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瀬戸内今昔物語  作者: 森村征爾
第二章 高校生編
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第ニ十二話 移り変わり

新人トーナメント後、弓道部の入賞は全校集会でも発表された。

団体戦代表として壇上へ上がったのは宮下だった。

緊張するどころか、いつも通りの顔をしている。

個人戦入賞者として湊も壇上へ呼ばれた。

体育館に拍手が響く。


去年まで、こんな場所へ立つ事になるとは思っていなかった。

試合が終わってから、少しずつ周囲の空気も変わっていった。


まず変わったのは女子弓道部だった。

あの騒動以来あった冷たい視線が、いつの間にか消えている。

理由は単純だった。


新古と松沢さんが付き合い始めたからだ。


試合後、新古は真正面から気持ちを伝えたらしい。 回りくどい事をせず「好きや」 と伝えたそうだ。

部活帰り一緒に歩いて帰る二人を見た時、湊は素直に安心した。


さらに田中と菅沢も女子部員から告白され、それぞれ付き合い始めていた。

男子弓道部の空気は完全に変わっていた。


だが当然、面白くない人物もいる。

「新古!田中!菅沢!」

池田主将の怒声が飛ぶ。

「練習前、毎日走り込み追加!」


「えぇっ!?」

三人が同時に叫ぶ。

ちなみに宮下はやっと走り込み免除された。

さらに次期主将は宮下に決定した。

理由は聞くな、 と一言。


理不尽だった…。

池田主将は彼女が居ない、彼女を作るやつは冷遇された…。


試合が終わった夜。 湊は昇へ電話をかけた。


「まじか、やったな!」

まるで自分の事みたいに喜んでくれる。


「個人戦二位か、やるやん!」

電話越しでも笑っているのが分かった。


「次、お前の試合も見に行けたら行くわ」

そう言って、いつものように突然電話は切れた。

ガチャ。

相変わらず突然切る…。


そのあと、山内さんへも電話をかけた。

応援のお礼を伝えたかった。

数回のコール音のあと、

「はい、山内です」 と女性の声が出る。


「あっ、佐倉です。お久しぶりです」


「あらっ!?湊君!?」

山内さんの母だった。

どうやらもう試合結果は聞いていたらしい。


「凄かったんやって!?」

「写真も見せてもらったよ!」

「全部当てたん!?」

次々質問が飛んでくる。

電話の向こうでは、

「ちょっとお母さん!長いって!」 と山内さんが慌てている声まで聞こえていた。

受話器を取り合っている音がして、思わず笑ってしまう。


「もう、お母さん長いんよ!」

ぶつぶつ文句を言いながら、ようやく山内さんへ代わる。


「もしもしっ!」 声の調子が急に変わる。


「おめでとう!」

さっきまで怒っていたのに、もう笑っている。


「なによ~?」 湊が笑った理由は分かっていないらしい。


「試合中の写真撮っとたんよ」

「表彰の時も!」

嬉しそうに話し続ける。


「お母さんも次の試合行くってうるさくてさ」

「さっきまで喧嘩しとったんやけん」

その光景が簡単に想像できた。


「袴姿の佐倉君見て、お母さん大興奮なんよ」


「やめてや……」

相変わらず仲の良い親子だった。


「今日は本当にありがとう」

湊は少し真面目な声になる。


「結構ヤバかった時に声掛けてもらえて助かった」

試合中、集中が深くなると周囲との切り替えが出来なくなる。

その感覚を説明すると、山内さんは少し黙ってから、

「もうそれ、昇君とかしか分からん世界やね」


「……山内さん」


「ん?」


「前から気になっとったんやけどさ」


「なになに?」


「名字と名前、昔から使い分ける理由あるん?」


「ああ、これ?」

そして笑った。


「教えない!」


「……いや、そこは言うやろ」

湊が呆れると、電話の向こうで楽しそうに笑い声が響く。


「写真、また渡すね」 「次の試合も応援行くから」

電話を切ったあと。

お礼を言ったはずなのに不思議と元気をもらった気がしていた。

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