表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

狂気への対抗馬

図書室へ向かう石畳の廊下を歩きながら、私は冷めた頭で思考を巡らせていた。


 このまま王子が「自称・岩石」として学園のオブジェ化するのは、流石に寝覚めが悪い。けれど、私の言葉はもはや彼に届かない。……なら、私以外の「誰か」に動かしてもらうしかない。


「……そうよ。こういう時のためのヒロインじゃない」


 物語の主人公。彼女の純真な涙や、真っ直ぐな言葉こそが、狂った男たちの目を覚ます唯一の手段……クッキーの件で少しあれだけど、毒には毒よ。

 私は足を止め、システムのパネルを虚無の目で見つめた。


「システム。クロエちゃんの居場所を。……あと、ギルバート様の筋肉量に関する余計な注釈は省きなさい」


【システム・ログ】

[承知しました。ヒロインは現在、中庭で小鳥と会話(物理)しています]

[備考:ギルバート卿は、担いでいた岩が重すぎて廊下を沈没させたため、現在修復作業に従事しています。……尊い]


「……あの騎士も、一度精神鑑定を受けた方がいいわね」


 私は中庭へと急いだ。

 そこには、私の予想通り、花の妖精か何かのように小鳥と戯れるクロエの姿があった。


「クロエ・フォン・ルミナス。ちょっといいかしら」


「あ、エルゼ様! ごきげんよう! 今日もお美しい――」


「お世辞はいいわ。……今すぐ、廊下の真ん中で置物になっているアルフレッド王子を、元の『人間の男』に戻してきなさい」


 私は単刀直入に命じた。

 クロエは一瞬きょとんとしたが、私が「王子が滝に打たれて自分を岩だと思い込んでいる」という、説明しているだけでIQが下がりそうな現状を伝えると、彼女は悲しげに瞳を潤ませた。


「そんな……。殿下が、そんなに深く悩んでいらしたなんて! 私、行ってきます! 殿下の心に、私の祈りを届けに!」


「ええ、祈りでもパンチでも好きなものを届けてきなさい。……頼んだわよ」


 クロエが弾かれたように走り去る。

 よし、これで解決だわ。ヒロインの愛の力で、王子は正気を取り戻し、私はまた平和な「地味な悪役」に戻れる。


 ……はずだった。


「……何よ、その沈黙。システム」


【システム・ログ:緊急予測】

[警告:高確率で逆効果の予感。クロエの純粋すぎる言葉は、現在『無』になろうとしている王子にとって、高濃度の栄養剤(=さらなる暴走)になる可能性があります]


「……は?」


[予測台詞:『殿下! 岩になっても私はお慕いしています!』→ 王子:『そうか。ならば私は、彼女を守る強固な岩壁ゴーレムとして一生を全うしよう』]


「……待て。それ、さらに状況が悪化するだけじゃない」


 私の脳内に、石化したまま「愛」という名の苔を纏った王子の姿が浮かんだ。

 しかも、その横でギルバートが「……ならば私は、その岩を支える地盤になろう」とか言い出す未来まで見える。


「……やだ。そんな不気味な学園生活、耐えられないわ!」


 私は再び、走り出した。

 一度は切り捨てたはずの、あの「石」の元へ。

 冷静なツッコミ役として。あるいは、この地獄のような展開に終止符を打つ唯一の「常識人」として。


「どきなさい! 迷走するバカどもを止めるのは、結局わたくしの役割なんですの!?」


 私の高笑いは、もはや「悪」というよりは、崩壊しそうな学園の治安を守る「風紀委員」の悲鳴に近かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ