第二話 クラス替え
佐倉湊が小学六年になった春、クラス替えがあった。
三津浜の小学校は、毎年のように少しずつ顔ぶれが変わる。
去年まで一緒にいた友達と、また違う場所に座ることになる。
湊は四組になった。
昇も同じクラスだった。
「もう水泳部は小学校までやな」
「中学は野球部に入らん?」
「ほやなあ……」
昇の言葉に、湊は曖昧に返した。
水泳部は夏の大会が終われば、小学校では活動がほとんどなくなる。
ずっと続けてきたが、体格の差はもうはっきりしていた。
勝てなくなってきていることを、湊自身が一番分かっていた。
それでも、やめると決めきれないまま春が来た。
新しい教室は、少しだけ知らない空気をしていた。
五年生からの再編成で、隣の校区からも生徒が入ってきている。
顔を知らない子の方が多い。
ホームルームが始まり、担任がプリントを配っていく。
湊の席は後ろから二番目だった。
プリントは湊のところで足りなくなった。
後ろの席にいる生徒に手渡す。
「はいよ」
軽く渡して、湊は前へ取りに行った。
戻ろうとしたとき、小さな声がした。
「ありがとう。取ってくれたんだ」
振り向くと、後ろの席の女の子がいた。
「かまんかまん」
湊は笑って席に座る。
それだけのことだった、特別な出来事ではない。
授業が始まる。
黒板の文字をぼんやり見ながら、湊は考えていた。
(中学、どうしようか……野球部でも入ってみるか)
窓の外では、春の光がゆっくり揺れている。
その教室のどこかで、まだ名前もちゃんと知らない誰かが、同じ時間を過ごしていた。




