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第31話 振り返る

 難攻不落の、南光くん――。


 それは、入学早々クラスの女子達が色めきだっていることで知った存在。

 最初は正直意味が分からなかったけど、難攻不落って言葉がちょっと面白いなって思っていたぐらい。


 だって普通に生きているだけで、そんな風に呼ばれることなんてまず起き得ないと思うから。

 まるで創作の世界の王子様のような、特別な存在でもいるのだろうか?

 なんて私は、ただ俯瞰的にその状況を楽しんでた。


 入学当初は、彼の噂話を耳にしない日はなかった。

 ・女子達のカッコイイ人ランキングで、唯一の殿堂入りしている。

 ・中学時代、学年の半分の女子を恋に落とした。

 ・告白の行列ができたことがある。

 などなど。


 中にはオーバーに言われていることも含まれているとは思うけれど、そんな人が同じ学年にいるだけで凄いと思った。

 まるで一般人とは違う、それこそ芸能人とかと遜色がないレベルではないかと思っていたら、どうやら本当にそっちの道の活動もしている人らしい。

 そんな知れば知る程予想の斜め上を行く存在に、私も次第に興味を引かれていった。


 そして数日後、私はついにその特別な存在を実際に目にすることとなる。

 今でも忘れない、あれは移動教室で廊下を歩いている時のこと。

 まだ入学して間もないこともあり、他のクラスのことが気になって何となく中の様子を窺いながら歩いていると、私はある人物に目を止めた。


 スラリと足の長い、テレビや雑誌で見るような完璧なモデル体型。

 鼻筋の通った、どこか作り物のようにすら思える整った顔立ち。

 お友達と楽しそうに雑談をしているその笑みには、カッコよさの中にもどこかあどけなさも感じられる。


 そんな、本当に創作の世界から飛び出してきた王子様のような人物が、同じ学校の制服を着て存在しているのである。

 誰に答え合わせをされなくても、私はすぐにあれが噂の南光くんなのだと悟った。


 あれはたしかに、私達一般人とは別の世界の存在に思えた。

 同じ学年ならば、今後交わることだってあるのかもしれない。

 けれど、それが現実とならない限りイメージすら湧いてこない。

 それぐらい、周囲とは浮世離れした存在だった。


 それでも私は、そんな凄い人が同じ高校にいるのだと思うだけでワクワクした。

 これから始まる高校生活において、何か普通とは違う特別を近くで見ることができるのだ。

 きっとこれからも、色んな噂を耳にすることがあるのだろうと、私は一歩離れた場所からその特別を楽しみたいと思うようになった。


 けれど、普段鈍感な私でも気付いてしまう。

 どうやら学校のみんなは、私と南光くんが近づくことに期待をしているということに――。


 私なんかじゃとても釣り合いなんて取れないのに、一体何を期待されているのかは分からない。

 でもきっと、私が南光くんの起こす特別を楽しみにしているのと同じ。

 たまたまそれの相手として、自分が選ばれているだけなのだろう。

 そう考えたら、期待する人に何か言える立場ではない気がするし、だからと言って応じるつもりもなかった。

 そもそも何をしたら良いのか分からないし、南光くんの迷惑にもなりたくないから。


 そして私は、二年生になった。

 また新たな教室と、新しいクラスメイト。

 最初教室へ入る時は、すごくドキドキしていたことを思い出す。


 新たな教室へ足を踏み入れると、周囲の姿勢が一斉にこちらへ向けられる。


 普段から、主に男子達から見られていることは分かっている。

 でもこれは、いつもの感じとは違った。

 まるでみんな、私の登場を待っていたかのような――。


 元々の緊張に合わせて、周囲から向けられる謎の期待の籠った視線。

 結果私は、内心ではもうぐちゃぐちゃになってしまい、軽いパニック状態になっていた。

 ひとまず周囲に悟られないように、自分の席に座って心を落ち着けることにしよう。


 そう思い黒板に張り出された座席表を確認し、いざ自分の席の前に立ったその時、私は気付いてしまう――。


 今日から隣の席が、あの南光くんになるということに――。


 ……そのあとの記憶は、正直ない。

 でも絶対に、変なテンションのまま訳の分からない反応をしてしまったことだけは何となく覚えている……。


 でも仕方がないじゃない、いきなりこの学校で一番の有名人が目の前で座ってたんだもの……。


 それから私は、南光くんに謝罪をするとともに自己紹介をした。

 それも今にして思えば、絶対に変なテンションだったと思う。


 でも、これも仕方ないことなんだ。

 だって前を向けば、あの南光くんが目の前にいるんだもの……。

 中学生の頃、偶然街で人気俳優の人にあった事があるけど、あの時の感覚に似ているかもしれない。


 近くで見れば見るほど、これまで会ったどんな人よりも眩しい男の子。

 それは私の学校生活において、一番大きな変化だった。


 絶対に交わることのないと思っていた相手と、隣の席になってしまったのだ。

 でも意外と南光くんは良い人で、何ていうか凄く接しやすい人だった。

 その容姿だけでなく、こういうところも彼が男女問わず人気のある所以なんだろうなと納得もできた。


 それから遠足などを通じて、私は南光くんとどんどん仲を深めていくことができた。

 まさかのバイト先でも会ってしまったのは本当に驚いたけれど、あの時も正直に言えば嬉しかった。


 だからこそ、私は思うんだ。

 この隣の席同士であれる今こそ、もっともっと南光くんのことを知れるチャンスなんだって――。


 

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