第三十三話 圧倒的存在
「あっちに焼きそばがあるよ!」
校舎横の模擬店を見つけるなり山内さんが指を差す。
ソースの焦げる匂いが秋風に混ざって漂っていた。
小さい頃、一緒に祭りの屋台を回った記憶が甦る。 あの頃も山内さんは目についた物を次々買い込んでいた。
綿菓子、たこ焼き、フランクフルト。 両手いっぱいに抱え込み、最後には食べきれず二人で苦しんだ記憶がある。
「また全部食べきれんようになるよ。」
目を輝かせる姿は昔と何も変わっていない。 結局、焼きそばを二つ買い、さらに唐揚げまで追加されそうになり慌てて止めた。
「あとでね。」
渋々納得した山内さんとお汁粉会場へ向かう。
だが、近づくにつれ嫌な予感がしていた。
……並び過ぎだろ。
長机が並べられた会場にはかなりの行列が出来ている。
女子弓道部の出店は毎年人気だが今年は異常だった。
最後尾へ並ぶと周囲から視線を感じる。
「ねぇ、あの子じゃない?」
「たぶんそう。」
ヒソヒソと声が聞こえる。、胃が痛い。
すると女子弓道部の一年生が小走りで近寄ってきた。
「松沢先輩が呼んでます、こちらに…。」
…終わった…。
湊の心の中で何かが崩れ落ちた。
お汁粉会場奥では松沢さんが手を止め、こちらへ歩いてくる。
「あなたが、「あの」山内さん?」
その声は妙に冷たかった。
「山内です。始めまして。」 山内さんはニコリと会釈をする。
「私、松沢です。湊君とは同じ弓道部員ですけど!」
鼻息がハンパない…。
なんだその「ですけど!」は。
心が叫ぶ。
来るべき場所ではなかった…。
「お汁粉用意してます、こちらへどうぞ。」
松沢さんの笑顔が逆に怖い。 胸の動悸と冷や汗が止まらなかった。
だが、山内さんはまるで気にしていない。
「これ、部員の皆さんで食べて下さい。差し入れです。」
ナイロン袋から大量のクリームパンを取り出した。
「クリームパン…。私と佐倉君の…。」
松沢さんが固まる。
周囲の女子部員たちもザワついていた。
さらに山内さんの反撃は止まらない。
「湊は昔からおっちょこちょいなんで、皆さんに迷惑かけてないか心配してたんです。」
まるで保護者みたいな言い方だった。
「松沢さんたちが居てくれて安心しました。」
松沢さんの頬がピクリと動く。
お願いだからやめてほしい。
もう十分だ。
だが追い討ちは終わらない…。
山内さんはニコニコしながら、
「湊は、私がついてるので。」
と言い切った。
空気が止まる。
女子弓道部員たちの視線が一斉に湊へ突き刺さった。
逃げたい…。
今すぐ帰りたい…。
「そ、そうなんや…。」
松沢さんの笑顔が引きつっている。
その横では女子部員たちが小声で何か話していた。
絶対ロクでもない内容だ。
用意された席へ座る。
目の前には湯気の立つお汁粉。
「どうぞ。」
松沢さんが笑顔で差し出す。
「い、いただきます…。」
口へ運ぶ、甘いはずだった。
だが全く味がしない。
用意された席のお汁粉に甘味は全く無かった…。




