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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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97/98

#97 ヒトから離れた先

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。


本作は9月14日を持って、#1の公開からちょうど1年半を迎えます。

勝手に祝し一人で記念して、9月11日から15日までの期間に連日更新を行います。

お付き合いいただけますと幸いです。


noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。


初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。


https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562


以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

人に聞かれぬよう風の魔術に覆われ、レピに対して"スウォルについて"の秘密を明かすリリニシア。

同じ頃リエネは洞窟内で、再び現れたクレンが告げた言葉を思い出す。


"どんどん、人間から離れて行ってる"。

「…ワタクシ、そんな気がしてなりません」


 レピが魔術で作り出した音を遮断する風の膜の内側で、リリニシアは重々しく、ゆっくりと口を開く。


人間(ヒト)から…?」


 冗談を言っているようには見えない。

 嫌な汗が噴き出すのを感じながら、レピは尋ねた。


「あの高さの崖から落ちて、どうやって助かったのか…。スウォルは"二人とも覚えてない"って言ってたでしょう?──ワタクシは覚えているんです」

「では…スウォルくんに嘘を?」


 レピの率直な質問を受け歪んだリリニシアの表情は、心痛をありありと浮かび上がらせる。


「とは言っても、覚えているのは"音"と…地に着いた後の姿だけ。落ちている間は、怖くて目を開けていられませんでしたから」

「…音と、姿」


 噴き出した汗が頬を伝うも、レピは構わず続けた。


「はい…。声にならない悲鳴のような叫びと…クレン様の個質魔術の様な、肉体(からだ)が形を変える時の嫌な音。見たんでしたわよね?」


 忘れたい記憶を掘り起こして、リリニシアは尋ねる。


「えぇ。骨が軋み、肉が引き伸ばされるような…こう言っては申し訳がないですが、耳を塞ぎたくなる、おぞましい"音"でした」


 レピが答えると、リリニシアは顔を歪ませながら頷いた。


「正直、同感です。そして──すぐに元のスウォルに戻ったのですが、あの姿…決して人間(ヒト)のモノではなかった…!」

「…」


 とうとう堪えきれず、涙を溢したリリニシアに、レピは何も言えなかった。

 リリニシアは再び、嗚咽と共に口を開く。


「盾のせいです」

「盾…ルベスの?」

「思い出したくないのに、頭から離れないんです。盾がスウォルの左腕と一体化した…いえ、盾がスウォルを取り込んだような…」

「リリニシア様…」


 涙を溢しながら、それでも言われた通りにレピの背後に注意を払い続け、リリニシアは語る。


「スウォル自身、"盾に飲み込まれる夢を見た"と言っていました。絶対に無関係ではありません」

「…人間(ヒト)でないのなら、スウォルくんは──」


 そう尋ねるレピの脳では、先ほどガガーニムから聞かされたばかりの話が反響していた。

 "杞憂であってくれ"というレピの願いを、リリニシアの発した言葉が打ち砕く。


「──魔物」

「!!」


 その瞬間、目の前の"スウォルの異変"とガガーニムから聞かされた"ヒトを素体にした人造魔物"の話が噛み合った。


「バカな…!」

「…レピさんもおかしいと思っていたでしょう?スウォルの体…傷付いてもすぐに治癒──いえ、()()していくんですもの」


 これまで幾度か目にしてきた"人間には有り得ない異変"を、リリニシアはあえて、自分たちがこれまで魔物に対して使ってきた単語と共に突きつける。


「それ、は…」

「ワタクシは何度か言った覚えがあります。"まるで魔物"って…」

「…」


 自らの過去の発言を悔い、リリニシアは自嘲するが、レピはとても笑う気になれなかった。


「ねぇ、レピさん…?なんなんですの、あの盾」


 問い掛けながらも答えを待たず、リリニシアは畳み掛ける。


「盾だけじゃない、シェリルの剣も…。"勇者の武具だからそういうモノ"と深く考えることもしませんでしたけれど、シェリルとスウォル以外は弾き飛ばされて触れもしないっておかしいじゃありませんの…!」

「…」

「それに魔術を増幅させたり、魔力核を潰せたり…!なんなんですのよ、アレは!?シェリルとスウォルは何を背負わされてるんですの!?」

「…申し訳ありません。分かりません」


 悲痛な叫びと共に訴えられるリリニシアの疑問に、レピは力無く、首を横に振ることしか出来なかった。


「…こちらこそ、申し訳ありません。レピさんを怒鳴っても何もならないのは、分かっているのに…」

「いえ…お気になさらないでください。それだけの秘密をスウォルくんにも、他の誰にも告げず一人で抱えて来られたのでしょう?──リリニシア様のお強さ、お優しさに、心からの敬意を表します」

「レピさん…」


 罪悪感も合わさり、とうとう耐えきれずに目を伏せたリリニシアに、レピは無理矢理に微笑みと穏やかな声色を作り、言い聞かせる。


「これからは僕も背負います。一人で抱える必要はありません。…それに、スウォルくんはスウォルくん。しばらくぶりに会いましたが、僕はなんの違和感も抱きませんでしたよ」

「…はい」

「さぁ、気分を落ち着けて。そんな表情(かお)では、リエネさんに怪しまれてしまいますよ」

「そう、ですわね…。──ふぅ…」


 リリニシアはグシグシと腕で目元を拭い、深く息を吐いた。


「スウォルくんのことは、僕も注視しておきます。敢えて"症状"と言いますが、進行を食い止めたり、人間(こちら)側に引き戻したり出来るかも知れませんし…もしかしたらご期待通り、リリニシア様の思い過ごしという可能性も、ゼロではありませんから」


 内心、"無に等しいだろう"と考えながらも、レピはリリニシアの希望を折らず、未来(さき)に繋げるよう努める。


「…ありがとうございます」


 当のリリニシアも、その"可能性"に期待できないことは承知の上で、レピの言葉にすがった。


「──ワタクシはもう結構です。レピさんからもお話があるんでしたわよね?」

「…僕が伺いたかった事は、既に聞けました。魔術を解きます」


 やはり先程と同様、遮断されていた周囲の音が、途端に二人の鼓膜に流れ込む。


「そうですの?…ふふ」

「どうされました?」


 突如、リリニシアが小さく笑みを見せた。


「いえ…考えてみたら涙そのものは見せなくても、泣いていたことは顔で分かるんじゃないかと思いまして。"レピさんに泣かされました"ってリエネさんに泣き付いたらどうなるかしら、と」

「絶対やめてくださいね?」

「うふふ…」


 慌てて止めるレピに、リリニシアはニヤリと、意味ありげな笑顔で答える。


「お時間いただき、ありがとうございました。ここまでの道中でお疲れでしょう?代わって差し上げましょうか?見張り」

「お心遣い、ありがとうございます。ですがスウォルくんのことに関しても少々、考えを整理したいので…是非、このままお任せください」

「…そうですの。分かりました、ではワタクシは休ませていただきます。おやすみなさい、レピさん」

「えぇ、おやすみなさい」


 リリニシアは敢えて、レピが"スウォルに関して()"と語ったことを追求することはせず、お辞儀をすると踵を返し、洞窟の中へと戻っていった。


「…ふぅ」


 再び一人残されたレピは、大きく息を吐き、ぎゅっと目をつぶって考える。



おそらく…リリニシア様の懸念は当たっている。

シェリルさんは──特徴から見て人造魔物であろう巨大生物との戦いで、"魔物が接近した時の剣の反応"が"極僅かな間だけ発生する現象"が二回現れた、と言っていた。


一度目は僕とシェリルさんが三人と離れ、薙ぎ払う尾を風の魔術で跳躍し、躱した後。

二度目は崖が崩れた後…。

この二度目が、スウォルくんの異変──"魔物"に反応した、と仮定したら。


一度目、僕たちと離れていたスウォルくんは、振り回される首の質量を凌ぐため、イチかバチかで無茶をしたと言っていた。

息も絶え絶えで…。

その時から、見た目の変化は現れていなくとも、剣はスウォルくんを"魔物"だと認識していたのか…?


だが再会してからは剣の反応はない…。

少なくとも剣が彼を"魔物"だと認識する変化のは一時的…。


本当は、離れている間のシェリルさんのことを、リリニシア様にも共有するつもりでいた。

特に、あの人によく似た"何か"との戦いで彼女の身に起きたこと、それで心がへし折られてしまったこと。

そして彼女自身は、そのことを覚えていないようであることを。


だが──今のリリニシア様の精神に、これ以上の負荷をかけるのは怖い。

最後には気丈に、冗談も口にしていたが…相当に追い詰められているはず。

…話せない。



 続けてレピは、リリニシアより前…ガガーニムから得た情報の検討を始めた。



ダオジア卿が生きているなら…何故、姿を見せない?

本当に人造魔物の素体として使われたとでも言うのか。

人が、魔物に…。

──スウォルくんと…同じ…?



 思い至った瞬間、レピは目を見開いた。



バカな…!

仮に…ダヲジア卿が本当に、誰かの個質魔術か"禁じられた魔法"で人造魔物の素体にされていたとしても…リリニシア様の言うの"異変"は、二人が崖崩れに巻き込まれた時に発生したもの。

僕たちと分断された瞬間、と言っていい。


それ以前に奇妙な点はなかった…!

…人為的と思われる人造魔物とは別で、やはりリリニシア様の言うように盾の影響を受け、自然発生的に…?


なら…造魔物の製造者の目的が、もし本当に"生物を魔物に変える"ことだとしたら…確実に興味を示す…!


ボロガブザリについては確証がないが、巨大生物と人に似た"何か"…。

これらに関しては確実に、シェリルさんの剣は"魔物接近時の反応"を見せていない。


つまり変化したスウォルくんより、魔物として()()()…!

人の手に依らず、より完全な魔物に近付いたスウォルくんは…絶好の研究対象!


いや、だが…変化は一時的なもの。

スウォルくんを危機に近付けなければ、ルベスの剣でも判別は不可能…。



 そう考えたレピだったが、すぐに反論が、自らの脳から呈された。



…ニオイ。

メジャルカ卿の言う"変なニオイ"。

ジスタム卿に言われたという"人から感じたことのないニオイ"。

僕には読み取れないそのニオイが…もし、魔物化に由来するとしたら?



 レピの心拍が跳ね上がる。



人造魔物を製造した容疑が掛かっているのは、残る三人の元老院。

ジスタム卿と同格以上の彼らは皆…そのニオイを読み取れる…!!


だとしたら…ジスタム卿の()()は、スウォルくんを容疑者の前に差し出すことになる…!


…それが狙いか?

ジスタム卿は…スウォルくんが魔物になりつつあることを理解した上で、製造者を炙り出す為に…!?



 空が白み始めている事にも気付かず、レピは思考に没頭した。

 一方、リリニシアがレピに"スウォルの魔物化"を切り出した頃、洞窟の中では──。

お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。

また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は本日24時頃にXでの先行公開を、明日19時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

レピがガガーニムの狙いを推測し、思考に没頭するより少し時を遡り、洞窟の中でリエネはクレンと交わしたやり取りを振り返る。


次回「リエネとクレン」

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