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瀬戸内今昔物語  作者: 森村征爾
第二章 高校生編
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第十二話 小さくなった商店街

年越し蕎麦を食べ終え、初詣に向かう三人は玄関外へ出た。


「さむっ」 「さぶっ」 「寒い……」


それぞれ自然に声が漏れる。

うっすら積もった雪が見慣れた庭や道路を別の景色へ変えていた。 街灯に照らされた白い道は静かで、足音だけが小さく響く。


湊は並んで歩く二人を見た。

小学生の頃と同じ人物とは思えない。

昇は身体つきが完全に変わっていた。 肩幅は広く、冬なのに肌は焼けたまま黒い。 身長もかなり伸びている。

さっき家の中では、 「二人とも喋り方がお上品になっとる」 と笑われた。

昇だけは昔と変わらない。 方言そのままで、大声で笑う。

つられるように湊も山内さんも昔の喋り方へ戻っていた。


山内さんは中学から身長が止まったらしい。 湊や昇と並ぶと小さく見える。

けれど、もう昔の癖毛はなかった。 黒髪は柔らかく風に揺れ、丸い眼鏡が街灯を反射している。

「目ぇ悪くなってしもたんよ」 本人は笑っていた。

真っ白な肌は雪みたいだった。

外へ出ること、減ったんかな。

湊はそんなことを思う。


三人は神社へ向かう近道にと、商店街を歩き出す。


「あっ!」

昇が突然声を上げる。


「おもちゃ屋、潰れとる!」

昔あった店は、ほとんどシャッターを下ろしていた。 錆びたままの看板や閉じたままのガラス戸。

長い時間が過ぎたことを、街そのものが教えていた。


昇がニヤニヤしながら湊を見る。

「なあなあ湊」


「ん?」


「昔、キン消しのガチャ回した時のこと覚えとるか?」


山内さんの歩く速度が少し落ちる。

「……清水君、駄目…。やめて…。」

昇の腕を強く引っ張る山内さん。


「へ?」

湊は首を傾げる。


すると昇が笑いながら言った。

「お前、女の子にガチャ渡したやろ」

その瞬間、昔の記憶が蘇る。

泣きそうだった小さな女の子。 同じガチャが欲しかったのに当たらなかった子。


「ああ……おったな」

懐かしく思い出していると。

昇が吹き出した。

「あれ山内さんやぞ」


「え?」

湊が固まる。

山内さんは顔を真っ赤にしていた。


「しーみーずーくーん!!」

静かな商店街に声が響く。


「え、え?」 「嘘やろ?」

湊はまだ理解できていない。

あの小さな女の子が山内さん?

ぽかんとしていると、山内さんが恥ずかしそうに視線を逸らした。


「あの時は……その……ありがと」

そう言いながら、隣の昇を軽く叩く。

「余計なこと言わんでいいの!」


昇は腹を抱えて笑っていた。

「いや絶対気づいてない思ったし!」


湊はようやく納得した。

だから花火大会の時も、妙に距離が近かったのか…。


「六年の時なんか」 山内さんは苦笑しながら続ける。

「真後ろにおるのに全然気づかんのやもん」

「普通にショックやったんよ?」


「ご、ごめん……」

「でも」

山内さんは少し笑った。

「プリント取りに行ってくれた時、嬉しかったよ」


「でもね…。」


「宝物のキティちゃんをゴミみたいに言うたん忘れてないけん。」

じとっと見る山内さん。

「いや、ゴムの塊言うたんや。」

慌てて弁解する湊。

もう喋り方が昔のままだった。


懐かしい話が次々と飛び出していく。

昔の祭り、 三津浜焼き、 渡し船、 学校帰り。

気づけば三人の笑い声が、静かな商店街へ響いていた。

やがて出口が近づいた頃、昇がふと後ろを振り返る。


雪の積もったアーケード、 閉じたシャッター、 遠くの街灯。


「……こんな小さかったっけ…。」


昔は広く感じていた商店街は、 今見ると少しだけ小さかった。

閉じたシャッターの前を、 三人の影だけが伸びていく。

けれど、不思議と寂しくはなかった。

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