第二十一話 後半戦
武道館の控室は、張り詰めた空気に満ちていた。
後半戦の準備が進む中、準決勝に進んだ四校が発表される。
媛工二年、北方二年、西方二年、媛商二年。
いずれも強豪が並んだ。
予選一回を終えた時点で、媛工は五人中三人が皆中。北方は湊のみが皆中。
「北方高校、お願いします」
係員の声に合わせて、一同は礼をして道場へ入る。
北方は四番目の進行だったため、団体順位はすでに媛工、媛商、西方の順にほぼ固まりつつあった。
一番手の宮下が、ゆっくりと弓構えに入る。
その背中に続き、新古も田中も菅沢も、それぞれの呼吸を整えていく。
的中が続いた。
だが三番手、四番手が外す。
そして五番手、湊の番が来る。
弓を取ると、周囲の音が少しずつ遠のいていった。
静かな世界に入った…。
山内さんの顔が応援席に見える。
さっき自分を呼んだ声は「湊君」と確かにそう言っていた。いつも不意に名前を言う。
以前の記憶が呼吸の中に混ざる。
会に入る。
的がいつもより近く見える。
弓が最大張力に向け張られていく感覚だけがわかる。
会。弓の軋み、弦からの高音は限界値を知らせる。
矢は頬に触れてはいないはずなのにそこに確かに存在していた。
そして…、
離れ。
弦が離れた瞬間、弓は反動で手の内を回る間に、矢は的の中央へ吸い込まれる。
乾いた紙を射貫く音が後からやってくる。
残心。
右手の位置が見えないのに分かる。
イメージが現実とリンクする。
道場には、風や葉の擦れる自然の呼吸のみ。
静寂は池田先輩の拍手で破られ、観客から拍手が拡がり始める。
団体戦は宮下と新古が三本的中。
田中と菅沢が二本的中。
湊は皆中。
北方高校は団体戦三位入賞となった。
続いて個人戦へ移る。
媛工三名、西方一名、北方一名。
全的中が並び、再試合が組まれた。
この日は朝から暑かった。
蝉の声が絶えず道場の周囲に日陰はほとんどない。
各校の選手たちは汗を拭いながらも静かにその瞬間を待っていた。
大会来賓の練士たちは椅子に腰掛け、ただ見守る。
風が吹くたび西方高校の部員札がかすかに鳴った。
湊は再び静かな世界へ入っていく。
他校の選手たちの背に並び、自分の呼吸のリズムが重なっていく。
矢が放たれる音が順に消えていく。
個人戦、終了。
優勝は媛工男子弓道部。
順位ごとに名前が呼ばれ表彰が始まる。
「北方高等学校男子弓道部 佐倉 湊」
「はい!」
賞状を受け取る。
そこに記された順位は二位だった。




