第十八話 予選と応援
蝉の鳴き声で目が覚めた。
窓から潮風が入ってくる朝だった。
今日はいける。
理由は分からない、足の下から上に込み上げる何かがあった。
湊は素早く支度を整え西方高校へ向けて自転車を走らせる。
途中で宮下と田中が合流した。
「暑っつ……」 ガンちゃんが制服の襟を引っ張りながら空を見上げる。
「まだ朝やぞ」 田中が呆れたように笑った。
三人で西方高校へ到着すると、すでに他校の選手たちが集まっていた。 道場周辺には独特の緊張感が漂っている。
控室として案内されたのは武道館の更衣室だった。
「広っ。」 ガンちゃんが思わず声を漏らす。
田中は周囲を見回しながら、
「同じ県立とは思えんな」 と感心していた。
確かにそうだった。
弓道場も武道館も体育館も、北方高校より新しい。
けれど、田中がこういう事を言える時は大丈夫だと湊は思っていた。
周囲が見えている、落ち着いている。
このメンバーなら戦える。
試合は1人4本の矢を的に当てた回数、2回目も同様に4本を射ち計8本中、上位から決勝に上がれる。
道着へ着替え終え、湊は一人で自販機へ向かった。
冷たいスポーツドリンクを買おうとした時だった。
女子弓道部と鉢合わせになる。
一瞬、空気が止まった。
女子部員たちは視線を逸らしたまま通り過ぎていく。
あの騒動以来まだ距離は戻っていなかった。
「おはよう。」
松沢さんだけが足を止める。
「応援してるよ。」
湊は少し驚きながら、
「松沢さんも頑張って、応援してるから」 と返した。
松沢さんは笑って女子更衣室へ入っていく。
湊はスポーツドリンクを開け、一気に飲み干した。
冷たさが喉を通っていく。
深く息を吐く。
もう蝉の声は耳へ入っていなかった。
周囲の音が、少しずつ遠くなる。
あの静かな感覚が近づいてくる。
今日、 入れるかもしれない。
そう思った。
予選開始、北方女子弓道部が先に予選を戦っていた。松沢さんもレギュラー入りし三番手。
残念だが一回目の団体戦で3本しか当たらず。予選敗退は濃厚、松沢さんが1本だけ的中した時は全力で拍手した。
「北方男子どうぞ。」案内係の声でガンちゃんを先頭に入り始める。
少し緊張していたが心地よかった。
一番手から射ち始める。どっしりと構えたガンちゃんは的中。
続き新古も的中。田中、菅沢も的中。
そして、湊は…。




