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瀬戸内今昔物語  作者: 森村征爾
第二章 高校生編
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第十七話  発表

レギュラー発表の朝。

男子部員たちは道場へ起座したまま並び、池田主将の言葉を待っていた。 道場は張り詰めた空気になって

誰も喋らない。


「夏の新人トーナメントは団体戦と個人戦がある。」

池田先輩の声だけが響く。


「団体メンバーでも個人の的中次第で決勝へ残る事がある。」

誰も返事をしない。

全員、次の言葉を待っていた。


「一番手、宮下。」

ガンちゃんが小さく息を吐く。

「二番手、新古。」

よし!とガッツポーズ。

「三番手、田中。」

ふむ、と頷く。

「四番手、菅沢。」

え?おれ?とびっくりしている。


そして。

「五番手、佐倉。」

湊は一瞬、自分の名前が理解できなかった。

周囲の空気が一変した。

喜ぶ者、 下を向く者、 無表情のまま固まる者。

一年近く皆で同じように弓を引いてきた。

だからこそ落胆する気持ちも分かってしまう。


池田先輩が静かに続ける。

「言っとくが当てる事ばっか考え始めたらメンバー変えるぞ。」

その意味は今なら理解できた。


当てたいと思った瞬間、弓は乱れる。

狙い始めるほど離れが崩れる。


「当てようとするな。」

一年間、何度も言われ続けた言葉だった。

弓道は不思議だった。 得点を求めればアーチェリーと同じ得点争いになる。池田先輩は常に武道としての弓道を教えてくれた。


「解散!」

「はいっ!」


その日から、 レギュラー組はさらに必死になった。

もはや池田先輩の注意は遥か彼方である。


一本でも多く当てたい。

一本でも外したくない。

皆、目の色が変わっていた。


逆に選ばれなかった部員たちは少しずつ道場へ来なくなっていく。


湊にはその気持ちも分かった。

水泳をやっていた頃、 似たような苦さを味わった事がある。


けれど今は止まれない。

レギュラーを取った以上、結果を出すしかなかった。


その夜。

湊は昇へ電話をかけた。

「マジか!」

電話越しでも分かるくらい声が大きい。


「レギュラー入れたんか!」


「うん。」


「順番って意味あるん?」

「へぇ~。」 興味があるのか無いのか分からない返事だった。


「どこで試合やるん?」


「西方高校。」


「ほな切るぞ。」

ガチャ。

「はぁ!?」 湊は受話器を見つめた。

相変わらずな奴だ…。


するとすぐ電話が鳴る。

また昇かと思い受話器を取る。

「もしもし、今度は切るなよ。」


「……も、もしもし。」

湊の動きが止まる。

山内さんだった。

「こ、こんばんは。」


「こんばんは。」

初詣以来だったせいか、 妙に緊張した。


「清水くんから今聞いたよ。」

やっぱりか。

昇の行動が早すぎる。


「レギュラー入り、おめでとう。」


「ありがとう。」

自然と少し笑っていた。


「西方高校で試合するんやろ?」

「応援行ったら迷惑?」


「え?」

予想外の言葉だった。

「全然。」 湊は慌てて答える。

「迷惑なんかじゃないよ。」


電話の向こうで、 少し嬉しそうな声がした。

「じゃあ見に行くね。」


試合まであと少し。

負ける気は、 微塵もしなかった。

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