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歪んだ守護と、公爵令嬢の叱責

「……はぁ。いい加減になさい、あなたたち」


 私は、周囲に立ち昇る漆黒の霧――システムが勝手に付与した「悪魔の演出」――を背負ったまま、冷徹な声を放った。

 私の目の前では、この国の枢軸を担うべき三人の男たちが、その立場を忘れて睨み合っている。


「ルカ。宮廷魔導師ともあろう者が、学園内で未確認の術式を前にして、検証手順も踏まずに令嬢を連行しようとするなど……。職権乱用が過ぎるのではないか?」


 アルフレッド王子が、ルカ様に向けて鋭い視線を送る。二人は幼い頃からの学友であり、本来なら信頼関係があるはずだが、今は王子の背後から漏れ出す黄金の魔力が、威圧的にルカ様を抑えつけていた。


「殿下こそ、感情に任せて聖属性のマナを解放するのはお控えください。魔導師として、この特異な事象エルゼを看過しろと言う方が無理な話です。……ギルバート、君もだ。副団長の立場がありながら、その鉄塊で私を威嚇するつもりか?」


 ルカ様が片眼鏡モノクルを直しながら、今度は私の前に立ち塞がるギルバート様を睨む。


「……私の任務は、王族とそれに準ずる者の守護だ。ルカ、貴殿がエルゼに対して不審な動きを見せるなら、たとえ同僚であっても容赦はしない」


 ギルバート様の腕には、魔力を帯びた筋肉が浮き出ている。彼ら三人は、本来なら国を支える「チーム」であるはずなのに、今のその光景は、ただ一人の女を巡る無様な意地の張り合いにしか見えない。


「……お黙りなさい」


 私の氷のような声が、三人の熱を遮った。


「アルフレッド様。婚約者候補を案じてくださるのは結構ですが、王族が理由も分からず魔力を乱用すれば、民に不要な混乱を招きます。ギルバート様も。あなたの剣は、令嬢同士の小競り合いや魔術師の探求心に突きつけるものではないはずよ」


 私は、背後に浮かぶ禍々しい「角の影」を鬱陶しそうに払い退ける仕草をしながら(実際は何も触れないのだが)、ルカ様に向き直った。


「そしてルカ様。……わたくしを『解体』などと、冗談でも口にしないでいただけます? 国家間の儀礼を無視して公爵令嬢を検体扱いするなら、わたくしもシュタイン家の娘として、相応の法的手段を執らせていただきますわ」


 三人が、一様に口を噤む。

 かつて彼らが知っていた「高慢で思慮の浅いエルゼ」とは違う、理知的で隙のない物言いに、毒気を抜かれたようだ。


【システム・ログ】

[判定:完全な沈黙。……さすがエルゼ様、ド正論で脳筋聖騎士と狂科学者を一掃しましたね。悪役というよりは、もはやお母様です]


「……システム。次はあなたの番よ。この趣味の悪いエフェクト、今すぐ消しなさい」


 私が心の中で命じると、漆黒の霧は瞬時に霧散し、同時に王子たちの黄金の輝きも収まった。


「……あ、ああ。すまない、エルゼ。少し、冷静さを欠いていたようだ」


 王子が我に返ったように髪をかき上げる。ギルバート様も無言で鉄アレイを下ろし、ルカ様は不満げに魔導書を閉じた。


「……今日は引き下がろう。だがエルゼ嬢、君の周辺で起きている『現象』については、いずれ正式な手続きを踏んで調査させてもらう」


「ええ、手順さえ守るなら、いくらでもどうぞ。……ただし、次にお会いする時は、その片眼鏡を割られないよう、言動に気をつけることですわね」


 私は優雅に一礼し、荒れ果てた庭園を後にした。

 背後で、かつての学友たちが「……彼女、あんなに怖かったか?」「……いや、格好良かった」と小声で話し合っているのが聞こえたが、私は二度と振り返らなかった。


「……はぁ。バッドエンドを避ける前に、わたくしがこの国の規律を立て直す羽目になりそうだわ」


 私は冷めた目で、次の授業の教室へと向かった。

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