2話 一縷の望み
私ことソルセリア王国・第2王女にして大魔道士アレグザドラ・サウル・ソルセリアは、
国王である父や重臣たちとともに会議室へ集められていた。
ーーー緊急会議
敵軍へ潜入していた調査団員たちから、至急の報告が届いためだ。
報告によれば、魔王軍最高幹部が近々ソルセリアへの本格侵攻を開始するという。
さらに恐ろしいことに、あらゆる結界を破ることができる魔法兵器や強力魔獣までも軍へ配備されたらしい。
現在のソルセリアは、長い年月にわたる戦乱によって騎士の数が徐々に減少し、兵力も低下していた。
唯一国を守る結界は依然として強力だ。しかし決して無敵ではない。
今から援軍を要請しても間に合わない。まさに万事休す。
奴らは、待っていたのだろう。
この時を……この国が弱り切る瞬間を。
だがーーー私たちは絶望するために会議室に集まったわけではない。
「頼むぞ、アレグザドラ」
「はい、お父様」
私は目の前に置かれた濁った色の水晶へ両手をかざした。
16歳の誕生祭に託された王家秘伝のペンダントが淡く輝き始める。
それに呼応するように、水晶の濁が少しずつ晴れていった。
やがて、その奥に一人の人物が映し出される。
白い長い椅子に腰掛け、やや猫背気味に座る黒髪の少年だった。
「年は私と同じくらいかしら?見たところ、ごく普通のーーー」
言葉が途中で止まった。
「……っ!?」
視界に映ったその瞬間、私は思わず息を呑んだ。
背筋が凍る。心臓が跳ね上がる。
「......どうしたのだ?アレグザドラ」
「姫様?」
異変に気付いた父たちが近寄り、水晶を覗き込む。
そしてーーーー。
「なっ!?」「こ....ここ.....コレは.....!?」「水晶越しでも解るぞ・・・この少年」
「人間なのか......?化け物ではないのか.......?」「この少年の.....桁違いすぎる魔力は??」
誰もが言葉を失った。無理もない。
私自身、まだ信じられていないのだから。
この少年が放つ魔力は、私を遥かに凌駕していた。
大魔導士である私ですら比較にならない。
いや、恐ろしいのは彼だけではない。
彼の周囲にいる者たちもまた、一人ひとりが常識外れの魔力を宿していた。
だがーーーー。
「見つけましたわ」
私は確信を込めて呟く。
「彼なら......」
長期戦を覚悟していた。
何時間、何日、何週間とかかるかもしれないと思っていた。
まさか、ほんの数分で見つかるなど。奇跡としか言いようがない。
「見つけた.....?まさか!!」
父の目が見開かれる。
「はい、お父様。間違いありません」
私は水晶に映る少年を見つめながら告げた。
「彼ーーーいえ、彼らこそが....」
我々は探していた。
減り続ける騎士たちに代わる新たな戦士を。
この世界には存在しない力を持つ戦士を。
迫り来る暗黒を打ち払い。乱世に終止符を打つ希望を。
異界より現れる救世主。
すなわちーーー勇者を。
そして今、その勇者達が、別世界に存在していたのだ。
「......お父様」
私は父へ向き直る。
「今こそ、あれを使う時です」
「無論だ」
父は力強く頷いた。
「今にして思えば、この日のために残された禁術だったのかもしれん」
そして大臣へ視線を向ける。
「大臣!」
「はっ、陛下!」
「城中の上級魔導士と神官を全員集めよ。一刻の猶予もない。儀式を開始する」
「まさか......あの禁術を....!?」
「うむ」
「承知いたしました!」
大臣はもちろん、居並ぶ重臣たちも慌ただしく会議室を飛び出していく。
こんなにも話が順調に進むなんて。恐るべし勇者効果である。
アレについて察した大臣はもちろん。他の重役たちも大急ぎで会議室を出て行った。
こんな、とんとん拍子にアレに進むなんて・・・恐るべし勇者。
「お父様、私たち急ぎーー」
ピシッ。
「.....え?」
微かな音が響いた。
ピシ……ピシピシ…ピシ……。
私は反射的に水晶へ視線を戻す。
「うそでしょ…」
水晶の表面に、細い亀裂が走っていた。
「………」
嫌な予感がする。とてもとても嫌な…予感が。
次の瞬間ーーー。
パキャァァァァァァァァァァァァン!!




