第八話 次の世代
秋の国体予選、北方高校弓道部は予選敗退。
レギュラー五人のうち、四人の三年生がこの大会で引退となる。
試合後の道場には、どこか気の抜けた空気が流れていた。 更衣室では先輩たちが静かに道着を畳んでいる。 笑っている人もいたが、無理に明るくしているようにも見えた。
湊は矢立てを運びながら、その様子を黙って見ていた。
「佐倉」
振り返ると、池田先輩が立っていた。
「はい」
「媛工の連中、見たか?」
湊はすぐ頷く。
「はい」
そして少し考えてから、
「……デカかったっす」
そう答えた。
池田先輩は一瞬きょとんとしたあと、大きく笑った。
「そこかよ」
更衣室の空気が少しだけ緩む。
けれど湊にとって本当にそう見えた。
体格でない。射場へ立った時の存在感、同じ高校生なのに別格な存在だった。
池田先輩は笑いながら、湊の肩を軽く叩く。
「まぁ、お前も強くなるからな」
「……はい」
短く返事をする。
その言葉が、思ったより胸に残った。
三年生が引退すると、道場の空気は一気に変わった。 次からは池田先輩が主将になる。
男子部員たちは自然と背筋を伸ばしていた。
北方高校弓道部は男女合同だったが、道場は時間制で使われていた。 過去に何があったのかは知らない。 けれど男子と女子は完全に入れ替え制になっている。
男子の練習時間まで、まだ二時間近くあった。
「合同ならもっと引けるのにな……」
同級生がぼやく。 湊も少しだけ同じことを思った。
けれど待っている間も、何もしないのは落ち着かなかった。
校舎横の窓ガラスへ姿を映しながら何度もゴム弓を引く。
肩の高さ、 肘の位置、 離れの形。
頭の中には、それしかなかった。
「あ、あの……」
突然後ろから声をかけられる。
振り返ると二人組の女子生徒が立っていた。
一人は俯いたまま。
もう一人が、その背中を小さく押している。
「香ちゃん、ほら」
こういう空気は、入学してから何度かあった。
けれど今の湊には弓道以外へ気持ちを向ける余裕がなかった。
「ごめん、まだ練習したいんよ」
湊は素直にそう答えた。
女子生徒は少しだけ困った顔をする。
「……ごめんなさい、練習中に」
小さく頭を下げる。
去り際、 「弓道、応援してるね」 とだけ言って走っていった。
湊は軽く頭を下げ返す。
そして再び窓ガラスへ向き直った。
ゴム弓を引く。
鏡へ映った自分の肘が、少し下がって見えた。
「違うな……」
小さく呟き、もう一度弓を引いた。




