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城下町デート

昨夜の「ゴーレム発言」のせいで、私の精神はボロボロだった。

 王子に「岩のように無機質で、感情を解さないゴーレムのような殿方がタイプですの!」と叫んだ自分を、今すぐこの世から消し去りたい。


 そんな私の前に、翌朝、騎士ギルバート様が現れた。


「……エルゼ。昨夜はダンスを踊り損ねた。埋め合わせに、城下町へ来い。護衛訓練を兼ねた……その、視察だ」


 断れるはずもなく、私は平民のような地味な私服(といっても最高級の麻だが)に着替え、彼と共に賑やかな城下町へと繰り出した。


【システム・ログ】

[現在の状況:ギルバート卿と密着して歩いています。心拍数が上昇中。尊い]

[備考:今日の彼の私服、袖口が少し捲り上げられていて、腕の筋肉が岩石のように硬そうです。まさに理想の……]


「システム、その先は言わないで。本当に」


 街は活気に溢れ、美味しそうな屋台の匂いが漂っていた。

 私は悪役令嬢らしく「民草の食べるものなんて、口が腐りますわ!」と言うべきだったが、焼き立てのチュロスを差し出された瞬間、「……あ、ありがとうございます、半分こしましょうか?」と微笑んでしまった。


「……エルゼ。貴殿はやはり、優しいな」


 ギルバート様が、チュロスを無表情に齧りながら、ふと足を止めた。

 彼の銀色の瞳が、夕陽を反射して鋭く、それでいてどこか不安げに私を見つめる。


「……ところで。殿下から聞いたのだが。貴殿は、その……ゴーレムのような男が好みだというのは、本当か?」


「ぶふぉっ!!」


 私は食べていたチュロスを吹き出しそうになった。

 まさか王子、本当に騎士団で言いふらしたの!?


「あ、あれは、その! 王子のあまりの熱意に気圧されて、つい出た冗談ですわ! 本当に、ただの例え話で……!」


「……冗談、か」


 ギルバート様はわずかに安堵したように息を吐いた。……が、すぐにまた険しい顔に戻る。


「だが、殿下は本気だったぞ。『私はまだ岩のように硬くないし、感情も豊かすぎる。もっと無機質にならなければ、エルゼの隣には立てない』と、朝から滝に打たれに行っていた」


(王子のキャラが崩壊してゆく……)


 私は頭を抱えた。

 すると、ギルバート様が私の肩に、ずしりと重く、しかし温かい手を置いた。


「……私は、岩石ではないが。感情を表に出すのは昔から苦手だ。鎧を纏えば、それなりに硬度もある。……ゴーレムに、負けているだろうか」


「……はい?」


 ギルバート様、あなたまで何を仰っているの。

 無表情な鉄面の奥で、彼が本気で「ゴーレム」をライバル視していることに気づき、私は戦慄した。


【システム:勝手な補足】

[判定:ギルバート卿の『無機質度』と『物理的硬度』は、現時点でゴーレムを凌駕しています。おめでとうございます、あなた様の理想の男性は目の前にいます]


「システム、あなたまでそっち側なのね……っ!」


 私は赤面し、ギルバート様の腕を振りほどこうとした。

 しかし、彼はさらに一歩踏み込み、周囲に聞こえないような低い声で囁いた。


「……エルゼ。貴殿が何を演じようとしていようが、私は構わない。だが、嘘をついてまで自分を偽り、変な怪物ゴーレムの影に隠れるのは……見ていて、あまり気分が良くない」


 その言葉には、いつもの訓練のような厳しさはなかった。

 ただ、一人の女性として私を求めているような、真っ直ぐな熱量。


「私は、貴殿の本当の言葉が聞きたい。……いつか、教えてくれるか」


「……っ」


 返事ができなかった。

 もし、本当のことを言えば……。「私は、あなたのことが大好きな、ただの転生者です」なんて言えば、システムにこの場で消される。


「……わ、わたくし、あっちのアクセサリーショップが見たいですわ! 失礼します!」


 私は再び逃げ出した。

 背後で、ギルバート様が「……やはり、まだ硬さが足りないのか」と独り言をこぼし、露店で売っていた一番重い鉄アレイ(?)を購入しているのが見えて、私は絶望に目を閉じるのだった。

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