第三十話 二人だけの時間
試合後は雨も止み、天気は秋空に変わっている。
西方高校の校門で待ち合わせ、山内さんと自転車を押しながら帰っている。
「クタクタだよ…。」首に掛けたタオルで拭いている。
「激戦やったもんね!凄かったもん!」珍しく興奮している。
二人で西方高校から裏の坂道を自転車を押しながら歩く。
西日が眩しく夕方が終わろうとしていた。
「今日さ、また名前言ってたよね。」
お母さんと二人で武道館に来た時の事だ。
「名前呼ぶ理由教えてよ?」
不思議そうに訪ねる。
「いいよ、私の質問にも答えてくれたらね。」
眼鏡が光っている…。嫌な予感が背筋を走ったが、
「わかった。じゃあ何でも答えるから教えてや。」
興味津々な顔をする湊を見て、
「試合の顔と今の顔、同じ人?」
ケラケラと笑う。
「頼むよ、小さい時から気になってたんやけん。」
話し方が昔に戻り始める。
「ほなら、小さい時に聞きや。」
方言が二人の時を戻している。
「仕方ないな、後で私の質問忘れずに答えてよ?」
自転車のハンドルをギュッと握りしめていた山内さんを湊は気がつかない。
「名前呼ぶのはね…。呼びたい人やけん!」
ドヤ顔である。
「なんやそれ…。」
拍子抜けして、ガッカリしている。。
「何を期待したん?」
いたずらっぽい顔で湊を見ている。
「…私の質問の番やね…。」
自転車を押しながら話し始めた。
「前に鹿島で好きな人の名前に私の名前出したんやろ?」
「あれ、あれは…。」
「…違うん?」
湊を見る。
二人は立ち止まり、湊の口が開く。
「好きなよ…。」
喉が詰まる。
「……小学生の時から、ずっと。」
真っ赤な顔が夕日に照らされている。
「あ、ありがと…。」自転車に乗り走り出す。
「ま、待ってや!……えぇ?」
自転車は爆走していく。
「なんなんや、もう…。言わせるだけ言わせて先に帰るんかい。」
「はあ、試合より疲れた…。」
ぶつぶつ言いながら一人で帰宅する。
早く、母さんや昇に伝えたかった。
今日の試合の景色を、全部。




