第二話 部活
湊が入学した県立北方高等学校は隣の市にあり、自宅から電車を乗り換え60分程の場所にある。
入学式が終わると新入生たちはそのまま体育館へ集められた。
壇上では各部活の紹介が始まる。
野球部は大声で校歌を歌い、サッカー部はリフティングを披露しながら歓声を浴びていた。 バスケ部は軽快なドリブルを響かせ、観客席からは拍手と笑い声が上がる。
どの部活も、自分たちの熱さを必死に伝えていた。
湊は後ろの席でぼんやり眺めていた。 何かやりたい気持ちはある。 けれど、自分が何をしたいのかまでは分からなかった。
そんな中、次の部活紹介が始まる。
「次、弓道部です」
壇上へ現れたのは白い道着に黒い袴姿の生徒たちだった。
それまで騒がしかった体育館が不思議と静かになる。
一人の男子部員がゆっくり足を開いた。 肩幅ほどに構え、静かに弓を持ち上げる。
弓を引くたび張り詰めた弦が低く震えた。
静かな体育館にその音だけが細く残る…。
部員は胸いっぱいまで弓を開いたまま動かない。
全く動かない。
遠くの的を見つめる視線だけが真っ直ぐ伸びていた。
見学者は誰も喋らない。
さっきまで響いていた歓声さえ消え、 体育館の空気が静かに固まっていく。
湊は目が離せなかった。
サッカー部やバスケ部のような派手さはない。 誰も叫ばない。 誰も走らない。
なのに、胸の奥が静かに引き寄せられていく。
やがて矢が放たれる。
乾いた音が体育館へ響き、 白い矢羽が真っ直ぐ的へ吸い込まれた。
小さな音を残し、矢は的を突き抜けた。
けれど部員はすぐには動かない。 矢を放った姿勢のまま、静かに保っていた。
…綺麗だ…。
その一つ一つの動きが。
静けさが。
張り詰めた空気が。
湊は自分の中から消えていた何かを見つけた気がした。
勝つとか負けるとかではない。 速さでも力でもない。
ただ、あの瞬間が綺麗だと思った。
気がつけば、部活紹介は終わっていた。 周囲では次の部活の準備が始まっている。
けれど湊の頭には、さっきの弦の震える音だけが残っていた。
放課後。
職員室前に置かれた入部届を書く。
部活動名の欄に「弓道部」と書きながら湊は少しだけ笑った。
自分から何かを選んだのは久しぶりな気がした。




