第十六話 レギュラー争い
夏が近づく頃、新人トーナメントが始まる。
この大会は一、二年生までの大会だった。
だが一年生でレギュラー入り出来る学校は少ない。 昨年の湊たちもそうだった。
実質、二年生同士のレギュラー争い。
誰もが夏の試合へ向け毎日必死に弓を引いていた。
練習後。「見てくれ、この手…。」
新古が情けない顔で手のひらを突き出した。
潰れたマメが赤黒く剥けている。
「治る前にまた潰れるんよ。箸持つのもしんどい。」
すると周囲から、
「俺も。」「いや、俺の方が酷い。」「風呂が地獄やぞ。」
痛々しい自慢大会が始まった。
湊も苦笑する。
弓を握る革巻きの部分には、乾いた血が黒く残っていた。 拭いても落ちない。
汗と皮脂と血の匂いが染み付いている。
皆同じだった、マメが裂けても引く、腕が上がらなくても引く。
誰もが自分がレギュラーへ入ると信じていた。
その夜。
自宅で素引きのイメージをしていると電話が鳴る。
「湊!」
昇だが声が妙に明るい。
「地区予選、レギュラー入れた!」
電話の向こうで笑っている姿が目に浮かぶ。
「マジか!おめでとう。」
野球強豪校で二年生がレギュラー入りする。
簡単なことじゃない。
中学の頃から昇がどれだけ努力してきたか湊は知っていた。
人より走り、人より振り、人より野球の事ばかり考えていた。
その結果だった。
「湊に最初に言いたかったんよ。」
昇は嬉しそうに言う。
「一番に電話したんやで。」
少し照れ臭くなる。
「ありがとな。」
そう返すと、昇は電話口で笑う。
お互いの近況を伝えたりしていた。
「ほな、他にも連絡するから切るぞ。」
ガチャ。
電話は一方的に切れた。
「……早っ。」
湊は苦笑する。
昔から変わらない。
嬉しい事も、悔しい事も、台風みたいに現れて台風みたいに去っていく。
湊は自分の手を見る。
潰れたマメ、固くなった指。
夏まで、あと少し。
負けたくない。
息を吐きもう一度ゴム弓を手に取った。




