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あのとき、3人で笑ってた理由をまだ知らない  作者: れいじ


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第7話「ファミレスと、言い換えられた気持ち」

第7話です。


ゴールデンウィークが終わり、それぞれの生活に戻った3人。


少し会えない時間が続いたあと、久しぶりに集まる回になります。


テーマは「好きな動物」。


何気ない会話の中で、それぞれの性格や考え方が少しずつ見えてきます。


そして今回は、本音をそのまま言わずに、別の形で語る回でもあります。


軽い会話の中にある違和感を、感じてもらえたら嬉しいです。

ゴールデンウィークが終わると、大学の時間はまたいつもの速さに戻った。


休みの間はゆるく流れていた日々が、連休明けから急に現実的になる。講義、課題、ゼミ、バイト。三年になってからそれぞれの予定が前より少しずつ重くなっていて、三人で都合を合わせるのも思ったより難しくなっていた。


だから、気づけば五月の最後の日曜日になっていた。


駅前のファミレスで久しぶりに三人そろったとき、最初にそう言ったのは玲だった。


「なんか、普通に久しぶりじゃね?」


「久しぶりだよ」


美咲がメニューを開きながら笑う。


「連休明けてから、全然合わなかったし」


「みんな微妙に忙しかったからな」


陸も水のグラスに手を伸ばしながら言う。


「玲は忙しいっていうより、予定の組み方が雑なだけだろ」


「失礼だな」


玲はすぐに反応する。


「こっちにも色々あるんだよ」


「たとえば?」


「その日にならないとわからない気分とか」


「一番信用できないやつ」


美咲が笑う。


その感じが、少しだけ懐かしかった。


会っていなかったのはたぶん二週間ちょっとくらいなのに、三人でこうして座っているだけで久しぶりに感じる。たぶんそれは、ただ時間が空いたからじゃない。ゴールデンウィークのドライブ以来、それぞれの中に少しずつ残っているものがあって、それを何となく触れないまま今日まで来たからだ。


とはいえ、そんな空気を最初に壊すのは、やっぱり玲だった。


「てかさ」


ドリンクバーから戻ってきた玲が、椅子に座るなり言う。


「好きな動物って何?」


「急だな」


陸が即座に言う。


「ファミレス来て一発目の話題じゃないだろ」


「いや、でもこういうのたまに話したくならない?」


「ならないよ普通」


「なるって。何か平和じゃん」


「平和って何」


美咲が笑いながらストローを袋から出す。


「でも、好きな動物ってちょっと性格出るかもね」


「ほら」


玲がすぐ乗る。


「美咲はわかってる」


「わかってるの意味が軽いんだよ」


陸がつっこむと、玲は気にせず「じゃあ俺から」と言った。


「俺、犬」


「即答だな」


「絶対犬。明るいし、懐くし、一緒にいて楽しそうだし」


「玲っぽい」


美咲が言う。


「何も考えずに全力で走ってそう」


「それ褒めてる?」


「たぶん」


「その“たぶん”便利だな最近」


玲はそう言って笑う。


犬、と言いながら、たしかに玲っぽいと陸も思った。距離の詰め方に迷いがなくて、楽しそうな方へすぐ行く感じ。考えるより先に動くところもそうだし、人の輪の真ん中にいることが自然なところも、なんとなく犬っぽい。


「美咲は?」


玲が聞く。


「私は……猫かな」


「え、猫なんだ」


「意外?」


「ちょっと」


「なんで?」


「もっと犬派かと思ってた」


美咲は少し考えてから、メニューを閉じた。


「猫って自由じゃん」


「うん」


「気まぐれだし、別にずっとベタベタしてるわけじゃないし。でも、たまに寄ってくる感じがかわいい」


玲が「へえ」と言う。


陸はその説明を聞きながら、何となく別のことを考えていた。


美咲の言う猫は、たぶんただの猫の話じゃない。


自由で、気まぐれで、でもたまに近くに来る。


それが誰を思い浮かべての言葉なのか、考えたくないのに少しだけわかってしまう気がした。


「玲ってちょっと猫っぽいとこあるかも」


美咲が何気なく言う。


玲が「え、俺いま犬って言ったのに?」と反応する。


「いや、全部じゃないよ。でも、ふいにいなくなったり、急に来たりする感じ」


「なにそれ。気分屋ってこと?」


「まあ、少しは」


「ひどくない?」


そう言いながら玲はまんざらでもなさそうで、美咲も笑っている。


そのやり取りを見ながら、陸はストローで氷を少し動かした。


この二人の会話は、たまに軽すぎて困る。


深い意味があるようにも見えるし、本当に何もないようにも見える。


その曖昧さが、一番厄介だった。


「じゃあ陸は?」


美咲がこっちを見る。


「好きな動物」


「……犬、かな」


「お、犬か」


玲が嬉しそうに言う。


「仲間じゃん」


「いや、別に仲間意識はないけど」


「何その冷たさ」


陸は少しだけ考えながら続ける。


「でも犬って、わりと一緒にいる人に合わせる感じあるじゃん」


「あるかも」


美咲がうなずく。


「あと、ちゃんと覚えてる感じするし」


「覚えてる?」


玲が首を傾げる。


「嬉しかったこととか、寂しかったこととか」


言ってから、少し言いすぎた気がした。


犬の話をしているだけのはずなのに、自分の中の別のものまで混ざってしまった気がする。


玲はそこまで気にせず、「陸めっちゃ忠犬じゃん」と笑った。


「言い方」


「いやでも合ってるだろ。なんか一回懐いたらずっと変わらなそう」


「それ、犬の説明っていうか人の見方じゃん」


美咲が言う。


「でも、そういうのいいと思うけど」


その一言に、陸は顔を上げた。


美咲はあくまで自然に言っただけみたいな顔で、水を飲んでいる。


でもその“いいと思う”が妙に残る。


「え、美咲そういうタイプ好きなの?」


玲が聞く。


あまりにも軽く、あまりにも普通のトーンだった。


だから余計に、陸の心臓は少しだけ変な音を立てた。


「どういうタイプ?」


美咲が聞き返す。


「忠犬っぽい感じ」


「何その雑なくくり」


「いや、でもあるじゃん。犬っぽい人と猫っぽい人」


美咲は少しだけ笑って、それから首を傾げた。


「……どっちも好きだよ」


玲が「ずる」と言う。


「そこで選ばないの」


「選べないでしょ、普通」


「いや、俺は選べる。犬」


「さっきから一貫してるね」


「だろ?」


そのやり取りで、空気は一応軽く流れた。


でも玲はなぜか、少しだけ引っかかった。


どっちも好き。


その答えは、たしかに正しいし、何もおかしくない。好きな動物の話なら、別にそこで終わるはずだ。


なのに、何となく、それだけじゃない気がした。


猫みたいなやつも、犬みたいなやつも。


そういう話に聞こえてしまったのは、自分が考えすぎているだけなんだろうかと玲は思う。


「じゃあさ」


玲はわざと軽く言う。


「もし飼うならどっち?」


「まだやるの?」


陸が少し笑う。


「大事だろ。好きと一緒に暮らすは別問題だから」


「その言い方すると急に重いな」


美咲が言って、少しだけ考えた。


「……猫かも」


「お、猫なんだ」


「自分の時間ありそうだし」


「それ大事?」


「大事でしょ」


「じゃあ俺は犬だなあ」


玲が言う。


「一緒に出かけたりしたいし」


「玲はそうだろうね」


陸も言う。


「なんかずっと喋ってそうだし」


「失礼だな。ちゃんと相手の気持ちも考えてるわ」


「本当に?」


美咲が笑う。


「考えてるよ」


玲は言い返しながら、ふとその言葉が自分に引っかかった。


相手の気持ち。


ちゃんと考えているつもりだった。でも最近、自分が見えていないことがあるんじゃないかと思う瞬間が少しずつ増えている。


ドライブのときの、あの一瞬の間。


今日の、美咲の答え方。


陸の犬の説明も、妙にまっすぐすぎた。


たぶん全部、どうでもいいことだ。


考えすぎればいくらでも意味がついてしまうような、小さな会話の断片。


それなのに、前なら気にも留めなかったはずのことが、今日は少しだけ残る。


「ていうか、ファミレスで好きな動物の話してる大学三年ってどうなんだろうな」


玲が言うと、美咲が吹き出した。


「今さらすぎるでしょ」


「遅いよ」


陸も笑う。


「もうちょい大人っぽい話とかあるだろ普通」


「たとえば?」


「就活とか?」


「今それ言わないで」


美咲が即座に嫌そうな顔をする。


「日曜にファミレスで一番聞きたくない」


「わかる」


陸もすぐにうなずく。


「現実に戻される」


「じゃあやっぱ動物で正解じゃん」


玲が勝ち誇ったように言う。


「何の勝負なんだよ」


会話はそのまま、動物園に行ったら最初に何を見るかとか、犬派と猫派は性格がどう違うかとか、ハムスターはかわいいけど飼うのが怖いとか、そんな方向へどんどんずれていった。


それは久しぶりに会った三人にとって、ちょうどよかったのかもしれない。


会っていなかった時間を埋めるみたいに、どうでもいい話を重ねる。


その中に少しだけ本音が混ざっても、冗談みたいに流せるから。


料理が届いて、三人は自然と食べ始める。


ファミレスの明るすぎる照明も、少し騒がしい店内も、今は妙に落ち着いた。


「なんかさ」


玲がハンバーグを切りながら言う。


「久しぶりにこういう感じ、いいな」


「どういう感じ?」


美咲が聞く。


「いや、別に大したこと話してないのに普通に楽しい感じ」


「それ、いつもじゃない?」


陸が言う。


「でも、最近ちょっと会えてなかったし」


その言い方が、少しだけ正直だった。


美咲は「まあね」と小さく笑う。


「五月、なんだかんだバタバタしてたし」


「六月はもうちょい会えるといいけどな」


玲が何気なく言う。


その言葉に、美咲も陸もすぐには返事をしなかった。


ほんのわずかな間。


でも玲は、またそれを感じてしまった。


「……まあ、会えるでしょ」


美咲が先に答える。


「たぶん」


陸も続ける。


「予定が合えば」


それも普通の返事だ。


おかしくはない。


でも、“当たり前に会う”という感じではなくなってきているのかもしれない、と玲はふと思う。


三人でいる時間は楽しい。


それは間違いない。


でも楽しいだけで、そのままずっと同じではいられないのかもしれない。


そんなことを、玲は少しだけ考えた。


考えたあとで、自分らしくないなとも思った。


「まあいいや」


玲は結局、自分で空気を戻すように笑う。


「次会うときまでに、好きな動物ランキングちゃんと考えといて」


「まだ続けるの?」


美咲が笑う。


「続けるだろ。これは意外と深いテーマだから」


「どこがだよ」


陸がつっこむ。


玲は笑ったまま、水を飲んだ。


深いテーマ。


冗談みたいに言ったけど、少しだけ本当かもしれない。


好きな動物なんて、ただの雑談だ。


でも、遠回しに自分のことを話してしまうには、ちょうどいい話題でもある。


自由な猫が好きだと言う人も、

離れない犬がいいと言う人も、

どっちも好きだと笑う人もいる。


その全部が、ただの動物の話で終わるなら、それが一番楽だ。


ファミレスの外は、もう夕方に近い色になっていた。


五月の最後の日曜日は、終わりに向かうのが少しだけ早い。


今日も三人は、ちゃんと笑っていた。


でもその笑顔の中にあるものは、少しずつ前とは違ってきている。


まだはっきり言葉にはできないまま、


それでも確実に、何かは動き始めていた。

第7話を読んでいただきありがとうございます。


この回では、「好きな動物」というテーマを通して、それぞれの内面を少しだけ表に出しています。


・玲のまっすぐさと無自覚さ

・美咲の曖昧さと揺れ

・陸の一途さと距離の取り方


直接的な言葉ではなく、例えや会話の中で感情を表現することで、よりリアルな関係性を描いています。


また、久しぶりに会ったことで、これまでとは少し違う空気が生まれています。


それに玲が気づき始めていることも、この先の大きなポイントになります。


次回は、さらに一歩踏み込む回。


誰かが少しだけ本音に近づくことで、関係が動き出します。


引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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