第三十、五話 名店(サイドストーリー)
北方高校裏手に、名店がある。
その店は老舗で北方部活生がこよなく愛し通う名店。
その名は…、
「裏店」
老舗かつ女主人がカップラーメンにお湯を注ぎ、店内の机で腹を満たす。
駄菓子はもちろん、ジュースにアイスと体育会系から文系まで通う裏店は北方高校の社交場でもあった。
男子が二人以上もしくは女子が二人以上揃えば恋話に花が咲く。
女主人は店の奥でそんな話が耳に入るが口が固く、漏らす事がない。
女子生徒にやたらと人気な女主人には相談が絶えない。
そこに一人の男子生徒が相談に出向いた。
池田主将である。
厳格なこの男も、団体戦の上位により校内での知名度は高くなっていた。
ガラガラガラ。
「おばちゃん!自分池田と申します!少しお時間を頂けますか!」
愚直な男は言葉を知らない…。
百戦錬磨のおばちゃんは主将級を把握しており、無下な態度はとらない。
「…座りな…。」
椅子を差し出し、店の扉を閉めカーテンをする。
最大級の傾聴する姿勢に男池田は感激する。
「自分、明後日の文化祭で女子を校内上映される映画に誘いたいのですが、どう誘えば良いものか…。」
「ご指導願えますかっ!」
男池田、勇気を振り絞る。
すかさず、おばちゃんから
「手応えはありそうかい?」
「わかりませんっ!」
差し出された椅子には座らず直立したまま答えている。
「…。」
おばちゃんはしばらく考えた後に
「ほうかい…。」
さらに間を置いて、
「男なら迷うな。」
男池田は「はいっ!」
店を後にする。
文化祭終了後、湊は新古たちとジュースを買いに裏店に入る。
店内の椅子に座り、下を向いて座る男池田。
そこに「食べな…。」とカップラーメンを差し出す女主人。
湊と新古は何も買わず店を後にした。
名店は腹を満たすだけではない。
人の心を満たす店が名店なのである。




