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瀬戸内今昔物語  作者: 森村征爾
第二章 高校生編
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第十一話 それぞれ


玄関先で笑ったあと三人は居間へ上がっていた。 母が追加で茹でた年越し蕎麦を並べながら、


「久しぶりやねぇ」 と山内さんへ笑いかけている。

湊は少し落ち着かないまま向かいへ座った。

さっきから何度見ても昔の山内さんと結びつかない。

眼鏡の奥の目元も 落ち着いた話し方も 昔より大人びて見えた。

けれど笑う時だけ、少し昔の面影が残っている。


「なに?」

山内さんが不思議そうに笑う。


「……いや、ほんま変わったなって」


「佐倉君もね、学校で見た時はびっくりしたよ。」

そう言われ湊は少し照れ臭そうに蕎麦を啜った。

昇はそんな二人を見ながら、

「いやぁ、やっと再会やな」

と一人で楽しそうに笑っている。


外では風が強くなっていた、 窓ガラスが小さく鳴っている。


「雪、積もるかもな」 昇が言う。


「港で積もるの珍しいよね」

山内さんが窓の外を見ながら呟いた。


しばらく他愛ない話が続く。

昔の同級生のことや、中学の先生のこと。

宮前川が台風で大変になった話。

けれど話題が途切れた時、不意に昇が湊を見る。


「そういや弓道どうなん?」

その瞬間、湊の表情が少し変わった。


「楽しいよ」 迷いなく答える。


「毎日そればっか考えとる」 そう言って、自分でも少し笑った。

昇は頷きながら蕎麦を啜る。


「お前、中学ん時そんな熱くなるもん無かったもんな」


「……まぁな」

湊は湯気の向こうをぼんやり見つめる。

昔の自分を思い出していた。

野球だけを見ていた昇、 結果を出し続けていた昇。

ずっと遠くにいる気がしていた。


「正直、羨ましかったんよ」

昇が目を丸くする。


「お前が夢中になっとるの見てて、自分だけ何も無い感じがしてた」

少しだけ間が空く。


「でも今は違う」

湊は笑った。


「弓道始めてから、昇と話しても前みたいにしんどくない」

昇はきょとんとしていたが、やがて照れ臭そうに笑った。


「なんやそれ」


「うまく言えんけど、やっと同じ場所立てた気がする」

その言葉を、山内さんは黙って聞いていた。

やがて静かに口を開く。

「……私もね、西方中しんどかったよ」

二人が山内さんを見る。


「小学校の時みたいに、全然点取れなくなって。周りはみんな頭良かったから」

指先で湯呑みをなぞりながら続ける。


「別に嫌われてたわけじゃないんだけどね、なんかずっと自分だけ駄目な気がしてクラスで浮いてた」

冬の静かな部屋に、テレビの笑い声だけが遠く流れていた。


「でも高校そのまま上がれたから、お母さんには感謝してる」

山内さんは少し笑う。

「今は自分のペースでやれてる気がする」


その空気を聞いていた昇が、大きく息を吐いた。

「いやぁ、でも結局どこ行っても大変やな」

そう言って笑う。

「うちなんか全国から集まっとるからな。推薦で入ってもそこからまた競争や」

「五十人くらいおる中で、さらに上級生からレギュラー奪わんと試合も出れん」

昇はそう言いながらも、どこか楽しそうだった。


「キツいよ、でもな、「楽しい!」

その瞬間。



「わかるっ!」


湊が思わず身を乗り出す。

昇が吹き出した。


「お前ほんま弓道馬鹿なったな!」

三人の笑い声が重なる。

窓の外では 静かに雪が降り始めていた。

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