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ギャルナースで、あげ〜⤴︎︎⤴︎︎  作者: 櫻木サヱ
新人研修と業務の壁

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13/15

先輩との壁を乗り越える

朝七時。


結衣は病院の更衣室で髪をまとめながら鏡を見た。


「よしっ。今日もあげ〜⤴︎⤴︎でいきますか♡」


新人の頃ほど周囲からジロジロ見られることは減った。


それでも病院内で結衣は相変わらず目立つ。


明るい茶髪。


ぱっちりした目元。


元気すぎる笑顔。


患者からは人気だが、真面目な職員の中にはまだ苦手意識を持つ人もいる。


そして何より。


結衣が一番認められたい相手。


高木明日香。


その人だけは、今もどこか距離があった。


「おはようございます」


高木が出勤してくる。


「おはようございまーす♡」


「今日は受け持ち六人。情報収集は済んでる?」


「もちろんです♡」


高木は頷くだけだった。


褒めもしない。


けなもしない。


結衣は少しだけ唇を尖らせる。


(もうちょい褒めてくれてもよくない?)


そんなことを思いながら病棟へ向かった。


午前中。


結衣は担当患者を回っていた。


高齢男性の山本さん。


術後三日目。


順調に回復しているはずだった。


「山本さん、おはよ〜♡」


「おう」


返事はある。


だが少し元気がない。


結衣は体温を測る。


血圧を測る。


数値はギリギリ正常。


だけど何か違和感があった。


顔色。


呼吸。


受け答え。


全部が少しだけおかしい。


(んー……気のせいかな?)


カルテを見る。


数字だけなら問題ない。


新人の頃ならそのまま通り過ぎていたかもしれない。


だが今の結衣は違った。


患者を見てきた。


たくさん話してきた。


だからわかる。


この違和感は無視しちゃいけない。


しかし。


報告するほどなのか。


もし間違っていたら。


また「騒ぎすぎ」と思われるかもしれない。


結衣は数秒迷った。


その時。


山本さんの顔がわずかに歪んだ。


「……苦しい?」


小さな声。


結衣の背筋が凍った。


「山本さん!?」


すぐにナースステーションへ走る。


「高木先輩!」


「どうしたの?」


「山本さんです!なんか変なんです!」


「変?」


「説明できないけど変なんです!」


高木は一瞬だけ眉をひそめた。


だがすぐ立ち上がる。


「行くわよ」


二人で病室へ向かった。


診察。


再測定。


観察。


結果。


術後合併症の初期症状だった。


発見が少し遅れていたら危険だったかもしれない。


医師が処置を行う。


患者は安定した。


病室の外。


結衣は壁にもたれた。


心臓がバクバクしている。


「よかった……」


その時だった。


高木が静かに言う。


「結衣さん」


「はい」


「よく報告したわね」


結衣は目をぱちぱちさせた。


「え?」


「正直、最初は気のせいかと思った」


「ですよね」


「でもあなたは患者を見ていた」


結衣は黙った。


高木が続ける。


「数字だけじゃなくて患者本人を見ていた」


その言葉は。


結衣がずっと欲しかった言葉だった。


「結衣さん」


「はい」


「あなた、いい看護師になるわ」


結衣は固まった。


数秒。


完全に停止した。


そして。


「え」


さらに数秒。


「ええええええええ!?」


病棟中に響きそうな声だった。


高木が呆れる。


「うるさい」


「だって先輩が褒めた!」


「褒めたわよ」


「明日雪降る!?」


「失礼ね」


結衣は思わず笑った。


高木も少しだけ笑う。


初めて見た。


先輩の自然な笑顔だった。


昼休み。


結衣は休憩室で大騒ぎしていた。


「聞いて!?」


杏奈がびっくりする。


「どうしたんですか!?」


「高木先輩に褒められた!!」


「ええ!?」


佐藤がコーヒーを吹きそうになる。


「マジか」


「マジ!!」


「幻覚じゃなくて?」


「失礼すぎるんだけど!?」


みんなが笑った。


病棟の空気もどこか柔らかい。


夕方。


業務が落ち着き始める。


結衣は窓の外を見ていた。


病院の向こうに夕日が沈んでいく。


「患者を見る、かぁ……」


高木の言葉を思い出す。


派手だから。


ギャルだから。


何度も偏見を受けた。


でも。


患者はそんなこと気にしていなかった。


必要なのは見た目じゃない。


寄り添うこと。


気づくこと。


守ること。


それが看護師なんだ。


「ふふ」


自然と笑顔になる。


そこへ高木が来た。


「何笑ってるの?」


「いやー」


結衣は振り返る。


そしていつもの笑顔を見せた。


「ギャルナース、まだまだ成長できそうだなーって♡」


高木は小さく笑う。


「そうね」


その瞬間。


結衣の中で何かが変わった。


新人としての不安。


認められたい焦り。


その一部が消えていた。


病棟には仲間がいる。


信頼できる先輩がいる。


そして自分を待っている患者がいる。


結衣は拳を握った。


「よーし!」


「何?」


「ギャルナース、もっと最強になります♡」


高木は呆れながらも笑った。


こうして結衣は、先輩との見えない壁を乗り越えた。


それは看護師としての大きな一歩。


そして病棟の仲間として認められた証でもあった。

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