでに汗が吹き出している。
ロビーに入り小銭に両替する湊。
そこに一度出た女性がバスの時刻を教えてもらおうと自動ドアが開く。
二人の目線が重なった。
言葉が出ない湊、夢か?と疑う。
真っ赤な目を隠しきれない沙織は湊を見つめている。
先に言葉を発した湊は
「昨日…電話…ごめんなさい」
頭を掻きながら下を向いている。
沙織はずっと黙ったまま立っている。
ホテルのロビーでこのままはマズいと湊に誘導され市役所横のベンチに移動する二人。
移動中も沙織は喋らない。
湊も何も言えない。
二人ベンチに座ったが、ジュースを買いに行こうとした湊の手を掴む。
「湊…。」と呟いてから
ボロボロと泣き始める。
状況が理解できないまま、
「ごめん…。」と謝る湊。
尾道の空は真夏の青空が拡がっていた。
海風は島々を走り抜けている。
今までのわだかまりを海風はさらっていく。
「湊に謝らないと、ずっと謝らなくちゃって…。」
「私があんな事言って…。」
「電話もしないままで…。」
「だから…。」
湊に頭を撫でられる沙織。
「もう良いから…。」
ゆっくり話し始める二人、
互いの時間を大事にしたい気持ちが現状を生み出していた。
沙織は意地になり、連絡をせず待っていたと知る湊。
湊は嫌われたくないからと我慢した日々を過ごしたと知る沙織。
「でも、私が悪い。あんな事言う前に二人が相談すべきだった。湊の気持ちを理解しようとしてなかったから。私が悪い、ごめんなさい…。」早口だが、一生懸命謝る沙織。
湊は逆にゆっくり話し始める。
「僕、振られたって思ってた。」
「自分に自信が無くて…ね。」
「尾道来て良かったよ、どこ行っても沙織ちゃんが居たらなあ…。って思えたから。」
沙織は胸が締め付けられる。
優しい声は変わらない、想ってくれた湊は
何も変わらない。だから苦しい。
湊は続けて言う、
「でも、一番悪いんは僕やけん…。」
「なんも僕には無くて自信失くしてしもて。皆ちゃんと前に進んどるやん。」
「僕だけ何しよるんかわからん。」
「こんなん、カッコ悪い…やん。」
ふと、思い出して急に笑う湊、
「沙織ちゃんはいつも僕の情けない姿見てる、今気が付いた。」
泣きながら笑っている沙織。
「私は勉強も湊にも頑張れば良かったんよね。別々に分ける必要なんて無かった。」
「私も今気が付いた!」
二人で笑っている。
目の前の海には船が海原に出航している。
二人の時間は尾道の夏空の下、ゆっくり進み始める。




