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自爆する嫉妬の罠

学園の喧騒は日増しに熱を帯び、私の平穏――もとい「円満な死刑回避国外追放」への道は、攻略対象たちの異常な執着によって日々舗装し直されている。


「……ダメだわ。王子も騎士も魔術師も、もはや通常の会話が通じないレベルで『エルゼ・フィルター』がかかっている。このままでは卒業式で、追放どころか王妃に指名されかねない」

一番恐れてるのは予期せぬ不具合。そんな事になったら、どんな異常事態が襲ってくるか分からない。


 私は自室のソファに深く沈み込み、窓の外を見つめた。

 システムとの「ミッション共同構築権」は手に入れたが、私の放つ「嫌がらせ」がことごとく「愛の試練」として変換されるカオスな現状。この膠着状態を打破するには、外部からの強力な「毒」が必要だ。


「システム。隣国の第三王女、カトリーヌ・ド・ヴァロアについて調べなさい。彼女、確かアルフレッド王子の『元・許嫁』候補で、極度の負けず嫌いだったはずよね?」


【システム・ログ:検索中】

[回答:カトリーヌ王女。美貌と傲慢さを兼ね備えた、別名『隣国の赤い薔薇』。アルフレッド王子への所有欲が非常に強く、自分以外の女性が彼の隣に立つことを許さない性格です]

[備考:……エルゼ様、彼女を呼び寄せるのは、火薬庫に松明を投げ込むようなものですが、よろしいのですか?]


「ええ、大歓迎よ。火薬庫ごと吹き飛ばしてほしいくらいだわ」


 数日後。私の裏工作(隣国の社交界に『王子が新しい婚約者に夢中だ』という挑発的な噂を流すなど)が実を結び、カトリーヌ王女が急遽、学園への「親善訪問」を決定した。


 学園のホール。豪華なドレスを翻し、カトリーヌ王女が歩み寄ってくる。その視線は、王子の隣(実際には三歩後ろにいたのだが)に立つ私を、今すぐ焼き尽くさんばかりに鋭い。


「アルフレッド様、お久しぶりですわ。……そして、あなたが例の。シュタイン公爵家のエルゼとかいう、田舎のジャガイモ令嬢ですの?」


 きた、これよ! この「直球の罵倒」を待っていたのよ!


【自作ミッション:修羅場の形成】

[内容:カトリーヌ王女とアルフレッド王子を接近させ、二人の仲を公に誇示させることで、わたくしへの興味を失わせよ]

[成功報酬:延命5日間]


「……まあ。ジャガイモなんて、最高の褒め言葉ですわ。大地に根を張り、皆様の空腹を満たす質実剛健な食物ですもの。カトリーヌ様のように、トゲばかりで実のない薔薇とは大違いですわね」


 私は扇子で口元を隠し、冷徹に煽りを入れた。

 カトリーヌの眉間に青筋が浮かぶ。いいわ、もっと来なさい。


「なっ……! アルフレッド様、お聞きになりました!? この女、私を侮辱しましたわ! さあ、今すぐ婚約破棄を言い渡して、私を選びなさい!」


 カトリーヌが王子の腕に強引に抱きつく。

 私はここで「あら、お似合いですわ。わたくしのようなジャガイモは身を引きますわね」と、さらりと退場する……はずだった。


「……エルゼ。君は、今、私のために『嫉妬』をしてくれたのか?」


「……は?」


 アルフレッド王子の声が、低く、熱を帯びて響いた。

 彼はカトリーヌの腕を無造作に振りほどくと、驚愕する私をぐいと引き寄せ、その肩を抱いたのだ。


「君はいつも冷静で、私を突き放してばかりいた。それなのに……他国の王女という強敵を前にして、初めて牙を剥いてくれた。私の隣を譲らないために、あえて彼女を煽ったんだろう?」


「……バカなの? 譲るために煽ったんですのよ」


「……っ、殿下! 何を仰るのですか! 私の方が……!」


 カトリーヌが叫ぶが、王子はもはや彼女を視界に入れていない。さらに、背後から不穏な殺気を孕んだギルバート様と、魔導書をパチパチと鳴らすルカ様まで参戦してきた。


「隣国の王女だろうと、エルゼの誇りを傷つける者は排除する。……殿下、その手も離してください。彼女の肩が汚れます」


「……ふむ。カトリーヌ王女、君のマナは乱れすぎだ。醜い嫉妬の感情は解析の邪魔になる。……エルゼ、安心しろ。君という唯一無二の検体を、あんなありふれた薔薇如きに渡すはずがないだろう?」


 三人が三様の理由でカトリーヌを拒絶し、私への「忠誠」を誓い始める。

 カトリーヌは絶望し、わなわなと震え……そして、次の瞬間。


「…………素晴らしいわ」


 カトリーヌの瞳が、なぜか恍惚とした光を宿した。


「え?」


「……エルゼ様。あなた、なんて気高いの……! 王子や騎士たちの執着をこれほどまでに引き受けながら、一切の甘えを見せず、むしろ私という脅威を『ジャガイモ』と一笑に付すその胆力。……私、惚れてしまいましたわ!」


「……はあああ!? ちょっと、キャラ崩壊が過ぎますわよ!」


 カトリーヌは王子の元へ駆け寄るかと思いきや、私の手を取り、跪いてその甲にキスをした。


「アルフレッド様、申し訳ありませんが、あなたの許嫁に戻る話は無しです。私は今日から、エルゼ様の『一番の友人』、いえ、『親友』にならせていただきますわ! この気高さ……これこそが私の求めていた『真の美』です!!」


【システム・ログ:成功判定(?)】

[ミッション完了:修羅場は形成されました。……ただし、カトリーヌ王女があなたのファンクラブに入会したため、全登場人物の好感度が臨界点を超えました]

[備考:王子たちが『ライバルは男だけじゃないのか……』と、かつてない絶望的な表情をしています。尊死不可避]


「システム、これのどこが成功なのよ!!」


 私は、自分にすがりつくカトリーヌと、彼女に殺意を向ける男たち、そしてその狂気を冷静にメモするルカ様を見渡し、深い絶望と共にツッコミを入れた。


「……あなたたち。ここは王宮のホールであって、劇場の舞台ではありませんわ。……カトリーヌ様、ジャガイモは一人が好きなのです。今すぐ隣国へ帰ってください。……アルフレッド様、その手。離さないなら、本当に法的手段として『国際問題』に発展させますわよ」


 私の氷のような言葉に、なぜかカトリーヌは「ああ、もっと罵ってください!」と頬を染め、王子たちは「……厳しいエルゼも素敵だ」と溜息をついた。


「(……もうダメだわ。この国の男も女も、まともな神経をしていない。)」


 私は、カトリーヌの熱烈なアプローチをかわしながら、そっと中庭にいるであろうクロエとレオンに思いを馳せた。

 せめて、あの二人だけは……あの二人だけは、この集団狂気に染まらずに、普通に愛を育んでほしい。


 私の「国外追放」への道は、さらに深い霧の中に包まれていくのだった。

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