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瀬戸内今昔物語  作者: 森村征爾
第一章 少年編
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第一話 出会い


昭和の夏、三津浜の商店街は、昼になると少しだけ騒がしくなる。

惣菜屋からは揚げ物の匂いがして、布団屋の前には風に揺れるのれん。

電気屋のテレビからは、笑っていいともが流れていた。


「こらー、湊! 商店街は自転車降りなー!」


「おっちゃん、ごめん! 帰りは押して帰るけんなー!」

湊は買ったばかりの六段ギアの自転車を必死にこぎながら、商店街を抜けていく。


目的はひとつだった。

キン消しのガチャガチャ。

人気のそれは、すぐに無くなる。

今日行かないと、もう回せないかもしれない。

友達の昇たちは先に行っているはずだった。

おもちゃ屋の前には、カプセルの機械がずらりと並んでいた。

まだ「中止」の札はついていない。


「おぉ、間に合ったな!」


「ギリギリやんけ」

昇たちが笑う。

そのとき、少し離れた場所で、湊は別の機械に目を止めた。

赤い自販機型ガチャのコスモスと書かれている。

なんとなく、その前に女の子が立っていた。

湊と同じくらいの歳だろうか。

じっと機械を見上げている。


それ、あんまり当たらんけんなぁ……

湊はそう思いながら、友達の方へ視線を戻した。

女の子は小銭を入れて、レバーを回した。

ガコン、と音がする。

出てきたカプセルを開けると、そこに入っていたのは思っていたものと違う小さなキーホルダーだった。

少しだけ肩が落ちるのが分かった。

湊は、なぜかその背中から目を離せなかった。


「湊、回せや」

「早よ帰らんと怖いテレビ始まるやんか」


「うん……」

昇に言われて、湊は自分の番に戻る。

キン消しのガチャの横に、別の機械があった。

サンリオのキャラクターガチャ。

普段なら選ばない。

けれど、その日はなぜか手が伸びた。

レバーを回しカプセルが落ちる。

出てきたのは、女の子に人気のキャラクターだった。


湊は少しだけ黙って、それを見た。

そして、気づいたら歩いていた。


「なあ」

女の子が顔を上げる。


「これ、やるよ」

カプセルごと差し出す。


「え? かまんの?」

少し戸惑いながら受け取って、開ける。

中身を見た瞬間、顔が明るくなった。


「これ、好きなやつや……!」

「かまんの? ありがとう!」

その笑顔を見て、湊はなぜか満足した。


「ほなな。」

そう言って、湊は友達の元へ戻った。

自転車を押しながら帰る道。


「湊、ガチャなんでせんかったん? アホやなぁ」

昇が笑う。


「別にええやろ」

湊はそう言って笑った。

商店街は昼過ぎの顔になっていた。

惣菜屋では夕飯の準備が始まり、テレビの音だけが同じように流れている。

その日、湊はまだ知らなかった。

あのガチャガチャの景品みたいに、

自分の時間の中に「誰か」が入ってくることを。

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