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ピュグマリオン(ME)

俺はあいつが人間でいる事に物凄く嫌悪感を覚える。あいつは人間でいるべきじゃないんだ。



第一章 「美苑 華楓」



私は美苑 華楓。勉強は正直下の上、生まれつき何かを持って居る訳でもなく、運動も人並み外れてできるほどでもない。人付き合いが苦手なのか、どうも友達もできない。



ある日の下校時。


華楓「あ、雨だ…。どうしよう……。」


???「ん、ちょっと待って」


だけどそんな私にも友達が居る。江崎直人、中学からの友達で、家も近い。成績もかなり優秀、正直なんで私なんかとつるんでるのか分からない。


直人「はい、折り畳み傘。バックの底にあった。」


華楓「ありがとう!…それにしても江崎君のバックってなんでも入ってるよね〜この前なんてさ〜…」


直人「苗字で呼ぶならオオキって呼べって言ってんだろ!」


華楓「あぁそうだった…ごめんごめん。」


直人には少し変わった所がある。例えば苗字で呼ばれる時「オオキ」で呼ばせることに拘っている、この拘りは中学の頃からずっと変わらない。そして毎度毎度間違える私も中学の頃からずっと変わらない。



いつもの帰り道。


華楓「ね〜ごめんってばぁ」


直人「……。」


間違える度に直人は拗ねる。正直面倒臭いなと思うところはあるけど唯一の友達だし、なんだかんだ最後は許してくれる。感謝の意も込めて私はいつも謝る。


直人「……ん。」


直人は突然私の頭を撫でる。撫でた後は許してくれるし、多分直人なりのコミュニケーションなんだと思う。ぶっちゃけ私自身も直人に撫でられるのは嫌いじゃない。


直人「また明日な。」


華楓「うん!また明日!」


直人は優しいな、私は何度も何度も言われた事を忘れては人に迷惑をかけてしまう。許してくれる直人が居なかったら今頃不登校だったかもしれない。


でもやっぱり直人も溜め込んでるかも、そう思うと少し明日会うのが怖くなる。



次の日。


華楓「おはよ!」


直人「ん、おはよう。」


華楓「今日体育あるんだよ〜?お互いに辛い時間だよね〜。ほんとやめて欲しい。」


直人「華楓。」


華楓「何?」


直人「昨日言わなかった俺にも非があるけど、折り畳み傘返して。」


華楓「あ!ごめんごめん、また忘れてた。ちょっと待ってね……はいこれ!」


直人「うん、ありがと。」


直人はまた撫でてくれた、「許してくれたんだ」と実感できるし、嬉しい気分になれる。体育も何となく頑張れそうな気がする。



体育の時間


教師「今日はまず慣らしで走ってから、昨日決めたグループで各自ハードル走と走り幅跳びの記録取ってください。」


華楓「ハードル走と走り幅跳び……どっちか1つずつにして欲しいよぉ…。」


生徒「わかる〜美苑さん、美苑さん体育の時間いつもダルそうなのが顔に出てるけど今回は最早顔自体がダルいw」


華楓「なにそれ〜wあ、私次か…頑張ろ。」



記録後。


生徒「…あれ?」


教師「ん?お、なんか美苑今日調子良いじゃん。」


華楓「そ、そうなんで……すか?」


教師「お前いつも評価Cだけど今回はギリBだぞ。」


華楓「え!ほんと!?やったぁ!…って、うぅ。」


教師「おい!美苑!大丈夫か!ちょ、誰かもう1人保健室まで運ぶの手伝ってくれ!」


普段運動不足の華楓は何処から湧いてきたか分からない体力を使い記録を無理やり伸ばしたが、反動でかなり疲労していた。そんな時また急に体を動かした為、そのまま倒れてしまった。


幸い軽い熱中症で済んだ。


華楓「あ〜しんどい。」


直人「急になんでそんなに無茶をしたんだよ。」


華楓「なんか、頑張ろって思ったから……。」


直人「それで?結果こうなるってちゃんと学んだか?」


華楓「うん……。」


直人「……そうか、偉いな。」


直人はまた華楓の頭を撫でた。


直人「あ、そろそろ授業か、また次の休み時間様子見に来るから体調良くなっとけよ。」


華楓「うん。」


直人の背中が見えなくなった後、華楓は直人に撫でられた場所を触り、ニコニコしながら「治さないと」と思った。


あれから1時間。体調はすっかり良くなり、その後授業も参加しいつもの帰り道を歩いた。


華楓「ただいま〜。」


父「あれぇ?ここじゃないのか?」


母「だから変なところにおかないでって言ったじゃない。」


家に帰ると両親が慌てていた。


華楓「どうしたの?」


母「あら華楓帰ったの?ごめんなさいねちょっとお父さんの運転免許証一緒に探してちょうだい?この人ったらすぐ変なところに置いて忘れるんだから。」


華楓「えぇ…。」


父「いやぁほんとすまん。」


3人は暫く家中をまわる。


華楓「…ん?あ、あった!これかも!」


父「あぁそれだそれ、ありがとうな華楓。」


華楓「いいよいいよ…って、お父さん免許証の名前まだ旧姓なんだ。大きい城で…これなんて読むの?」


父「あぁそれな、それは「オオキ」って読むんだよ。」


華楓「へ〜……お父さんの旧姓ってそう読むんだ……。」



第二章「直人」



先生「じゃあ次は大城君。作文を発表してね。」


直人「はい!僕は大城 直人です。僕は僕の家族が大好きです。家族はお父さん、お母さんと僕の3人です。皆はお父さんとお母さんどっちの方が好きかよく話しますが、僕はお父さんが好きです。お母さんはすごいお仕事をしていて、あまり家に帰ってきません。だからお父さんがいつも一緒に遊んでくれます。」


直人「僕はお父さんとお休みの日に川で一緒に釣りをしています。お父さんはあまり釣れませんが、僕が釣るとお父さんは「良かったな直人」と言って撫でてくれます。僕は6cmの魚を釣ったことがあります。これで僕の作文を終わります!」


先生「はい、素敵なお父さんですね。」


直人「はい!」



その日の夜、家にて。


直人「今日ね!作文発表したんだよ!」


父「そうかぁ良くできたか?」


直人「うん!できたよ!」


父「よし、偉いな!」


お父さんは僕が何か偉いことをする度に撫でてくれる。何か良い事をできたと実感できる。


母「ただいまぁ。」


父「お、今日は早いな、聞いてくれよ直人がよ…。」


母「ごめんちょっと後輩がミスしたっぽくて、話は後で聞くわ。」


父「あぁそうか…。」


お母さんはお仕事が忙しい。いつも僕が寝た後に帰ってきて、僕が起きる前にお仕事に行っているらしい。だからお父さんが家のことをしている。でもお父さんもお仕事があるからお母さんも少しお父さんを手伝ってあげて欲しいと思う。


父「……。」


直人「お父さん?」


父「……。」


次の日僕は風邪を引いた。結構酷い風邪だった。お父さんも風邪がうつって入院しちゃったらしい。


僕は寂しかったけど、お母さんが優しく看病してくれたから少し安心した。


僕が風邪から治ったのは3日後だった。でもお父さんはずっと入院していた。お見舞いに行きたいと言ってもお母さんが行かせてくれなかった。


お父さんに会いたい。そう思いながら過ごした日々は辛かった。また撫でられたい。また褒められたい。お父さんの声を聞きたい。


そう思っているある日


母「直人ー?」


直人「なに?」


母「お父さん帰ってくるよー」


直人「ほんと!やったぁ!!」


お父さん退院できたんだ。喜びながら玄関でお父さんを待っていた。するとドアが開いた。


直人「お父さ…ん……」


父「直人ー!」


母「あなた良かったわね〜」


目の前に映る男を母は「あなた」と呼んだ。そして男は僕を息子のように名前を呼んだ。しかし目の前の男はお父さんでは無かった。


でも日常は変わらなかった。強いて言うならお母さんの帰りが早くなった。忙しくなくなったのかもしれない。


僕が何度も「お父さんじゃない」と言ってもお母さんは「そんなわけないでしょ」と言い、男は笑いながら僕の頭を撫でる。


違う、こんな感触じゃない。この人は僕の父じゃない。そう思いながら過ごす日々はとても辛かった。


あの男は俺を釣りに誘わない、大前提に釣りに行かない。川の存在も知らない。


あの男は俺を褒めない、大前提に関心がない。俺の好きな事すら知らない。


あの男は俺を撫でない。大前提に撫でられたところで嬉しくない。俺が撫でられることが好きだった事も知らないだろう。


俺はあの男の名前を知った、江崎 剛。違う、父は江崎 雅人だ、これが男が父ではない証明になる。なら父は何処へ行ったのか……。


その時、ある出来事を思い出す。古い古い記憶、幼児期健忘という言葉があるが、恐らくそれで忘れていた、父の実家。確か場所は……


思い出そうと必死にもがく、分からないままでは俺は一生愛されなくなるだろう。あの男も母も俺を愛していない。父に会いたい。また父に愛されたい。


頭が痛くなってくるが、ギリギリの所で思い出す。場所は遠いが、行けないという程では無い。俺は一抹の希望をかけて走り出した。


長い時間がかかっただろう。ただ「父に会いたい」一心で動き続けたからか、周りが見えなかった。徐々に見覚えが無いことがない場所に近付く。


その時目に入り込んだ男性。


直人「父さ……。」


その横には知らない女とその娘と思われる人間がいた。


直人(え、なんで?父さん?)


直人は立ち尽くすしかできなかった。父は俺と居たあの時よりも楽しそうで、あの2人も笑っている。


直人(なんで?愛してくれてるんじゃなかったの?あの日々はなんだったの?俺は…何のために今生きているの?)


直人は何も出来ず、下を向きながら来た道を帰ることしかできなかった。少し帰りが遅かった直人を家にいる2人は心配していなかった。



第三章「ガラテア」



直人(なんで?なんでなんでなんで!なんでだよ!あんなに愛してくれたのに!なんで愛されないんだ!俺は何も変わってないのになんで俺は愛されないんだ!……。)


直人は恨んだ。


直人(人間はもう信用出来ない…。)


直人がそう思った数ヶ月後、ある女と出会う。


美苑華楓、彼女もまた少し普通の人間とは違っていた。彼女自身無意識に自分を卑下しており、偶然の孤独と直人のアタックが相まって華楓は直人以外が見えなくなっていった。今の彼女の価値基準は「どれだけ直人に褒められるか」のみである。




俺は直人、美苑 直人だ。俺には妻が居る、美苑 華楓。彼女は俺がして欲しい事全てしてくれる素晴らしい女性だ。きっと俺はもう裏切られる感覚を味わう事が無いだろう。


華楓「な〜おと〜。」


直人「何?」


華楓「今日も一日頑張ったよ?」


直人「そうだね、偉いな」


華楓「…嬉しいな……あ、そういえば来週末に飲み会があるんだけど行っていい?」


直人「え、行くの?」


華楓「え…、……じゃあ行かないことにしとく。」


直人「いい子だ。」


華楓「えへへ〜。」


華楓は直人の思い通りに動く。しかし、華楓はあくまで「一人の人間として肯定されたい」ため、人間でいようとしている。その事実に直人は苦しみ続けている。これ以上求めても意味がないと言うのにも関わらず。


直人(人間は俺を裏切り、傷付ける危なくて最低最悪な生き物だ、だから華楓はまだ俺を裏切る可能性がある。


俺はあいつが人間でいる事に物凄く嫌悪感を覚える。あいつは人間でいるべきじゃないんだ。)

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