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3話 最悪な事実

「割れたあぁぁぁぁっ!?」

見事なまでに真っ二つだった。

それはもう、職人が意図的に切断したかのような綺麗さで。

「な、何故だ!?」「このタイミングで!?」

重臣たちがざわつく。

よりにもよって今?勇者を発見した直後に??

何かの凶兆だろうか。

あるいは召喚を妨害する魔王軍の呪いか。

そんな不安が頭をよぎる。

「うぬぅ....」

父は険しい顔で割れた破片を手に取った。

「ふむ.....」

しばらく観察する。

「これは……これは……」

そして…ーーー

「寿命だな」



「はい?」

思わず聞き返した。

「寿命だ」

「いや、聞こえなかったわけじゃなくて」

「寿命だな」

「聞こえてますっ!!」

何を言っているのだこの人は。

父はどこか懐かしそうに破片を撫でた。

「実はこの水晶玉は…」

「はい」

「若い頃に城下町の闇市で開催されていた違法オークションで落札した品なのだ」

「……はいぃ?」

今、聞き捨てならない単語が聞こえた気がする。

闇市? 違法オークション??

「非常に貴重な魔道具だと聞いてな。実際、何度も国を救ってくれた」

「.....そーなんですね」

「だが所詮は粗悪品だったのだろう」

父は遠い目をした。

「最後の力を振り絞り、我が国の危機を救ってくれた」

いや、ちょっと待ってほしい。 今そこじゃない。


「安らかに眠れ……メルルフィーヌ」

「名前あったんですか!?」

「当然だ」

父は得意げに胸を張った。

「お前が生まれる前から大切にしていた友だからな」

「その割には、倉庫に放置されてましたよね?」

「.........」

「私が見つけた時、ガラクタの山に埋もれてましたよね?」

「.........」

「ずっと埃まみれでしたよね?」

「.........」

「もしかして濁っていた原因、それでは?」

父の目が明後日の方向へ泳いだ。

どうやら図星らしい。


「………」

「………」


「まぁ、それはさておき」

いや、全然さておいていい話ではない。

むしろ今すぐ聞かなければならない案件である。

ていうか、今の間は何??

「お父様」

「うむ?」

「ひとつ、お聞きしたいことが…ーーー」

「あー…時間がないなぁ」

「いや、ありますよね?」

「な〜いなぁ〜〜」

「ありますよね?」

「ないったら、な〜いな〜〜」

「あの....」

「衛兵!!!」

「………」

露骨だった。あまりにも露骨な話題逸らしだった。

私の言葉を聞かなかったことにする気満々だった。

「はっ、陛下」

扉の前で待機していた衛兵が即座に応じる。

「我が友であった偉大なる水晶玉・ミルルフィーユを丁重に弔いーー」

「シャルルマーミュです、お父様」

「………」

「台座に大きく書いてあります」

「………」

「お父様の字で」

「………」

「しかもかなり雑な字で」

「………」

図星だった。

私の指摘をサラッと無視する程の図星だった。

「ともかくだ」

いや、だから。全くともかくではない。

「我が友シャトルクンを手厚く弔ってやってくれ」

「なんか、もう別物になっていますよね?」

「うむ」

いや、だから本当さぁ。

全っっっ然うむじゃないから。

何一つ解決していないから。

衛兵の顔を見てみなさいよ。

ジト目になりながら若干引いてるよ。


「……承知いたしました」

しかし流石は王宮勤め。余計なことは言わない。

衛兵は外套を広げ、割れた水晶玉の破片と台座を丁寧に包み込んだ。

実に手際が良い。あっという間だった。

「それでは陛下。シャルルマーミュのご遺体は、責任をもって埋葬いたします」

おぉー。ちゃんと正しい名前を言った。

しかもハッキリと。陛下=父にも聞こえるように。

なんという気遣いだ。

「うむ」

父は深々と頷いた。

「さらばだ、我が友…ーー」

おっ。今度こそ名前を覚えたのか。

少しだけ感心し……ーーーーーーーー。

「スペーシアンシュトラウゼマン」

てっ、何でですかぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!?



最悪…過去最悪だった。今まで一番遠ざかった。

スペーシアンシュトラウゼマンって、何だぁ??どこから出てきた。

もはや原型すら残ってない。

「おぬしの犠牲は決して無駄にはせぬ」

父は満足そうだった。

「安らかに眠るがよい!」

そして腹立つくらいの満面の笑み。

「………」

今ので確信した。この人わざとだ。

絶対ウケ狙い目的で、わざと間違えている。

「……………」

あっ、衛兵の表情が死んだ。

先ほどまで見せていた気遣いが一瞬で踏みにじられたからだろう。

分かる。私も同じ気持ちだ。

「…では、失礼いします」

衛兵は敬礼し、そのまま会議室を出いった。

『転職しよう』

「!!」

今の一瞬…ほんの一瞬だが、衛兵の口からボソッとそんな声が聞こえた気がした。


「……いや違う」

気のせいではない。むしろ本音だったと思う。


バタンッ!!


怒りを感じさせる扉が閉まる音を最後に、会議室に静寂が訪れる。

「……あれ?ちょっと待って」

そんな静寂の中で、私はあることに気づいた。

「よく考えてみれば」

最近、騎士団の戦死者数が妙に少ない。

もちろん良いこと。

良いことなのだが、同時に…ーーーー。

「辞職者、多くありません?」

……嫌な予感がした。とてもとても嫌な予感がした。


「もしかして」

本当にもしかしてなのだが。

我が国の兵力が減った理由は、魔族との戦争ではなく。

「お父様が原因……?」

いや、ないない。ありえないから。

「そんな馬鹿な…そんな理由で我が国家存亡の危機になるわけがない」

……ないよね。うん。はいはずだ。

多分。恐らく。きっと。できれば……ーーーー。

「…………」

私は額を押さえてた。

どうしよう....ーーーだんだんと自信がなくなってきた。


「まぁ....とりあえず考えるのをやめよう」

今はそれどころではない。

何より、まだ解決してない大きな問題がある。

『闇市』

『違法オークション』

さっき父が口走った、あまりにも物騒な単語だ。

この美しくて、治安が良いと評判である我が国の裏側に、もし本当にそんな場所が存在するなら大問題である。

『魔族との密売』

『違法魔法道具の流通』

『反国家組織の資金源』

考えれば考えるほど頭が痛くなってきた。

「ふぅ…よし!!」

一呼吸し、気持ちを切り替えるように私は顔を上げた。

決めた。今度こそ父を捕まえて問い詰める。

逃がさない……いや違う。

絶対に逃がさない

そう決意して周囲を見回した。

「………あれ?」

私以外、だれもいなかった

父がいない。

「に、逃げた!?」

いつの間に!? 気配すらなかった。

これは、自分にとって都合の悪い話題になると発動する

『神速撤退術』ーー父の得意技である。

しかも、扉の前にいたはずの衛兵たちもいない。

全員消えていた。完璧な連携だった。もはや芸術の域。

「.......つまり」

私は天井を見上げ、結論に至る。

「事実...事実なのね.....」

否定できないから逃げた。つまりそういうことだ。

会議室には、もう私しか残っていなかった。

「はは....」

乾いた笑いが漏れる。

「ハ...ハハハ.......」

私はふらふらと会議用テーブルへ近づいた。

そして両手をついて、しばらく無言。


数秒後。


ゆっくりと拳を握り締める。額には青筋。

笑顔だった。とてもとても良い笑顔だった。


そして...ーーーー。






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