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瀬戸内今昔物語  作者: 森村征爾
第二章 高校生編
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第七話 国体予選


秋の国体予選は、県立西方高等学校の弓道場で行われた。

朝早く学校へ集合し、北方高校弓道部は自転車で会場へ向かう。


校門付近には袴姿の高校生たちが並ぶ。

どこか普段と空気が違っていた。


西方高校へ着くと、すでに多くの学校が集まっていた。

広い弓道場、 張り詰めた空気、 道場の奥には整然と並ぶ的。

湊は思わず周囲を見回した。


男子更衣室も朝から賑やかだった。 各校の部員たちが黙々と準備をしている。

先輩たちの弓具を並べながら湊は他校の様子を眺めていた。

道具を一直線に揃える学校。

正座したまま先輩を待つ学校。

誰も無駄話をしない学校。

高校ごとに空気が違う。

それを見るだけでも面白かった。


「っざす!」

突然、更衣室へ声が響く。

北方高校弓道部の挨拶だった。

「おはようございます」が、いつの間にか短くなっていた。


「おう、おはよう」

三年生たちは落ち着いた様子で道着へ着替え始める。 その姿を見ながら、湊は少し緊張していた。

すると。


「佐倉」

池田先輩に呼ばれる。


「はい!」

「今日、媛工の連中をよく見とけ」

「はい!」

媛工とは愛媛工業高校。

県内でも有名な強豪だった。

堀之内の道場には師範クラスの弓士たちも出入りしている。

池田先輩も、時々その名前を口にしていた。


「射つ姿勢が綺麗やけん勉強になるぞ」

池田先輩はそれだけ言うと、自分の弓を静かに確認し始めた。


試合は淡々と始まった。

最初に射場へ立ったのは松工だった。


湊は思わず前のめりになる。

一人目、矢は迷いなく的へ吸い込まれた。

二人目、また当たる。

三人目、 四人目。


外さない。

湊は息を飲んだ。

なんだ、この人たち……。

動きに迷いがない、 張り詰めているのに硬さがない。


射場へ立った瞬間から空気が変わる。

結果、一人だけ外した。

けれど間違いなく予選通過だろうと、湊でも分かった。


「北方高校、待機お願いします」

進行係の声が響く。

先輩たちが立ち上がる。

その背中を見ながら湊は初めて気づいた。


池田先輩が緊張している。

いつも静かな池田先輩ですら今日は表情が硬かった。

三年生にとっては最後の大会。

ここで負ければ引退だった。

射位へ立つ先輩たちを見る。


……小さい。


湊は思わずそう感じてしまった。

あれほど憧れていた姿なのに…。

いつも道場で見ていた先輩たちより、ずっと小さく見える。


動きに迷いがある、 呼吸が浅い。

どこか、自信がない。

練習の時とはまるで違っていた。


「先輩……」

小さく呟く。

結果は惨敗、予選落ち。

池田先輩も四射二中。


道場へ戻る先輩たちの背中は、どこか静かだった。

更衣室へ向かう途中。


「佐倉!ちょっと来てくれ。」

池田先輩が振り返る。


「はい!」

湊が返事をした、その時だった。


「……佐倉?」

通路を歩いていた女子生徒が、小さく足を止める。

肩まで伸びた髪が、道場へ吹き込む風で揺れる。


女子生徒は驚いたように湊を見つめていた。

けれど湊は、その視線に気づかない。

池田先輩の言葉を聞こうと、真っ直ぐ前を見ていた。

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