貢ぎ物と恋火花、そして消えたヒロイン
翌朝、私の机の上には、仰々しい装飾が施された小箱が置かれていた。
「……何かしら、これは」
送り主はルカ・ヴァレンタイン。添えられた手紙には『昨日の非礼を詫びる。これは精神安定のマナを放出する最高級の魔道具だ。これでどうか法的手段……もとい、抗議文の送付は再考してほしい』と、殴り書きのような必死な筆致で記されていた。
「宮廷魔導師ともあろう方が、公爵家の権力に屈して賄賂を贈ってくるなんて。情けないことこの上ないわね」
私は冷めた目でその魔道具――確かに素晴らしい細工だが、どこか盗聴機能でも隠されていそうな代物――を眺めた。
【システム・ログ】
[判定:ルカの好感度が『恐怖』から『屈服』、そして『執着』へ。……おめでとうございます、彼はもうあなたの飼い犬です]
「飼いたくないわよ、あんな面倒な男。……あ、王子、おはようございます」
登校してきたアルフレッド王子が、私の席の横で足を止めた。彼は昨日とは打って変わって、爽やかな、しかしどこか必死さを孕んだ微笑みを浮かべている。
「エルゼ。昨日の君の凛とした姿、一晩中忘れられなかった。……今週末、私の別邸で採れる最高級の茶葉を嗜まないか? 君のような高潔な女性にこそ、相応しい香りだと思うんだ」
「……お誘いは光栄ですが、わたくし、週末は始末書の添削で忙しいのです。殿下が書かれたあの稚拙な反省文のことですわ」
私がぴしゃりと言い放つと、王子の後ろから、鎧を鳴らしてギルバート様が現れた。
「……殿下、公務の合間にお茶会とは余裕ですな。エルゼ、私は今朝、最高硬度の魔鉄を鍛え直して、君を守るための指輪を作った。……受け取れ。これは装飾品ではなく、物理的な防御壁だ」
「指輪に防御壁を求めるとか、相変わらずセンスが武骨すぎますわ、ギルバート様」
左右から押し寄せる熱烈なアプローチ。
かつては私を蔑んでいたはずの男たちが、今や私の「冷たさ」を「高潔さ」と履き違えて競い合っている。
私はふと、この異様な光景の「外」が気になった。
「(……ねえ、システム。いい加減に教えなさい。ヒロインのクロエちゃんはどうなっているの?)」
本来なら、この三人の誰かと恋に落ち、幸せを掴んでいるはずの彼女。私が「お人よし」を発揮してしまったせいで、彼女のルートは今どうなっているのか。
【システム・ログ:深刻】
[回答:現在、クロエのハッピーエンドルートは『未検出』です。本来のヒーローたちがあなたに夢中になりすぎた結果、彼女は現在、孤独に小鳥と会話する毎日を送り……一部の過激なファン(モブ令嬢)から嫉妬の対象にされ始めています]
「……は?」
視線を外すと、教室の隅で一人、昨夜私が直してあげたドレスの端を握りしめ、寂しそうにこちらを見ているクロエの姿があった。
「…………」
私は、自分にすり寄ってくる三人の男たちを、軽蔑の眼差しで見据えた。
「……あなたたち。自分の婚約者候補を放置して、あんなに心細そうにしている乙女を無視するなんて。騎士道も王道も、魔導の探求も、聞いて呆れますわ」
私の心の中の「悪役令嬢」が、別の意味で怒りに燃え始めた。
この男たちの目を覚まさせ、クロエに最高のハッピーエンドを。それが結果的に私のバッドエンド(国外追放)への近道になるはずだ。
「システム。ミッションを書き換えなさい。……クロエちゃんの幸せをプロデュースしてやるわ。わたくしが『真の悪役』としてね」




